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「終電の繰り上げ 社会への影響は?」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

JR西日本と東日本は、来年春から、終電の時間を早い時間に繰り上げる方針を相次いで発表しました。私たちの暮らしや社会にどう影響するのでしょうか?今井純子解説委員。

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【終電は、どのくらい早くなるのですか?】
まず、動きが早かったのはJR西日本です。来年3月のダイヤ改正から、例えば、大阪駅を出る終電は、今のダイヤ=黒い文字の0時半前後から、赤い文字の0時台前半に。そして、京都駅を出て大阪方面に向かう終電は、0時前へと。今より最大で30分早くなります。

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【JR東日本は?】
JR東日本は、今月中に、具体的な運行ダイヤを公表するとしていますが、来年春から
▼ 東京駅から100キロ圏内にある首都圏の路線で、やはり終電の時間を30分程度繰り上げる方針です。熱海とか、高崎、成田あたりも対象になってくる可能性があります。
▼ また、一部の路線については、始発の時間を遅くすることも検討するとしています。

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【新幹線はどうなのですか?】
今回は、在来線だけが対象で、新幹線は対象外になっています。

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【私鉄はどうなのですか?】
首都圏で西武鉄道が終電の時間を20分から30分ほど繰り上げる方向で検討しているほか、小田急電鉄と京浜急行電鉄、さらに、九州の西日本鉄道も終電の繰り上げを検討しています。さらに広がる可能性はあります。
このように、大規模に終電の繰り上げが検討されるのは、異例のことで、これまで「利用者の利便性」を最優先にしてきた鉄道会社にとっては、姿勢の大転換とも言えます。

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【なぜ、今、終電を繰り上げるのですか?】
そもそもの最大の理由は、「線路などの保守・点検にあたる作業員の確保」です。古くなった線路の交換、それに駅のホームドアやエレベーターの設置、といった工事は、終電のあと、始発までの時間に行われています。ですが、深夜の作業。しかも、土日も含めた勤務も多いことから、若い人に敬遠されて、なかなか人材が集まらない。すぐに辞める人も多いというのです。JR東日本の話では、首都圏の作業員の数は、この10年で20%減少。今後10年で、さらに10%から20%減る見通しです。一方、工事の量は、設備の老朽化が進んでいるほか、安全・バリアフリー化の取り組みも求められていることから、この10年で10%増えています。このままでは、鉄道の安全を守るための工事に必要な人材が確保できなくなる恐れがあるというのです。西日本も、事情は同じです。

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【終電の時間が早くなっても、深夜の作業に変わりはありません。なぜ、人材の確保につながるのですか?】
今、作業ができる時間は、おおむね1日、3時間半程度。それを、終電を早めて、30分から40分増やすことができれば、大型の機械なども使って、一晩にまとめて、効率的に作業を進めることができます。それによって、作業員の休日を増やすことができ、人材の確保につながるのではないか、という思いがあるのです。利用者からみても、作業が効率化すれば、ホームドアなどの設置が進むことも期待できるかもしれません。

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そして、人材の確保に加えて、終電繰り上げの動きを後押ししたのが、新型コロナの影響です。

【コロナの影響ですか?】
新型コロナの感染拡大で、テレワークやウェブ会議、それに、ネットショッピングの動きが一気に広がり、電車に乗って会社や買い物に行く人が、減りました。特に、深夜の時間帯は、もともと働き方改革で利用者が減る傾向にあったところ、テレワークの動き、さらに、夜の飲み会を避ける動きも加わって、一気に利用が減りました。
例えば、
▼ 山手線の8月の平日の乗客は、一年前の同じ月と比べて、38%減っています。特に午前0時台は、66%減っています。

【確かに電車は、一時より混んではいますが、コロナ前と比べるとすいていますよね】
この結果、JR東日本、西日本ともに、今年度、大幅な赤字に転落する見通しです。そして、テレワークなどの動きは、この先も、定着する。コロナの終息後も、利用者は元の水準には戻らないという見方が強まっています。こうした中、今なら終電を早めても、利用者からの反発は少ないのではないか。さらに、コストの改善にもつながる。こうした思いが、各社の背中を押した形です。

【コストの改善にもつながるのですね?】
はい。深夜の列車の本数を減らすことで、運行コストが減りますし、駅の営業時間が短くなることで、駅員の深夜手当を減らすこともできます。JR東日本では、年間10数億円、西日本も数億円のコストを減らすことができるとしています。

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【ただ、利用者が減っているとは言っても、終電の繰り上げは、いろいろな影響がありそうですね】
JR西日本だけでも、1日あたりおよそ1万5000人に影響がでるとみられています。JR東日本や私鉄をあわせると、影響はさらに大きくなります。
▼ 飲食店からは、終電の時間が早くなると、減っている売り上げがさらに減るという心配の声があがる一方、
▼ タクシーや駅前のホテルなどからは、若干でも利用者が増えるかもしれないという期待の声もあります。
全体的には、深夜の利用者が減っていることや、働き方改革をさらに進める必要もあることから、終電の繰り上げは、やむをえないことだとは思います。ただ、
▼ 一番心配なのは、深夜まで働いている人たちへの影響です。

【医療従事者の方や工場などで深夜シフトの方はいますよね】
こうした人たちが困らないよう、
▼ JRや私鉄、バスとの間で接続が悪くならないよう連携をしたうえで、
▼ 一定の利用者があるところでは、深夜バスや乗り合いタクシーなどの運行も検討するなど、きちんと対策を取ることは欠かせないと思います。

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【一方、終電前の電車がすこし混雑したりする心配はありませんか?】
電車の中が密になる事態は避けないといけませんよね。
例えば、JR東日本は、コロナ終息後も見すえて、
▼ 普段より遅くまで飲食店にいる人が多い、金曜日の夜などについては、終電前の時間帯に臨時列車を増やすことを検討しているほか、
他の鉄道会社も含め
▼ オリンピック・パラリンピックや初詣といった特別な時期や、スポーツやコンサートなどのイベントがある時は、随時、臨時列車を増やすなど、対応していくとしています。

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【きちんと、対応してほしいですね】
そうですね。
もともと、人手不足を背景に、コンビニの24時間営業など、深夜まで働くのが当たり前という社会を見直そうという動きは始まっていましたし、コロナで加速していました。それが、今回の、終電の繰り上げによって、その動きが、コロナの後も、元には戻らないということを突きつけられたように感じています。それだけに、私たちも、効率的な働き方や飲食店の深夜営業、さらに地域の交通など、新たな時代に向けての、生活、そして社会のあり方全体について、改めてきちんと考えていくことが求められている。そのように思います。

(今井 純子 解説委員)

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