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「新型コロナウイルス アジアで何故 死者 少ない? 『ファクターX』 を探せ!」(くらし☆解説)

矢島 ゆき子  解説委員

◆新型コロナウイルス “ファクターX”とは?

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日本を含めた東アジアや欧米諸国の新型コロナウイルスによる「人口100万人当たりの死者の数」をみてみると、日本が10.2人、韓国6.3人などに対し、スペイン622.3人、イギリス611.3人というように東アジアでの死者の数がかなり少ないことがわかります。(9月1日現在のデータ)

何故、アジアで新型コロナウイルスの死者が少ないのか?理由はまだはっきりとはわかっていませんが、何か解明できていない要因=“ファクターX”があるはずだ、これがわかれば、新型コロナウイルスの対策に生かせ、重症化を防ぎ・死者数を減らせるのではないかと、世界中の多くの研究者が様々な「仮説」をたて、検証しています。

◆“ファクターX”の候補・ACE1遺伝子

“ファクターX”は一つだけではないと言われています。
具体的にどんなことが候補として考えられているのでしょうか。
最近、ACE1(エース・ワン)遺伝子のタイプの違いが、“ファクターX”の候補ではないかという研究が、国立国際医療研究センターから出されました。世界各国のゲノム・疫学データから調べた研究をもとにした解析結果です。
ACE1(エース・ワン)と呼ばれる遺伝子で、地域・人種によって、ACE1が「よく働くタイプ」と、「あまり働かないタイプ」にわかれます。

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調べてみると、スペイン・イギリス・イタリア・フランスなどはACE1が「よく働くタイプ」が多く、日本・中国・韓国・台湾など東アジアは ACE1が「あまり働かないタイプ」が多くいことがわかりました。そしてACE1が「よく働くタイプ」が多いヨーロッパでは死者の数が多く、ACE1が「あまり働かないタイプ」が多い東アジアでは死者の数が少ないことが確認できたのです。このタイプの違いが、重症化に関係しているかもしれないということなのです。

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ACE1は、一体、どんな働きをしているのでしょうか?
ACE1は、血管などの細胞の表面で働いて、血圧を調整しています。ACE1が働くと、血管が収縮し、血圧が高くなるのです。
実は、ACE1以外にもう一つ、ACE2も血圧の調整には欠かせません。血圧が高くなると、ACE2が働き、その結果 血管が拡張し、血圧が下がります。健康であれば、ACE1とACE2はバランスをとりながら働き、私たちの血圧はある程度、一定の状態を保つことができるのです。

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今回の新型コロナウイルスは感染する時にACE2を利用して細胞に入りこむと考えられています。そのためACE2は十分に働くことができずACE1とACE2のバランスが崩れてしまい、時に「炎症」につながるかもしれないのです。特に、ヨーロッパで多かったACE1が「よく働くタイプ」は、この傾向が大きく、場合によっては、炎症がひどくなることで、臓器の障害などにつながり、そのことで重症化したり、時に死につながる場合もあるのではないかと考えられているのです

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また、Kanagawa RASI COVID-19研究が、先月、横浜市立大学・国立循環器病研究センター・量子科学技術研究開発機構 などから発表されました。新型コロナウイルスの重症化を予防するための治療につながるかもしれない研究です。
新型コロナウイルスに感染した高齢者を調べたところ、ACE阻害薬などの高血圧の薬を、感染前から服用していた高齢者は、服用していなかった高齢者に比べ、意識障害を起こした 重症者が少なかった とのことです。今後、さらに研究が進めば、これらの薬を、新型コロナウイルスの重症化を予防する治療薬として使うということがあるかもしれません。
なお、薬の服用については自己判断せず 医師に相談することが大切です。

◆その他の“ファクターX”の候補

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“ファクターX”については、他にもいくつもの候補があります。
・ウイルスや細菌などの病原体を攻撃する免疫の一つ・白血球のタイプの違いが、新型コロナウイルスに対する免疫の攻撃力の違いにつながっているのではないか
・新型コロナウイルスの流行前に、普通の「かぜのウイルス感染で免疫ができていること」が新型コロナウイルスに対しても有効だったのではないか
・BCGワクチン接種の影響

様々な候補がありますが、まだ結論は出ていません。新型コロナウイルスの情報はまだ集められている途中で、見つかっていない情報もたくさんあるのです。もし“ファクターX”が見つかれば、重症化を防ぐことができるかもしれません。その探索に、期待したいと思います。

(矢島 ゆき子 解説委員)

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