「コロナ禍の夏 子供の水難事故を防ぐには」(くらし☆解説)
2020年07月29日 (水)
水野 倫之 解説委員
7月も下旬、夏本番。
しかし今年はすでに多くの子供が水難事故に。
新型コロナウイルスの影響でプール授業の中止が相次ぎ、子供たちが水に慣れていないこの夏は、水難事故に一層の注意が必要。水野倫之解説委員の解説。
今年はコロナの影響で小中学校では夏休みはまだというところも多いがそれでも子供の水難事故多い。
今月も三重県の川で小学6年の男児が、また福岡県の海岸で小学4年の女の子が
亡くなるなど、中学生以下の子ども4人が溺れて亡くなっている。
水難事故を研究する水難学会のまとめでは、暑い日が増え始めた5月以降、
全国で少なくとも11人の子どもが溺れて亡くなっている。
ここ数年は、年に20人から30人の子供が水難事故で亡くなっているが、
多くが夏休みに入ってからなので、すでに11人というのは例年よりも多いということ。
なぜ今年は多いのか
水難学会の会長で長岡技術科学大学の斎藤秀俊教授は、
コロナの影響で小中学校が休校や分散登校となり、子供の自由な時間が増えたこと。
また感染予防のためとして学校のプール授業が地域によって中止になったことが
影響している可能性を指摘。
まず11件の事故をみると、半分近くが夏休み前の平日に発生。
斎藤会長によると平日の子供の事故は去年まではほとんどみられなかったと、
例年なら学校や塾で忙しかった子供がコロナで家にいる時間が増えて、
少し暑くなると近くの川などに遊びに行くケースが増えたためではないかというわけ。
またプール授業は子供たちが水の怖さを知るという意味で極めて重要。
昔のプール授業は、クロールなどでいかに速く泳ぐかが中心。
しかし最近は水難事故への備えも重視されるようになり、
文部科学省は学習指導要領を改訂し、今年度から小学校のプール授業で、
服を着たまま溺れかけた場合の安全確保の方法を教えることを必修化したばかりだった。
ところが今年はコロナの影響でプール授業を行わない学校も多く、
子供たちが水の怖さを忘れたまま暑い季節を迎えて、
水難事故が増えているんではないかということ。
では水難事故に遭わないためにはどうすべきか。
先ほどの11件の事故のうち9件は子供たちだけで出かけている。
泳ぎに行くときはもちろん、水辺で遊ぶだけという場合も必ず保護者が付き添うこと。
そして水に入る場合は一緒に入ること。
保護者が飲食しながら遠目に子供を見るというのはもってのほか。
装備も重要で命を守るためにはライフジャケットの着用を。
これは保護者も同様。
でもライフジャケットつけていなくて溺れかけた場合にはどうすればいいか。
その場合はおちついて「ラッコの体勢をとる」と覚える。
ラッコのように仰向き、つまり背浮きの体勢で、
口や鼻を水面の上に出して呼吸できるようにしておくことが命を守る大事なポイント。
実際にどんな体勢なのか、水難学会が行っている背浮きの練習の様子をみると、
普段着のまま水中に転落した場合でもあわてずに、両手で水をかきながら
体が仰向けになるようにする。
この時のポイントは姿勢が安定するまでは息を吐かないようにすること、
そしてバランスが保てないようであれば、脚ではなく両手の力だけで水をかくこと。
なぜこのラッコの体勢、背浮きが効果的なのか。
空気を吸ったときの人間の水に対する重さ、比重は0.98。
からだの98%は水の中に沈んでしまい、2%だけが水の上に浮く。
ということは立ったままの姿勢だと、頭の上しか水の上に出ないので呼吸ができない。
しかも大声を上げ続けて息を吐いてしまうと比重は1.03程度まで増えてしまい、
体は浮力を失って完全に沈む。
溺れかけたときには息を吐くのをしばらく我慢してすばやく背浮きの体勢になれば
ちょうど鼻と口が水の上に出る2%となりこれで呼吸ができるというわけ。
夏のこの季節はスニーカーなどをはいていることが多いが、
多くは水に浮くので、両足はばたつかせずそろえるような体勢をとるのがポイント。
では溺れかけた子供がいた場合、まわりの保護者はどう対応したらいいか。
溺れかけた子供を間近に見れば、親は助けようととっさに水に入ってしまう。
ただ子供はパニック状態となっている可能性があり、親自身にも溺れる危険性がある。
先月も、岐阜県の川で溺れかけた2人の子供を助けようと水に飛び込んだ父親が
溺れて亡くなっている。
11件の事故の多くは川で起きているが、多いのが深みにはまる事故。
川の水深は一定のように見えるが、大雨で増水した時などに、
上流よりも一段下がった下流の底がえぐられていく。
これが繰り返されると大人も足が届かない水深数m以上の「深み」ができる。
子供がこの深みにはまって溺れかけたのを見て、
親が準備もないままあわてて助けに入れば、泳ぎに自信があったとしても
同じように深みにはまる危険性。このとき立ったままの姿勢でもがけば、
やはりからだ全体が沈んで溺れてしまうことが多い。
なので溺れかけた子供がいたら、周りの人は無理に助けようとせず、
▽まずは岸から、背浮きをするよう指示。
▽次に119番に電話して救急隊を呼ぶ
▽浮き輪などがあれば投げ入れる。
無い場合は空のペットボトルが浮き輪代わりに。
投げ入れて「ペットボトルいったよ!かかえて浮いて待て!」と指示。
背浮きを崩さずペットボトルがつかめたら、へそのあたりで保てば体勢が安定する。
でもこうしたことは事前に知っておかなければできない。
なので学校のプール授業で教えることになっているわけだが、
今年プール授業が無かった場合、水難学会が推奨するのは、水辺に行く前に保護者が近くや家庭用のプールなどで
子供に背浮きの練習をさせること。
背浮きの方法についてはネット上の映像を参考にできるし、
水難学会などではオンラインでの講習会も開いている。保護者がこうしたことを参考に背浮きの方法を家族全員で共有し、
子供の安全を守ってもらいたい。
(水野 倫之 解説委員)