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「『ノーベル平和賞』ってどんな賞?」(くらし☆解説)

出川 展恒  解説委員

今年のノーベル平和賞が、日本時間のきょう夕方、発表されます。毎年、内外でさまざまな予想が飛び交い、授賞をめぐって論争も起きる賞ですが、いったいどうやって決まるのか、平和賞にはどういう意義があるのかを考えます。
国際問題担当の出川展恒解説委員です。

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Q1:
出川さん、ノーベル平和賞と言えば、毎年、大きな話題になりますね。

A1:
そうですね。ノーベル平和賞は、平和の促進や軍縮などに貢献した個人や団体に贈られる賞です。近年は、人権の擁護や民主化への貢献も授賞理由になります。

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こちらは、話題になった受賞者です。6年前、2014年には、パキスタンの17歳の少女、マララ・ユスフザイさんが史上最年少で受賞しました。イスラム過激派による攻撃にさらされながらも、すべての子どもと女性が教育を受ける権利を訴え続けたことが評価され、その取り組みは世界に大きな影響を与えています。

Q2:
ノーベル平和賞は、どのように選ばれるのですか。

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A3:
ノーベル賞のほかの5つの賞は、スウェーデンの団体が選考しますが、平和賞だけは、ノルウェーの議会が任命した5人の元議員でつくる「ノーベル賞委員会」が選びます。 ノーベル賞を創設したスウェーデン人の化学者アルフレッド・ノーベルの遺言に基づくもので、ノルウェーが中立的な選考ができる国と考えたためとみられます。
「ノーベル賞委員会」は、毎年、世界各国の有識者や議員などから推薦された候補者の中から、受賞者を絞り込みます。受賞者の決定は、全会一致が原則ですが、期限までに決まらない場合には、多数決で決めます。1901年から去年までの間に、107人の個人と、延べ27の団体が受賞しています。
ノーベル賞のほかの賞は、確固とした業績に対し、ある程度の期間を経て、与えられますが、平和賞は、「現在進行形の事柄に関わる人物や団体」も受賞の対象となります。その活動が将来にわたって実を結び、目標が達成されることに期待して、それを励ます意味も込めて、賞が与えられることもあるのです。

Q3:
具体的に、どんな例がありますか。

A3:
たとえば、2009年、就任まもないアメリカのオバマ大統領の受賞です。オバマ氏が演説で訴えた「核なき世界」についての理念が実現することへの願いが込められました。

私自身も、典型的な例を取材しました。今から26年前、1994年のことです。
当時、私は、エルサレムに駐在し、中東和平プロセスを報道していましたが、イスラエルのラビン首相、ペレス外相と、PLO・パレスチナ解放機構のアラファト議長の3人に、平和賞が贈られました。この3人は、前の年、アメリカのホワイトハウスで、歴史的な「パレスチナ暫定自治合意」に調印し、和平の機運が盛り上がりました。パレスチナ問題を解決に導いてほしいという期待を込めた賞でした。

Q3:
しかし、その後、イスラエルとパレスチナの和平は、うまく行っていませんよね。

A3:
はい。その後、双方の暴力や合意違反のため、和平交渉は頓挫しました。受賞した3人も、すでにこの世を去り、和平実現への希望は消えかかっています。あの平和賞は、いったい何だったのかという疑問の声もあがっています。ノーベル平和賞は、常にそういった問題と隣り合わせにあると言っても過言ではありません。

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受賞した人物の、その後の行動をめぐって抗議運動が起きることもあります。1991年、ミャンマーの民主化運動の指導者として受賞したアウン・サン・スー・チー氏は、現在、事実上の最高指導者に上りつめましたが、少数民族のロヒンギャの人々への迫害をやめさせるための行動をとっていないとして、平和賞の取り消しを求める抗議運動が世界中で起きました。
さらに、受賞者の出身国の政府との間でトラブルを招くこともあります。2010年、中国の基本的人権を確立するため、非暴力の闘いを続けたとされた劉暁波氏の受賞には、中国政府が激しく反発しました。
とかく政治の影響を受けやすく、議論を呼びやすいのが平和賞です。

Q4:
今年は、どんな人物や団体が候補に挙がっているのですか。

A4:
ノーベル委員会は、今年、318の個人と団体が候補に挙がっていると発表しましたが、その具体名は公表しない方針です。世界各国の研究機関やメディアがさまざまな予想を立てています。 

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毎年、受賞者を予想しているノルウェーの「オスロ平和研究所」は、▼今年の最有力候補として、国際的なNPOの「CPJ=ジャーナリスト保護委員会」を挙げています。CPJは、世界各国の言論弾圧などの実態を調査し、報道の自由の擁護などに取り組んできました。おととし、サウジアラビアの著名なジャーナリストが、トルコ国内で殺害された事件では、サウジアラビア政府に対し、説明責任を果たすよう強く要求するなど、近年注目を集めています。
▼また、香港の民主化運動のリーダーも候補です。香港では、容疑者の身柄を中国本土に引き渡せるようにする条例の改正に反対する市民による大規模な抗議行動が続いています。「オスロ平和研究所」は、「雨傘運動」と呼ばれる抗議行動を主導した羅冠聡氏を候補に挙げていますが、中国政府はこれに神経をとがらせています。
そして、今年も注目を集める女性の候補がいます。

Q5:
誰でしょうか。

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A5:
▼ひとりは、ニュージーランドのアーダーン首相です。去年3月、イスラム教のモスクが白人至上主義の男に銃撃され、51人が犠牲になった事件の対応で注目されました。イスラム社会に寄り添う態度を国民に示し、宗教や民族の違いを超えた連帯を呼びかけました。さらに、新型コロナウイルスへの対応でも、早い段階から入国や外出の制限に踏み切り、感染の抑え込みに成果を挙げました。
▼もう一人は、スウェーデンの17歳の少女、グレタ・トゥーンベリさんです。地球温暖化を止めるためには、温室効果ガスを大幅に減らさなければならないと、科学者が警告しているのに、政府や政治家は十分な対策を進めていないと、抗議の声を上げ続けています。たった1人で始めた活動が、同世代の若者たちの共感を呼んで、国境を越えて広がり、世界の政治家まで動かすようになりました。

Q6:
なるほど。これらの人物や団体は、いずれも、現在進行形で活躍していますね。日本からも、候補は出ていますか。

A6:
3つの団体の名前が挙がっています。

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▼「日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会」。広島と長崎に投下された原子爆弾によって被爆した人たちの全国組織です。被爆者の立場から核兵器廃絶を世界に向けて発信し続けてきました。
▼「九条の会」。ノーベル賞作家の大江健三郎さんなどが呼びかけ人となり、16年前発足しました。戦争を放棄し、戦力を持たないことを定めた憲法9条を守ろうと活動しています。
▼そして、「憲法9条を保持する日本国民」。これは、憲法9条を世界に広めようと活動しているグループが、日本国民をひとつの“団体”と位置づけて、受賞を目指しているものです。

Q7:
ノーベル平和賞の発表は、日本時間のきょうの夕方6時ですね。

A7:
はい。あと8時間足らずに迫ってきました。いま、ご紹介した団体や個人も、あくまで予想の域を出ません。もしかすると、誰もが驚く受賞者が出るかもしれません。私たちは、選考結果と授賞理由に込められたメッセージをじっくり考え、その問題の解決に向けた行動を起こす姿勢が、大切ではないでしょうか。

(出川 展恒 解説委員)

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