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「ビール税率変更で 家計への影響は」(くらし☆解説)

神子田 章博  解説委員

酒税法の改正で今月1日からビール系飲料の税率が見直され、「ビール」の税率が下がり、「第三のビール」の税率があがりました。どのような背景があるのか、私たちの家計にどう響くのか経済担当の神子田解説委員に聞きます。

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Q まず神子田さん、税率はどう変わるんですか?

A ビール系飲料は、麦芽の比率などに基づいて、「ビール」「発泡酒」そして「第三のビール」の三つに分類されるのですが、こちらをごらんください。

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それぞれの税率は、先月まで、いずれも350ミリリットル換算でビールが77円、発泡酒が46.99円、第三のビールが28円だったんですが、今月1日から、ビールは7円引き下げられて70円に、第三のビールは9.8円引き上げられて37.8円となりました。

Q 発泡酒は変わらないんですか?

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A 今回は変わらないのですが、この税制改正続きがありまして、最終的に6年後、令和8年の10月には、すべての税額が54.25円に統一されることになっています。こうした税率の引き上げは、お店にもよりますが、相応の販売価格の値上がりにもつながっています。

Q そうするとビールは値下がりしますが、第三のビールは値段があがるわけですね。第三のビールは値段が安いので、庶民の味方ともいわれてきましたが、これは家計にも響きますね?

A 消費者からも、「安くておいしくなってきたのに残念」「本数を減らしてほかのお酒にしようかな」という声が聞かれます。私も、個人的な感想ですが、第三のビールが最近美味しくなってきたと感じていて、第三のビールの商品開発に力を注いできたメーカーにとっても痛いところです。

Q なぜこうした税率改正が行われるのでしょうか。

A 財務省は、同じような飲み物なのに、税額の違いによって、販売数量や、メーカーの商品開発に影響を与えるのは、好ましくないので、その状況を改善するためだと説明しています。ここでビール系飲料の歴史を簡単に振り返ってみます。

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もともと酒税法ではビールの定義というのを定めていて、おととしまでは、「水とホップをのぞいた原料のうち、麦芽の割合が67%以上使用したもの」をビールと定義していて、「67%未満」のほかのビール系との間で、税額に大きな差を設けていました。この麦芽というのはコクとうまみのもとになるもので、かつては、麦芽の量が一定以上ないとおいしいビールは作れないと考えられていたんですが、平成6年には、麦芽比率が67%未満の発泡酒の商品化に成功。さらに、平成15年には、麦芽を使わない新しいジャンル=第3のビールが誕生しました。ちなみに、この第3のビールには、麦芽を全く使わないものと、発泡酒にリキュールを加えたものがあります。その後第3のビールはぐんぐんと売り上げを拡大しまして、いまではビールに肉薄するまでにいたっています。このため、今回の税制改正をめぐっては、こんなに売れている第3のビールから、当局がもっと税金をとろうとしたかったのでは、と思う人もいるようですが、一方でビールでとられる税金は少なくなります。

Q 第3のビールがこれだけ増えているのは、やはり消費者の節約志向があるんでしょうか?

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A そのことを裏付ける興味深いデータがあります。
こちらビール酒造組合などが今年6月に消費者1000人を対象に調査結果です。ビールを飲んでいる理由を聞いたところ、「おいしいから」が81.9%でトップ、飲み心地が良いが48.3%と、味で選んでいるという理由が多いのに対し、第三のビールは安いからが断然多くて73%と、やはり経済的な理由から選んでいる人が多いということですね。

Q ビールに関係する企業にも影響が大きいでしょうね

A そうですね。まずビールや発泡酒、新ジャンルがどのように消費されているかというと、こちらの円グラフをごらんください。

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発泡酒や第三のビールがいずれも97%が家庭で消費されているのに対し、ビールは46%が、レストランや居酒屋など業務用です。そして今年コロナ禍でそれぞれの売り上げがどうなったかというとこうなりました。

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こちらの折れ線グラフを見ると、家で飲まれる第3のビールは、巣ごもりをする人が増えたため、去年より出荷が増えたのに対して、業務用の需要の割合が多いビールは飲食店などの営業自粛や外食自体が減った影響で大幅に減少しています。 
こう見てみますと、今回のビールの税率の引き下げは、会社帰りなどに外で飲む人たちの懐には優しく、第三のビールの税率引き上げは、家で飲む人の財布に打撃、ということになります。
こうした中、ビール業界としては、今回の税率引き下げをきっかけに、家庭用だけでなく、業務用でも巻き返しをはかりたいと考えています。そしてビールの売り上げを増やしたいと思っているのはビールメーカーだけではありません。
全国で150店舗を展開する飲食チェーンでは、今月1日から店内で提供するほぼすべてビールについて、今月1日から10円から30年値下げしました。このチェーンでも、新型コロナウイルスの影響で、先月も来店客数が去年の半分程度にとどまるなど、厳しい経営状況が続いています。このため今回の税率見直しをきっかけに、ビールの値下げをアピールすることで、少しでも来店客数や売り上げの回復につなげたい考えです。

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今回の税率の引き下げは、全国に300あるといわれるクラフトビール=地ビールメーカーにも追い風になるとみられますが、実は政府は、ビールメーカーの製品開発の余地を広げようと、おととしからビールの定義を変えているんです。具体的にいいますと67%以上としてきた麦芽比率を50%以上とし、使用してよい原料の範囲を果実やコリアンダーなどの香料にも広げました。実際にこれをきっかけに国内のクラフトビールメーカーは急増しています。財務省としては、国際的にも競争力のあるビールが開発されるのが、定義変更の狙いのひとつだとしています。

Q 税率のあがる第三のビールは今後も残っていくのですか?

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A はいさきほどのグラフをもう一度ごらんいただきたいのですが、第三のビールをのむ大きな理由の一つに、機能性があるから、ということが挙げられています。機能性とはアルコール、糖質、カロリ-、プリン体などをゼロにしたビールですが、こうした商品は麦芽比率が高いと作りにくく、発泡酒や第3のビールで製品開発が進んできました。メーカー側は今後も技術開発を通じて、ビールと差別化した形でこうした商品の価値を高めてゆきたいとしています。実は、コロナ禍で運動不足となったという理由で、こうした機能性をもつ商品を買い求める人が増えているということで、今月からは、ビールとしては初めて糖質ゼロをうたった製品も登場しました。こうした新製品の開発には、これまで発泡酒や第三のビールで培った技術が役に立っているということです。
2026年にはビール系飲料の税率が完全に統一されるわけですが、それまでに、各社の製品開発技術が向上し、美味しくてかつ健康志向にこたえる様々なビール系飲料が商品化されることを期待したいと思います。

(神子田 章博 解説委員)

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