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「泣き寝入りの消費者に 返金手続き始まる」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

消費者団体が消費者に代わって、被害のおカネを取り戻してくれる裁判制度で、初めての判決を受け、返金の手続きが始まりました。今井純子解説委員。

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【消費者に代わって、被害のおカネを取り戻してくれる。どういうことですか?】
消費者被害(例えば、悪質商法の被害や旅行で法外な解約金をとられたといった被害)にあった場合、被害額が、数万円程度だと、「自分が悪かった」「そんなもんだ」と思って、泣き寝入りする人が圧倒的に多いのです。そこで、こうした被害について、国から特別な認定を受けた消費者団体が、消費者に代わっておカネを取り戻してくれる制度が、2016年にスタートしました。そして、今年3月。初めての判決がでました。具体的には、東京医科大学が、女性や浪人を差別していた不正入試の問題についての裁判で、被害を受けた受験生におカネを返す義務があると認める内容でした。判決が確定した後、新型コロナウィルスの感染拡大で手続きが遅れていましたが、先週、受験生への返金手続きが始まりました。

【不正入試も消費者被害なのですね】
そうです。受験生は受験料を払う消費者。大学は事業者です。

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このケース。大学側は、2次試験で、受験生のうち「女性」そして「浪人生」などに不利になるよう、得点の調整を行っていました。問題が明らかになった後、大学側は、「本来合格の水準に達していたのに、得点調整をしたため、不合格となった受験生」については、追加合格とするなど、救済策をとりました。
これに対して、消費者団体の消費者機構日本が、「女性」そして「浪人生」などのうち、得点調整にかかわらず不合格だった=そもそも合格の水準に達していなかった受験生についても、受験料などの費用を返す義務があると訴え、東京地方裁判所が、この主張をほぼ認める判決をだしたのです。

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【合格水準に達していなかった受験生にも、受験料などを返す。なぜですか?】
判決は、
▼ そもそも、受験生を性別や年齢などで、不利益に扱う得点調整は、法の下の平等を定めた憲法の趣旨に反すると、厳しく指摘した上で、
▼ 不利な扱いを受けることがあらかじめわかっていれば、受験生は、東京医科大学を受けなかったと考えることは極めて自然だとして、
▼ この制度がスタートした後の、2017年と18年の受験生で、不合格となった女性。
▼ さらに、2017年については「浪人の男性」。18年については「3浪以上の男性」などに対して、
▼ 受験料や出願書類の郵送料などを返す義務があるとしたのです。

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【おカネが戻ってくるのですね】
はい。先週、裁判所が手続き開始の決定をしたことを受けて、消費者機構日本が、詳しい手続きの方法や必要な書類をホームページ上で公開しました。
この制度の返金の仕組み。消費者団体は、事業者(今回は、大学ですね)から、対象者の名簿をもらうことができ、住所など連絡先がわかる人に、原則、封書で、個別に、連絡をとることになっています。

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そして、その後、名乗り出た人の名簿や請求する金額をまとめて裁判所に提出。最終的に、裁判所が誰にいくら返すかを決め、それに応じて、大学が払ったおカネを、消費者機構日本が、1人1人の口座に振り込む仕組みです。感染防止のため外出を控えている方もいると思いますが、手続きは、書類や電話などのやり取りなどででき、裁判所などに行く必要はないそうです。

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【自分がおカネを取り戻せることを知らない人にも、消費者団体から連絡がくるのですね】
そうなのです。この制度。あきらめて泣き寝入りしていた。そのおカネを消費者団体が動いた結果、簡単な手続きで取り戻すことができるというのが大きな特徴です。

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ただ、今回、注意しなければいけない点があります。対象になる、のべ5201人のうち、大学側が連絡先を保管していたのが、1次試験に合格した、のべ655人だけだったという点です。残りの4546人は、大学側が書類を破棄していたため、連絡先がわかりません。

【つまり、この4546人には消費者団体から、連絡が来ないということですね】
そうなのです。自ら消費者機構日本に連絡をして、名乗りをあげる必要があります。そして、9月20日までに、必要な書類を提出して参加を正式に表明しないと、この制度でおカネを取り戻すことはできなくなります。

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【期限があるのですね】
はい。ですから、心当たりのある方、そして、2017年、18年に東京医科大学を受験した親戚や知り合いがいるという方は、ぜひ、声をかけあって消費者機構日本に連絡をとっていただきたいと思います。
そして、もうひとつ注意が必要な点があります。

【なんでしょうか】
払ったおカネが全額戻るわけではいないという点です。
そもそも、この制度で、戻ってくるおカネは、原則、受験料など払った額が上限。慰謝料は請求できません。その上、裁判の手続きにかかる費用などを払う必要があります。最終的な費用の額は、まだわからない面はありますが、例えば、受験料が4万円の人だと(受験料は人によって違います)、費用を差し引いて、2万円あまり。あわせて20万円の受験料を払った人だと、費用を差し引いて、15万円あまりは戻ってくる可能性が高いということです。

【手続きの費用は負担しなければいけないということですね】
「通常の裁判より負担は少ない」ということではありますが、それでも費用はかかります。そして、ここで、大事なのは、もし、「あなたのおカネが返ってきます。そのために、まず費用を払ってください」という連絡がきたら、詐欺を疑う必要があるということです。というのも、今回は、費用は、戻ってくる受験料などから差し引かれる形をとるからです。「費用をまず払ってください」ということは、ありません。

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【これは、注意が必要ですね。そして、9月20日までに名乗りをあげられなかった人はどうなるのですか?】
別途、返金を求める必要がでてきます。それだけでなく、今回の裁判の対象からはずれた2016年以前の受験生や、慰謝料も請求したいという人も同じです。実際に、裁判も起きています。

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【ほかの消費者被害で、裁判になった例はないのですか?】
現在、3つの団体が国から特別の認定を受けていて、他に、3つの裁判が起きています。
▼ 今回と同様、不正入試をめぐっての裁判もありますが、
▼ いわゆる仮想通貨に関するDVDについて。これを買えば誰でも確実に儲かるという内容の表示や説明で販売していた事業者と勧誘した男性に対して、不当な勧誘だとして、購入した人に代金を返すよう求めている裁判。
▼ さらに、「給料の前借りできます」などと宣伝をして高い金利をとっていた「給与ファクタリング」の事業者に対して「違法な高金利だ」として支払ったおカネを返すよう求める裁判も起きています。

一方、この制度ができたことで、消費者団体の申し入れに応じなければ、裁判を起こされるとして、その前に、事業者が自主的に返金に応じる例も相次いでいます。今回の東京医科大学の判決を受けて、同じく不正入試の指摘を受けていた昭和大学が、消費者機構日本の申し入れを受けて、2017年と18年に医学部を受験した女性と浪人生に、受験料を返金すると、公表した例もあります。これも、この制度の成果です。

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【消費者被害にあって、あきらめていた人たちにも被害のおカネが戻ってくるかもしれない。ありがたい制度ですよね】
そうですね。課題や限界もありますが、今回、初めて、返金の手続きが始まったことで、今後、この制度の活用にはずみがつき、さらに多くの消費者が被害のおカネを取り戻せる。そんな動きにつながることを期待したいと思います。

(今井 純子 解説委員)

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