NHK 解説委員室

これまでの解説記事

火星探査へ次々 その狙いは

水野 倫之  解説委員

この夏、各国が相次いで探査機を打ち上げ。
行き先は赤茶けた大地が広がり、南極の二酸化炭素の白い氷が印象的な火星。
現在火星では各国の探査機が活動中で、今回あらたに3機が加わることになり、さながら火星探査ラッシュ。
各国の狙いは何なのか。そして日本はどうするのか、水野倫之解説委員の解説。

k200820_02.jpg

この夏火星探査機の打ち上げが集中したのは、現在火星と地球が接近中で、距離が近くなって探査機が少ない燃料で効率よく到着できるから。
地球は太陽を中心に円軌道。
これに対して火星の軌道は楕円。このため2年2か月ごとにお互いが接近。
今回は10月初めに6200万キロまで最接近。

k200820_03.jpg

すでにかなり近づいて市販の望遠鏡でも模様などが見やすくなっている。
見かけの大きさは、最も遠かった去年8月の6倍以上に、また1等星の28倍明るくなり、小さい望遠鏡でも南極の氷がわかる。

この火星に相次いで探査機が向かった。

k200820_04.jpg

▽先陣を切ったのはUAE・アラブ首長国連邦。
UAEは宇宙機関ができてまだ6年の宇宙では新人、アメリカの協力も得て初の火星探査機を開発。大気の成分などを観測。
▽次いで中国も火星探査機の打上げに初めて成功。
火星をまわる探査機のほか、着陸機とローバーも搭載。3つ同時に成功すれば世界初で、地質構造や土壌の特性を調べる。
▽火星探査の常連のアメリカが打ち上げた探査機は、火星の岩石をさらに詳しく調べようと初めて地球に持ち帰ることを目指す。またローバーを誘導するため、火星では初となる小型のヘリコプターを飛行させる野心的な計画も。
今回UAEは建国50年、また中国も共産党創立100年に合わせた打上げで国威発揚という意味合いもあるが、共通する最大の目的は地球外で初となる生命活動の痕跡を探ること。

k200820_05.jpg

火星に生命がいるかもしれないと考えられ始めたのは100年以上前、例えばアメリカの天文学者パーシバル・ローウェルが火星表面にたくさんの運河のような模様を観測し、火星には運河も作れる文明を持った生命体がいるのではないかと主張。各国の天文学者もこぞって観測。

k200820_06.jpg

その後の詳しい調査で、火星の平均気温は-40度。
大気は地球の100分の1とわずかしかないため気圧が低く、生命に不可欠とされる液体の水は存在できないことから、今では地表には生命はいないだろうと考えられている。
しかし各国の探査機の調査で、過去の火星は、まるで地球のような環境だった可能性が高いことがわかってきた。
探査機が上空から撮影した画像には、液体の水が流れたような地形が、数多く見つかっている。
またローバーが地上で撮影した画像には、めくれ上がった岩盤の下に、大量の小石が散らばる。
よく似た光景は、地球の川の跡でも。
2つを比べるとよく似ていて石の大きさなどから川の流れを研究者が推定。
深さは人の膝くらいで歩くほどの速度で流れていたと考えられている。
火星はかつては地球のように暖かく、液体の水に恵まれた惑星だった可能性が高いというわけ。
しかし火星の表面を保護する磁場がないことで、不毛の地に変わり果てたのかもしれない。
太陽からは電気を帯びた有害な粒子が飛んでくるが、地球は全体が大きな磁石のようになっていて磁場があり、粒子の防護壁の役割。
一方磁場がない火星はこの粒子で大気がはぎ取られ、気圧が低くなって水は蒸発してしまい、大気が薄いため有害な放射線も降り注いで大地は酸化されて、赤茶けた砂漠に変わったと考えられている。
でも地下はまた別の可能性も。

k200820_07.jpg

今も活躍中のアメリカの探査機が、湖があったと思われる場所を掘り返してみたところ、灰色の土。水と岩石の相互作用でできる粘土質の土壌で、火星の地下に今も生命をはぐくむ環境があることを示唆。
実は日本も、火星に関わる探査を計画中。
ただし、行先は火星本体……ではなく火星の衛星。
JAXAの計画では2024年に探査機を打ち上げ、翌年に火星付近に到着。
そして2つある衛星のうち直径27キロの衛星フォボスに接近して3年ほど調査し、その間に着陸して岩石を採取し、2029年に地球に持ち帰ることを目指す。
火星本体ではないのは日本のお家芸を生かそうという事。
日本も1998年に火星探査機を打ち上げたがエンジントラブルなどで軌道投入はできず、火星本体の探査では後れを取る。
ただはやぶさ2のように試料を採取し地球に持ち帰る技術では世界の先頭。
火星やその衛星からサンプルを持ち帰った例はまだなく、成功すれば世界初。
ただ火星本体は重力が強く、直ちに試料を持ち帰ることは難しいため、重力が小さい衛星から持ち帰ろうというわけ。
フォボスは火星と6000キロしか離れておらず、その表面にはかつて火星に衝突した隕石が吹き飛ばした火星の岩石が降り積もっていると考えられていて、その岩石を持ち帰れば火星本体のことがわかる可能性も十分ある。

k200820_08.jpg

接近中の火星は東京渋谷の場合、22:30頃から東の空の低いところに赤く輝く姿が見られる。

(水野 倫之 解説委員)


この委員の記事一覧はこちら

水野 倫之  解説委員

こちらもオススメ!