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「生活費の特例貸し付け延長 その先は?」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

新型コロナウイルスの影響で、生活が厳しくなった世帯が、最大140万円まで借りられる特例制度の受付期間が、12月末まで延長されることになりました。ですが、課題も見えてきています。今井解説委員。

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【コロナ対策では、いろいろな支援策がありますが、この特例制度はどのような制度ですか?】
これは一時的に必要な生活費を支えようというもので、もともと所得が低い世帯向けにあった制度を、コロナの影響を受けた世帯を対象に、特例として拡充したものです。例えば、
▼ 旅館やスポーツジムなどで働いているけれど、お客さんが減ったので、勤務の日を減らすよう言われ、収入が大幅に減った。
▼ 飲食店やみやげもの屋を経営しているけれど、売り上げが減って、店の経費だけでなく、生活費も苦しくなった。
このように新型コロナウイルスの影響で、収入が突然減った世帯に対して、
▼ とりあえず一時的な生活費に困っている場合、無利子で20万円まで借りられる「緊急小口資金」
▼ さらに、生活の立て直しに必要なおカネを、これも無利子で3か月間、毎月20万円まで借りられる「総合支援資金」
この2つの制度があります。
いずれも、1年間は返さなくてもよく、その後、緊急小口は2年以内、総合支援資金は10年以内に分割して返すことができます。

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【窓口はどこになるのですか?】
いずれも、市区町村の社会福祉協議会です。比較的簡単な手続きで
▼ 緊急小口は1回だけ。
▼ 総合支援資金は、3か月を1回延長して、最大、6か月、120万円まで借りられます。
緊急小口の後、さらに総合支援資金を利用することができますので、あわせると1世帯、最大140万円まで借りることができます。
先ほども言ったように、もともとは、所得が低い世帯を対象にした制度でしたが、3月に、政府の緊急対策として、コロナの影響で収入が減った世帯は、所得の要件をなくしたり、小口資金については、借りられる上限を10万円から20万円に引き上げたりといった特例を設けました。
また、返済が始まる時点で、まだ所得が減っている住民税非課税の世帯は、おカネを返さなくもよい、という特例も設けられました。

【突然、収入が減った方を、なんとか支えようということですね】
はい。そして、この特例の受付期間。9月末までになっていたのですが、政府は、先週、緊急小口、総合支援資金、その延長、いずれについても12月末までに延ばすことを決めました。

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【少し人の動きが活発になってきてはいますが、それでも、利用する人が多いということですか?】
そうなのです。特例での受付が全国で始まった3月25日から、今月12日までに
▼ 小口資金は、73万件あまりの申請、
▼ 総合支援資金は、1回目だけで38万件あまりの申請がありました。
総合支援資金は、およそ95%とほとんどが、まず小口資金を借りた上で、足りなくてさらに借りている方になります。それでも足りず、延長する人も増えています。
そして、今も、一週間に、それぞれ2万件近く、あらたな申請がでているということです。

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【生活が厳しいという方、本当に多くいらっしゃいますよね】
民間企業で働いている人を対象にした、こちらの8月の調査では、家計が赤字になって、貯蓄を取り崩したという世帯が20%に上りました。特に、非正規社員やフリーランスなど、弱い立場の人たちが、厳しい生活に追い込まれています。貯蓄がないという人も心配ですが、これまで、なんとか蓄えを取り崩して生活してきた人たちも、このままでは蓄えが底をつく心配がでてきています
さらに、今後、仕事を失う人が一段と増えるのではないかという懸念もあります。

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【それも心配ですね】
はい、というのも、人の動きが多少回復しても、コロナ前には戻らない。「新たな日常」が長期化するのではないか、という懸念が強まっているからです。例えば
▼ テーマパークや劇場、飲食店などでは、感染防止のために、一度に利用する人数を制限する動きが続くとみられます。
▼ また、外国人の観光客は当面戻ることが期待できませんし、加えて、在宅勤務やウェブ会議が定着しています。出張でホテルや旅館に泊まったり、交通機関を利用したりする人も、コロナ前の水準には戻らないのではないか、との見方が出ています。

【経済活動が戻ってきても、仕事によっては、コロナ前の状態に戻らないかもしれない。それは厳しいですね】
そうなのです。感染が広がった当初は、影響は一時的。そこをしのげば、元に戻ると考えて、雇用を支えてきた企業も多くありました。ですが、この状況が長期化するという見方が強まるにつれ、事業を縮小したり、見直しをしたりする動きが本格化して、それに伴い、雇用を減らす動きも増えるのではないかと懸念されているのです。

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実際、先週は、
▼ 国内のテーマパークで、パレードに出演するダンサーについて、当面パレードの本格的な再開が見込めないとして、園内のほかの業務への配置転換を求める。合意できない場合は退職を促す。
▼ また、アメリカの大手航空会社が、成田空港にある客室乗務員の拠点を、閉鎖する方針を決め、海外の拠点に移れない客室乗務員が仕事を失うおそれが出ている。
といったニュースが相次ぎました。

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【それで、今回、特例制度を延長して、生活に困る人を支え続けようということですね】
はい。ただ、事態が長期化することで、課題も浮かび上がってきています。
▼ まず、無利子とは言っても、あくまでも借金です。住民税非課税世帯など、おカネを返さなくてもよい条件にあてはまらない場合、借りてから1年後に始まる返済がその後の生活に重くのしかかる心配がでてきます。
▼ さらに、秋以降、満額まで借りて、この制度ではもう借りられない人がでてきます。その先、高い金利のローン、あるいは、ヤミ金融に手を出す人が出てくる心配もあります。

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【どうしたらいいのでしょうか?】
もともと、総合支援資金の制度は、自治体などの支援窓口で、家計の見直しや新しい仕事を探すための支援を受け、生活を立て直すまでに必要なおカネを貸すという制度です。コロナで一刻も早い貸し付けが求められたことから、郵送など簡単な手続きを認めてきましたが、厚生労働省は、10月以降、貸し付ける場合、原則、相談支援を受けることとしました。ただ、実際には、窓口がパンク状態になっていて、丁寧な支援ができない窓口も多いということです。
▼ まずは、ひとりひとり生活実態を丁寧に聞き取れるよう、相談態勢を強化することが欠かせません。
▼ そのうえで、元の仕事で元の収入に戻るのが当面、難しい人については、国・自治体をあげて、次の仕事を探せるよう支援する。必要な場合は生活を支えながら職業訓練も受けられるようにすることが大事です。
▼ そして、次の仕事を探すことがどうしても難しく生活が立ち行かなくなる心配のある人は、生活保護などにつなげることも必要になってくるかもしれません。

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緊急的・一時的に生活を支える支援から、事態の長期化をにらんだ、生活再建につながるきめ細かな支援へと、支援のあり方を見直すことが必要な時期にきているように思います。

(今井 純子 解説委員)

緊急小口の後、さらに総合支援資金を利用することが

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