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「異常気象に新型コロナ クマに要注意」(くらし☆解説)

名越 章浩  解説委員

ことしも各地でクマの目撃や被害が相次いでいます。名越章浩解説委員がお伝えします。

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【主なクマの出没・被害】
日本には、本州以南に生息しているツキノワグマと、北海道にしかいないヒグマの2種類のクマが生息しています。ことしも各地で被害が確認されています。

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先月29日には、秋田県で自転車で帰宅途中の男子高校生が前から向かってきたクマにすれ違いざまに左ひざをひっかかれ軽いけがをしました。
群馬県では、川で釣りをしていた男性2人がクマに襲われ、けが。
鳥取県では、80代の男性が、水路の掃除中に足をかまれてけがをしたということです。

【ツキノワグマの出没・目撃件数】

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環境省がまとめているツキノワグマの出没・目撃件数を見てみましょう。
2016年度は死者も出て、全国的にクマの目撃や被害がとびぬけて多かった年でしたが、昨年度はそれをさらに上回り、統計が公表されて以降、最も多くなっていました。
今年度は、まだ7月末現在のデータまでしか公表されていませんので(9月14日現在)、少なく見えますが、クマは、これからの季節、冬眠前の秋に出没が増えるので、今年は今後、例年以上に増える地域が出てくることが心配されています。
特に、岩手県では、クマに襲われてけがをした人の数が、過去5年間で最も多いペースとなっています。

【クマの目撃件数が多いのはなぜ?】
では、クマの目撃件数が多いのはどうしてなのでしょうか。

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もともと、山奥で暮らすクマと、人間社会との間には「里山」があって、そこが緩衝地帯となっていましたが、過疎化などの影響で今は里山がどんどん荒廃していますので、それによってクマの活動範囲が広がり、目撃情報が増えているという根本的な問題があります。またクマの頭数そのものが増えて、生息域が広がっていると考えられている地域もあります。
しかし、今年は、別の事情も加わっているのではないかと考えられているのです。
それが、異常気象と、新型コロナウイルスの影響です。

【異常気象と新型コロナウイルスの影響?】

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まず、ことしの冬は暖冬でした。
本来、ツキノワグマは、餌の少ない12月から3月、4月ごろまで冬眠をします。
ところが今年は、東北地方や北陸地方で、1月、2月の真冬の時期でもクマの目撃がありました。NGOの日本クマネットワークの副代表で、東京農工大学の小池伸介准教授は、「暖冬のため、冬眠できなかったり、目が覚めてしまったりしたクマが人里に迷い込んできたと考えられる」と話しています。

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そして春。ここで新型コロナウイルスの影響が出てきます。
4月、5月は外出自粛で、人々が活動を抑えました。このため、人があまり存在しない、あるいはあまり活発でないということで、クマが活動範囲を広げてきたと考えられます。小池准教授は「クマが静かな状況に慣れて、だんだん大胆になって、人間との距離が縮まってしまったと考えられる」と話しています。
そのあと、自粛が終わり、再び人間が活動するようになったので、目撃情報が増えている可能性があるということです。
つまり、クマ社会と人間社会が一度接近したことで、それまでのバランスが変わってしまい、この時期に目撃件数が増えた可能性があるというのです。

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そして、ことしは6月以降、梅雨が長引き、日照不足となりました。
このため、小池准教授は「この時期に餌となるキイチゴやサクラの果実、それにアリなどを、十分、食べられず、人里に降りてきた可能性がある」と話しています。

【秋はドングリの生育状況が心配 出没が増えるか】

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さらに8月は各地で猛暑となりました。
その猛暑と、それまでの長雨の影響により、今年の秋のドングリの生育に影響を及ぼす可能性が心配されています。
ドングリは、クマにとって相当重要な餌です。
というのも、クマはこれからの数か月で、冬眠中に必要なエネルギーを一気に摂取しなくてはいけません。そのため、昼夜問わず、ドングリを食べるのです。
小池准教授によると、1頭が1日に5000粒から6000粒のドングリを食べるそうです。
そのドングリが生育不良となると、餌を求めて人里へやってくる機会が増える可能性があるのです。

【私たちにできること】
では、私たちはどうすれば良いでしょうか。
まずは、そもそもクマが出そうな場所には近づかないことが重要です。

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それでも山のレジャーなどに出かける場合は、鈴やラジオを鳴らし、定期的に大きい声を出すなど音を出してください。クマは臆病な動物ですから、人間の存在を知らせてあげて欲しいのです。
そして、出かける先のクマの出没情報を事前にチェックしておきましょう。

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そして、もしクマに遭遇してしまったら、そのときは落ち着いて、背中を見せないようにして後ずさりをしてクマとの距離をとりましょう。背中を見せて逃げるとクマは追いかけてくる習性があります。しかも、足が速いので、すぐに追いつかれます。

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また、住宅地にあらわれるケースもあります。
このため私たちが、クマを誘い込むような状況を作らない工夫が必要です。
例えば、人里の中に柿や栗の木があると、餌を求めてクマがそこへ定着する可能性が高まります。
栗や柿の木などは早めに収穫するとか、放置されている木の場合は、今のうちに伐採しておくなどの工夫が必要です。
また、外出自粛で家庭のゴミが増えていると思いますが、山に近い地域では、生ゴミなどの臭いのする食べ物を外に置いておかないなど、クマを誘い込まないようにしましょう。

【クマの生態を正しく理解し正しく恐れましょう】
忘れてはないのは、クマは、生態系の重要な一員だということです。
クマは、木の実を食べてフンと一緒に種を排出します。行動範囲の広いクマは、森の木々の種を運び、自然を豊かにしてくれる、大切な役割を担っている貴重な存在なのです。
人間の都合だけを最優先するのではなく、人間の側がクマとの無用な遭遇を避ける工夫をするだけでも、お互いが傷つかずにすみます。
クマの生態を正しく理解し、正しく恐れることが重要だと思います。

(名越 章浩 解説委員)

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