NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「核融合炉 組み立て開始 ~地上の太陽は実現するか~」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

◆そもそも「核融合」とは?

k200819_1.jpg

k200819_5.jpg

 私たちの体や身の回りの物質も全て、ごく小さな「原子」から出来ています。この原子は中心の原子核とまわりを取り巻く電子からできていますが、「核融合」はこの原子核どうしをくっつけて別の物質に変える反応です。
 例えば水素と水素の原子核をくっつけるとヘリウムという物質に変わって、このとき膨大なエネルギーが発生します。この反応は太陽や宇宙の星が輝くエネルギー源なので、「地上の太陽を実現する計画」とも言われますが、地球温暖化が進む中で、その対策となる将来のエネルギーとしても期待されています。

◆核融合と言っても遠い話に感じるが、実際の施設がもう作られている?

k200819_7.jpg

 そうなんです。ITER(イーター)、国際熱核融合実験炉とも呼ばれてきた国際プロジェクトです。
 冷戦末期に米ソが協力して核融合を実現しようと合意したのが発端で、2007年に世界各国によるITER協定が発効して計画がスタートしました。
 そして、7月末にフランス南部で核融合炉の組み立てが始まり、2025年に運転開始をめざしています。

◆2025年というとあと5年、そんなに核融合の実現は近い話なの?

 2025年に核融合が「実用化」するわけではありません。
 ITERはまだ「実験炉」で、連続して核融合反応を行うのは約400秒、わずか数分間で、実際の発電などは行いません。ITERは、燃料の水素の原子核を超高温にしてぶつけることで、効率よく安定して核融合反応を起こす技術を蓄積するのが目的です。
 その上で今世紀中頃に発電も行う「原型炉」というものを建設して、そこで商業的にペイするかなど実用化の判断をします。
 ですから、もし核融合が実用化され、私たちの暮らしや社会を支えるエネルギーとして普及するとしたら、今世紀末ぐらいになるのではないでしょうか。

◆そもそもなぜ、核融合の実用化をめざしている?

k200819_9.jpg

 期待される理由の一つは、現在の原子力とも共通しますが、二酸化炭素を出さないエネルギーなので温暖化対策になるという点です。しかも、1グラムの燃料から石油8トン分という膨大なエネルギーが取り出せるので、再生可能エネルギーだけでは不安視する向きもある「将来のエネルギーの安定供給」という面での期待もあります。ITERの燃料は水素の同位体である二重水素・デュリウムと三重水素・トリチウムですが、これらの燃料は海水からほぼ無尽蔵に作り出せるとされます。
 こうしたことから、温暖化対策でパリ協定に基づいて日本政府がまとめた「長期戦略」にも「核融合研究の推進」が盛り込まれています。

◆原発のような膨大なエネルギー、というと不安もあるが?

k200819_12.jpg

 新たな巨大技術ですから安全に慎重に進める必要があると思います。ただ、核融合は原理的には、現在の原子力より安全性が高いとも言われます。
 核融合を起こすためには強力な磁場、つまり磁石の力で、超高温の水素の原子核を維持し続ける必要があるため、万一トラブルが起きると自然に止まってしまう、つまり原理的には暴走することがない反応だからです。
 また、原発と違い高レベル放射性廃棄物が出ないという長所もあります。これは、原発ではウランが核分裂して放射性物質ができるのに対し、核融合では水素と水素がくっついて出来るのが、放射性物質ではなくヘリウム風船などに詰めるただのヘリウムだからです。
 とは言え「想定外」のことは起こりえますし、具体的な課題も指摘されています。
 まず、放射能レベルが比較的低い廃棄物は核融合でも出ます。脱原発をめざすNPOは、その量が現在の原発よりむしろ多いのでは、とも指摘しています。
 さらに、燃料である水素の同位体のひとつトリチウムは、福島の汚染水にも含まれる放射性物質です。
 このトリチウムの扱いなど、安全性や環境影響については徹底した管理と社会への十分な説明が不可欠です。

◆安全性などが確保できたとしたら、核融合は実用化される?

k200819_14.jpg

 実用化への最大の課題は、「経済性」かもしれません。ITERの建設費は現在200億ユーロ、2兆5千億円と見積もられていて、日本はおよそ1割を分担しています。なにかトラブルが起きればさらに増える恐れもありますし、次の段階では、原型炉の建設費用も必要になります。現在、日本は核融合に毎年2百億円以上支出していますが、将来的にペイするのか?きちんとした費用対効果の検証も必要です。
 そして、そもそも技術的にもまだ確実に実用化できるとは限りません。既に各国で短時間・小規模な核融合反応は実現していますが、実用化にはより効率よく安定的に核融合を続ける技術を確立する必要があります。
 そこで重要なのは、超高温の水素原子核を制御する技術ですが、実は日本がカギを握っている面もあります。

◆ITER計画への日本の関わりは?

k200819_17.jpg

 今回ITERの「組み立てが開始」されたのは、最重要とも言える部品が日本から納品されたのがひとつのきっかけになっています。差し渡し16m以上ある世界最大級の超伝導コイル、言わば超強力な電磁石です。ITERの中にはこのコイルがドーナツ状に18個並べられ、その空洞の中を超高温の水素が飛び回って核融合を起こす心臓部とも言える部品です。
 ITER計画は、各国が資金や必要な部品などを持ち寄って進めていますが、中でも日本は多くの重要部品の製造を担当しています。また、小型の実験装置を作って核融合の重要なデータを蓄積する役割も担っています。
 一方で日本は、人材面での貢献は不足しているとも言われます。本来、日本は予算と同様に参加する人材も1割を占めることが期待されますが、ITERの職員数では日本人は3%しかいません。
 ITER計画には課題もありますが、科学技術立国としての日本の将来やグローバル人材の育成という面でも、若い世代がこうした国際プロジェクトに出て行って経験を積むことには意義がありますし、それを後押しするような方策も求められると思います。

(土屋 敏之 解説委員)

キーワード

関連記事