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「後継者がいない~事業をどう継承する」(くらし☆解説)

神子田 章博  解説委員

中小企業の間では、後継者不足から、自主的に事業をやめる廃業の動きが広がっていますが、こうした中で、事業を親族でも従業員でもない第三者に受け継いでもらうよう手助けをする動きが活発化しています。神子田解説委員です。

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Q コロナ禍の影響がここでもでているんですね

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A はい。こちらをごらんください。もともと規模の小さい企業では、ごらんのように廃業などの件数が増えていたんですが、民間の信用調査会社が今年7月から先月にかけて、全国の中小企業に行ったアンケート調査によりますと、「コロナ禍の収束が長引いた場合、廃業を検討する可能性がある」と答えた会社は全体の8.5%に上りました。

Q 廃業の動きが広がっている背景には何があるんですか?

A ひとつには、経営者の高齢化です。こちらをご覧ください。

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これは従業員300人未満の規模の小さな企業の経営者の年齢の分布の推移を見たものです。横軸が年齢ですが、1995年のうすいピンクの線から2018年の濃い赤の線へと、年齢層の高割合が増えてきています。高齢化が進んでいるんです。経営者が若い人に切り替わっていけば、平均年齢もここまであがることがないわけですが、そうなっていないんですね。
では、廃業の動きがなぜ広がっているのでしょうか。

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日本公庫総合研究所が、中小企業に廃業の理由についてアンケート調査を行ったところ、子供がいないですとか、子供につぐ意思がないなど、後継者がいないことを理由に挙げた企業が3割近くにのぼっています。さらに、注目したいのは、そもそも誰かに次いでもらいたいとは思っていない。つまり、自分の代で事業を終わらせて良いと考えている人が43.2%に上っています。ところが、廃業した企業でも、6割は直前の経営状況が黒字という調査結果があります。ご本人は店をたたみたいと考えていても、何年も続いている企業のなかには、地域の消費者から必要とされている企業も多いといわれています。例えば身近な飲食店などがそうした例にあたると思いますが、群馬県の高崎市では、あるキャンペーンを行っています。
こちらが、キャンペーンのポスターです。

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Q 食えなくなっても知らないよ?絶メシってなんですか?

A 絶やしてはならない絶品グルメという意味なんです。もともとは高崎市をPRするために始めたプロジェクトで、地元の人に愛されている絶品の味の店を市のホームページで紹介しようと始まりました。

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ところが、そうした店の多くは、経営者も高齢に差し掛かっていて、後継者が現れないと、絶品の味も食べられなくなる、ということで、一部の店については後継者の募集も行ってきたんです。私もこの中華料理のお店を経営するご主人のお話をうかがってきたのですが、こだわりの味を受け継いでくれる人、探すのは容易ではないということでした。

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この絶メシのお店市内の幅広い地域にあって、地元の経済を支える一翼となっているんですが、今後こうした店が後継者難で相次いでなくなってしまえば、地域経済への打撃も小さくはないと思います。これは高崎市や飲食業にかぎった話ではなく、規模の小さな企業と地域が直面する課題なんです。

Q 黒字なのに廃業なんて、もったいないというか惜しいですよね

A そこでいま後継者のいない人の事業を第三者に引き継ぐことを支援する全国的な取り組みが進んでいます。

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例えば商工会議所などが経済産業省から委託を受けて各都道府県で運営している事業引継ぎセンターや日本政策金融公庫が、事業を売りたい側と、買いたい側の仲立ちをする支援を行っています。具体的には、事業を第三者に引き継いでもらいたいという相談を受けて登録する一方、こんな事業を受け継ぎたいという企業の相談を受けて登録します。双方のリストをみながら、この企業とこの企業はお互いにニーズが合うのではないかと判断したら、両者をひきあわせます。

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双方の会社が合意したら、事業承継が成立することになります。企業買収の仲介の専門業者に頼むと300万円から400万円の手数料がとられるのですが、こちらは仲介の数料はとられません。

Q 規模の小さい企業だと、手数料はないというのがありがたいですね。この事業の承継には譲渡する側、買収する側それぞれどういうメリットがあるんでしょうか?

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A まず、売る側の経営者には、事業の継続に加え、従業員の雇用が維持できる。また店舗や設備の解体などの廃業に必要な費用がかからない、事業を売却した代金が手元に残るなどのメリットが考えられます。
一方買収する側ですが、異業種を買収して事業の多角化をはかるとか、同業を買収して市場規模が拡大しない中でシェアを伸ばすとか、最近では人手不足が深刻ですので、買収によって人手を確保できるというメリットもあるということです。
 さらにいま、新しく事業を立ち上げたいという人も事業の買収に興味を示しています。ビジネスを軌道に乗せていた企業を買収することで、地域の顧客や事業に習熟した従業員も引き継げる、店舗や工場・車両など設備や施設面での初期投資も少なくてすむかもしれないということで、起業のハードルが低くなるからです。
こうした仲介や支援によって、事業が受け継がれた実績があがっています。

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例えば創業50年と地元に根付く店をなんとかして誰かに継いでもらいたいと考えていた精肉店の経営者が、事業引継ぎ支援センターによる仲介で後継者が見つかったとか、一方、こちらクルマの駆け込み寺、自動車の販売・整備会社の場合は、独立を考えていた整備士が、買収に必要な資金の調達で相談に乗ってもらったことで受け継ぐことができるようになったといいます。
もちろん誰でも事業を受け継ぐことができるわけではありません。引継ぎには何年もかかるケースもあり根気も要りますし、ある程度の規模の事業になると、損益計算書や財務諸表など経理や財務の知識が必要になってきます。

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このように双方にメリットがある第三者への事業の継承なんですが、事業を譲る側にとっては、会社が人の手にわたるということに抵抗感がある人もいるということで、まずは経営者の方がその気になってくれるか、そこが最初のハードルだということです。

Q 本人たちが、積極的に継ぐ気がないなら、無理に支援しなくてもよいという気がしますが?

A ただ、黒字とか、特色があって人気のある店であれば、その店がなくなるということは、地域の経済の貴重な支え手を失うことにもなりますし、そこに住む人々の心のよりどころ、いわば町の灯が消えてしまうことにもなります。何十年も続いてきた事業には、なにがしかの続いてきた理由がある、地元の人々が認めた価値があるということですから、その価値をどう引き継いでいくのか、日本社会全体で考えるべき課題といえるかもしれません。

(神子田 章博 解説委員)

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