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「新型コロナのトラブル 『ADR』 で解決!?」(くらし☆解説)

山形 晶  解説委員

新型コロナウイルスの影響が長引く中、家賃の支払いやイベントのキャンセルなど法的なトラブルが増えることが予想されます。
こうした中、注目されているのが、裁判よりも費用がかからず、速く解決につながる「ADR」という手続きです。

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【ADRとは】

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「Alternative(代替的)Dispute(紛争)Resolution(解決)」という英語の略です。
つまり「裁判の代わりに、別の手段でトラブルを解決する手続き」です。
これらを「ADR」と呼んでいます。
代表的なのは裁判所に申し立てる「調停」です。
弁護士会が行う「和解のあっせん」という手続きもあります。
コロナ関連のトラブルが持ち込まれると予想されるのは主にこの2つです。
ほかにも、全国的な消費者トラブルとか金融とか、専門分野に特化してADRを行っている団体もあります。
裁判所の「調停」は効力が強く、弁護士会の方は夜間や休日も話し合いができたりするという使い勝手の良さが特長です。

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ADRは、裁判は起こしたくないけれど、法的な問題を含むトラブルを抱えてしまった時に向いている手続きです。
最近では、新型コロナウイルスの影響で、「家賃の支払い」「イベントや結婚式のキャンセル」「休業中の給料補償」といったことに関するトラブルが起きていて、実際にADRで解決するケースも出始めています。

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裁判に比べると、「大事にならない」という面があります。
裁判は、裁判所の公開の法廷で審理されます。
費用は、案件によるので一概には言えませんが、例えば百数十万円の金額をめぐる争いだと、書類に貼る印紙代などのほか、一般的には代理人の弁護士をつけるので、その報酬も含めると数十万円はかかります。
期間は半年から1年ほどです。
一方、調停は裁判所、和解のあっせんは弁護士会などで話し合いが行われ、非公開なので人に知られずに済みます。
手数料などがかかりますが、同じく百数十万円の案件ですと、数万円から10万円前後です。
調停や和解のあっせんは、裁判官や、中立の立場の弁護士などが間に入って話し合いを進めるので、自分の弁護士をつける必要はありません。
「味方がほしい」と思えばつけることもできますが、お金がかかります。
期間はおおむね3か月から半年ほどです。

手続きの流れについて、弁護士会のADRを例に説明します。
トラブルを解決したい場合、まずは和解のあっせんを行っている、弁護士会の「仲裁センター」といった名称の窓口に電話をかけます。
電話をかけると、どのように手続きを進めるのか、説明してもらえるので、相談の内容をまとめて、申立書に記入します。
申立書は、センターの窓口に出向いて、その場で記入して提出することもできますし、センターのホームページからダウンロードして、郵送することもできます。
そして、相手が手続きを進めることに同意すれば、話し合いの期日が設けられ、中立の弁護士が間に入って話し合いが始まります。
すぐに和解案を示すのではなく、双方から話を聞いて、お互いが何を求めているかを探ったうえで、納得できるように条件を調整していく形で話し合いを進めます。
裁判のように勝ち負けをはっきりさせるわけではないので、感情的な対立を和らげながら話し合いを進めるとうまくいく場合が多いようです。

【ADRのデメリットは?】
ただ、裁判と比べるとデメリットもあります。

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裁判は相手の同意に関係なく進められますが、ADRは、基本的に、相手が同意していないと手続きが進まなくなります。
2018年度の日弁連ADRセンターのまとめでは、相手が話し合いのテーブルにつく「応諾率」は全体の7割ほどでした。
そして、「結果の強制力」、つまり、財産の差し押さえといった強制的な措置ができるかどうかも違います。
裁判所の「調停」の結果は、裁判の判決と同じ効力を持ちますので、差し押さえなどもできます。
しかし弁護士会の「和解のあっせん」の方は、使い勝手がいい反面、合意の内容が実行されなくても、強制はできません。
ただ、日弁連によると、和解が成立する割合は、話し合いに応諾したケースの5割を超えていて、そのうちのほとんどのケースで合意の内容が守られているということです。

【新型コロナのトラブル 解決につながる?】
今回のように「誰もが困っている」という状況であれば、「お互い様」という気持ちになるので、ADRで解決しやすい、という見方があります。

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実は、東日本大震災の時も、家が壊れて隣の家の建物や車を傷つけたとか、アパートの修理のための立ち退きといったトラブルの解決にこのADRが活用されました。
震災を経験した仙台弁護士会や、そのほかのいくつかの弁護士会では、新型コロナの流行をあの時のような「災害」と捉えて、「災害ADR」という制度を適用して申し立てを受け付けています。
この制度では、手数料が半額以下になります。
さらに、感染防止のために、リモートで話し合いを行えるところもあります。
仙台弁護士会の斉藤睦男弁護士に聞いたところ、「感染の拡大によるストレスに加えて、他人とのトラブルがあるとストレスが倍増するので、早く抜け出して争いごとのストレスから解放される場としてADRを活用してほしい」と話していました。

今回は弁護士会のADRを中心に説明しましたが、会によって手続きが異なることもありますので、お近くの弁護士会に確認してください。
裁判所や法務省などのホームページにもADRの説明が出ていますので、参考にしてください。
相手と契約を結んでいたり、勤め先から組織としての方針を示されたりすると、それに従うしかない、と考えてしまう方も多いと思います。
ただ、コロナのような「不可抗力」と言える状況であれば、柔軟に対応してもらえるかもしれません。
深刻な状態に追い込まれる前に、ADRの活用も考えてみてはいかがでしょうか。

(山形 晶 解説委員)

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