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台風シーズン『かつてない大雨』に注意を

土屋 敏之  解説委員

◆25日に気象研究所が「日本の太平洋側に接近する台風が近年増えている」と発表

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 台風の「接近」というのは300km以内に台風が来た場合とされますが、日本には毎年平均11個の台風が接近しています。過去40年間の台風について分析した結果、1980年から99年までに比べ、2000年以降に台風の接近が増えている場所は赤や黄色、緑色で、減っているところは青で示されています。
 特に太平洋側で増加傾向が目立ち、例えば東京だと1.5倍に増えています。しかも、その台風の中心気圧がより低い、つまり勢力が強いものが増えており、また移動速度は遅くなり長くとどまるようになっていることもわかりました。

◆なぜこうした変化が起きている?

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 いくつか理由が挙げられています。まず、近年、日本の南にある太平洋高気圧の配置が変化して、少し西や北の方に張り出すことが多くなっているそうです。風は高気圧の周囲を時計回りに吹くので、これによって台風が日本に近い所を通りやすくなっていると言います。

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また近年、海水温が上昇しているので、大量の水蒸気が蒸発して台風が発達しやすくなっているとされます。
 しかも、これらは台風がもたらす雨量が増えることも示唆します。水蒸気が増え、台風が長く留まるので、大雨が降り続いて被害が大きくなることにもつながると考えられます。

◆大雨といえば先月は記録的な豪雨があったが、これとも関係?

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 そこは複雑なところです。先月の豪雨では熊本県など九州から岐阜、長野、そして山形県の最上川も氾濫するなど大きな被害が出ました。各地で一か月の降水量の最多記録を更新するほどの「かつてない大雨」でしたが、原因は大きく2つ挙げられています。ひとつは梅雨前線が一か月近く日本付近に停滞したこと。もう一つは海水温が高く、大量の水蒸気がこの前線に流入し続けたことです。
 一方で先月は統計史上初めて「7月に台風が1つも発生しない」珍しい状況でした。梅雨時に台風が来るとその影響を受けて大雨になりやすく、一昨年の西日本豪雨もそうでした。ところが先月の豪雨は、台風ゼロでも梅雨前線と海水温の高さで記録的な大雨が降ったわけで、これから台風シーズンには、さらに大雨のおそれもあります。

◆どちらも海水温の高さが原因に挙げられたが、地球温暖化の影響?

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 影響があることは否定できないと思います。先月の豪雨について気象庁の異常気象分析検討会会長の東京大学・中村教授は、温暖化の影響で雨量がかさ上げされた可能性があると指摘しています。一方、台風の接近数が増えていることについて分析した気象研究所の山口主任研究官は、温暖化がどれぐらい影響しているか今、詳しく分析しているとのことで結果が待たれます。

◆長期的な傾向の話だけでなく、今、台風シーズンに入って心配されることも

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 今週25日の日本近海の水温を、平年のこの時期と比べたものですが、平年の夏よりさらに2~3℃も高く、日本のすぐそばで30℃もあります。これほど水温が高いとこれからより強い台風が来るおそれもあり、十分注意が必要です。

◆私たちはどう備えたらいい?

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 まずは、お住まいの地域の「ハザードマップ」を確認しておくことが重要です。ハザードマップは土砂災害や水害など災害の危険を示すため、例えば水害ハザードマップだと、浸水が想定される区域に色を塗って示すなどしています。
 左側は熊本県球磨川流域の浸水想定区域で、赤や黄色で塗られた所が水につかるおそれがあるとされていた場所です。これに対して右側は、先月の豪雨で浸水したと見られるエリアを国土地理院が推定したもので、14人の方が亡くなった特別養護老人ホームを含めかなり一致していました。
 ハザードマップは各市町村が出すことになっていますので、役場のHPを見たり問い合わせてみて下さい。普通は避難所の情報なども載っていますので、自宅からの避難経路を確認し、できれば一度ご家族で歩いてみることをお勧めします。

◆水害ハザードマップについて、きょう8月28日から変わったことがある

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 私たちが部屋を借りたり土地を買ったりする不動産取引の際に、不動産業者側から説明することが義務付けられている「重要事項」というのがあります。そこに今日から「水害ハザードマップの説明」というのが加わりました。
 これまでも、土砂災害や津波の危険があるエリアの物件は説明が義務付けられていましたが、水害のリスクは対象になっていませんでした。それが近年、西日本豪雨などかつてない大雨による水害が相次いでいることで、ようやく義務化されました。
 ただし、これはあくまで新たな取引が対象なので、既に住んでいる場所のリスクは誰かが説明してくれるわけではありません。ですからやはり、ご自身でお住いの場所のハザードマップを確認してほしいと思います。

◆浸水想定区域について懸念される変化も

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 山梨大学の秦康範准教授の研究によると、近年、浸水想定区域に住む人が増え続けていて、今や全国で3500万人以上、人口の3割近くに上っています。秦さんはその原因を、こうしたリスクの高い地域の宅地開発が進んだためと見ています。長期的に、より安全な地域に住めるようにしていく政策をもっと進めていくことも重要だと思います。

◆そのほか私たちが注意することは?

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 大雨や暴風などに際して気象庁が出す、「特別警報」について、テレビなどで表示する際の色の基準を国が決めました。
 これまでNHKでは警報は赤、特別警報はこのような紫色で表示していましたが、新たな基準に沿って今後は特別警報は「黒」に変わります。ぜひテレビの防災情報も注意してご覧下さい。

(土屋 敏之 解説委員)


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