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「進化するオンライン商戦」(くらし☆解説) 

神子田 章博  解説委員

新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ消費がなかなか回復しないという企業が少なくありません。そうした中、新たな形でネット販売に活路を見出そうという動きが広がっています。神子田解説委員です。

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Q 経済活動が段階的に動きだして、だいぶたちますが、消費の状況どうなんでしょうか?

A 厳しい状況が続いています。なかでも、商品がある程度高額で、店員のアドバイスを受けながらの買い物をする機会が多いデパートは、落ち込みが続いています。こちらをごらんください。

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こちらは、大手デパート5社の月ごとの月ごとの売り上げを前の年の同じ月と比べて、どのくらい減ったかをグラフにしました。このように各社とも4月を底にして回復していますが、去年と比べるとまだマイナスが続いています。

デパートといいますと、婦人服や紳士服のサマーセールですとか、物産展ですとか大規模なイベントで大勢の客を集め、その来店客がほかの売り場もめぐり、より多くのものを買ってもらうという戦略があったわけですが、いま密閉密集はさけないといけないということで、その手がつかいにくくなっています。さらに、外国人への免税販売もぴたりととまってしまいましたから、なかなかもとのようには売り上げが回復しないんです。

そうした中で、いま各社が力を入れようとしているのが新しい形のオンライン販売です。
三越伊勢丹ホールディングスが、オンライン会議システム「ZOOM」などを活用して、自宅にいる客に商品を紹介するサービスです。店にいる販売員が商品の特徴を詳しく紹介。お客さんが気に入ればネット通販で購入することができます。このように、ただものをネット上の画面で見せて売るだけでなく、お客が店に来るのと同じように、質問に答えたり、相談にのるといういわゆる「オンライン接客」がひとつのトレンドになっています。
この他にも、国内外で1300の店舗を展開するアパレル大手なんですが、服を単品で売るだけでなく、おすすめのコーディネートを提案し、お客さんから別の組み合わせはどうかと聞かれれば、リアルタイムで答えられる仕組みです。こうしたネットを通じて客とのコミュニケーションをとりながらの販売方法は、化粧品や家具の販売の現場でも取り入れられています。実際の店舗に足を運ぶ客がもとに戻らない中、新たなオンライン商戦で売り上げをささえようとしています。

Q まだまだウイルスによる感染をおそれて、できれば人の集まるとこにはいきたくないという人もいるでしょうから、買うほうにとっても便利でしょうね?

A はい。そして、こうしたネットを通じた販売の動きは地方の規模の小さい企業にも広がっています。

Q 小さい企業だと、大手と違って、知名度も低いですし、ネット環境を整えるなど技術的にもたいへんではないですか?

A そうした規模の小さな企業でも販売が増やせるよう地域の金融機関が後押ししようという動きがでています。
長崎県の陶器の産地波佐見町。こちらでは、毎年5月に30万人があつまる陶器まつりをひらいているんですが、ことしはコロナウイルスの感染拡大のために開けませんでした。そこで地元の地方銀行・親和銀行が提案し、ネット上で見本市を開くことにしました。陶器市に参加したのはわずか3社だったんですが、およそ2週間で、想定の三倍を超える1000万円あまりを売り上げたんです。

Q どうしてそんなに売り上げが上がったんですか?

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A これは、親和銀行のグループ銀行である福岡フィナンシャルグループのIT関連会社が運営しているオンラインモールで商品をとりあげたこと。さらにこのIT会社が開発した、銀行口座の残高をチェックしたり振り込みを行うことができるアプリを利用している預金者など100万人のリストをもとに宣伝のメールを配信しました。さらに、銀行の担当者のアドバイスで、それまで同じ色や形のものをまとめて販売していたのを、色とりどりの陶器をセットにして販売したところ、売れ行きがよくなったそうです。

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銀行がここまで肩入れする理由があります。地方銀行は地域の企業に融資をしているわけですが、その地域経済は人口減少などで衰退しつつある。しかし地域の企業の経営が悪化すれば、銀行にとっても貸出先を失うことになる。逆に地元の産業が元気になれば自分たちの事業にもプラスになる。いわば共存共栄をはかろうとしているんです。
 
Q なるほど、助け合いながら、地域の経済を支えようということなんですね?

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A そうですね。この波佐見町のオンライン陶器市、第二回目が先週水曜日から始まっているんですが、前回の10倍近い29社が参加します。さきほど、デパートの客足が落ちている話をしましたが、今回新たに参加する陶器メーカーの中には、これまでデパートを主な販売ルートにしていたのだけれど、そこでの売り上げが期待できなくなったので、このオンライン見本市に参加したという業者もありました。

 それから、次は地方の中小企業が海外に販路を見つける話です。

Q 海外市場というと、地方の企業にとってはさらにハードルが高い気がしますが?

A そうした中でJETRO日本貿易振興機構がそのハードルを下げる取り組みに乗り出しています。

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名付けてジャパンモールという制度なんですが、まず中小企業が売りたい商品をJETROのデータベースに登録。このデータベースは、海外でオンラインショップを運営する業者が閲覧することができて、その業者が関心をもったら、この製品をつくっている企業と商談をします。

Q でも商談といっても、言葉の問題や商習慣の違いなどもありますので、簡単ではなさそうですね?

A そうですね。そこで海外との取引に不慣れな企業に対してはJETROがサポートしてくれるということです。そして商談がまとまれば商品を輸出することになるのですが、国内の企業側は、海外の販売業者の日本駐在や、国内の日本商社を相手に契約をすれば、商品が海外に輸出される流れとなっていまして、複雑な輸出手続きなども自分たちでやらなくてもすむといいます。さらに、この時点で、海外の業者側が「このぐらいなら売れるだろう」という量の商品を買い取ってしまうということで、あとで売れ残って返品されるというリスクはなくなるということです。仕入れた商品は、各国のオンラインモールに日本製品コーナーを設けて、販売するということです。
地方の中小企業にとって、海外との取引はたいへんだと思われる方も多いと思いますが、自分たちにとっては当たり前だと思っている商品でも、海外からみると、魅力ある商品として評価されることもあるといいますので、ジャパンモールにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。JETROは各都道府県に事務所を構えていますので、まずは相談してみるのもよいかもしれません。

 新型コロナウイルスの感染収束が見通せない中で、企業にとっては厳しい時期が続きますが、きょうご紹介したような、新しいオンライン販売、あるいは、地域の金融機関など企業同士が連携を深めることで困難を乗り切ろうという動きがひろがっています。政府としても、こうした前向きな取り組みを支えていく政策に取り組んでもらいたいと思います。

(神子田 章博 解説委員)

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