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「大雨特別警報『切り替え』後も警戒を!」(くらし☆解説)

松本 浩司  解説委員

各地が梅雨入りしましたが、この雨期から川の氾濫に警戒を呼び掛ける新しい情報が出ることになりました。

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【解除後に相次いだ氾濫】
Q)どんな情報なのですか?

A)
去年の台風19号のとき、大雨特別警報を解除した後、何時間も経ってから川の氾濫が相次ぎ、避難所から家に戻って氾濫に巻き込まれた人もいました。そこで国は大雨特別警報を解除するときに新しい情報「河川氾濫に関する情報」を出して警戒を続けるよう呼びかけることにしました。
情報の中身はあとで詳しく説明しますが、まずきっかけになった去年の台風の教訓を振り返ります。

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台風19号ではとても多くの川で氾濫が発生しました。
このうち少なくとも8つの川、いずれも国などが管理する川で大雨特別警報が解除されたあとに氾濫が発生したことが確認されています。

Q)なぜ特別警報解除後に氾濫が起きるのでしょうか?

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A)大雨のとき降った雨水が川に集まり下流に流れるまで時間がかかり、特に長い川では大雨のピークと氾濫に大きな時間差が生じることがあるためです。

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台風19号のときの阿武隈川の福島県須賀川市の観測所の水位のグラフです。
大雨がピークを過ぎて大雨特別警報が解除されたのが午前4時。その後も水位がわずかにあがり、氾濫危険水位を超えた状態が続きました。観測所の付近では昼前後になって相次いで氾濫が発生。特別警報が解除されてから最大で9時間20分もの時間差がありました。

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このほかの川でも解除から氾濫の発生が発表された時間の差は、8時間以上、4時間など大きなタイムラグがありました。

【特別警報解除が誤解を生んでいる現状】

Q)ずいぶん時間差があるのですね。

A)このため大雨特別警報が解除された後、避難先から自宅に戻り、氾濫に巻き込まれた人もいました。
台風19号では千曲川が決壊して長野市の広い範囲が浸水しました。
決壊場所から3キロほど離れた場所に住む佐藤吉春(さとうよしはる)さんです。
台風が接近して大雨特別警報が出た日の夕方、家族と近くの小学校に開設された避難所に避難しました。大雨特別警報は日付が変わった翌日の午前3時過ぎに解除され、夜が明けると雨があがり青空も広がっていたので自宅に戻りました。

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しかし、その直後の午前7時ごろ、自宅周辺に濁流が押し寄せ、あっという間に背丈以上の深さまで浸水しました。佐藤さん家族は2階に逃れ、屋根の上から帽子を振りつづけて救助を求め、7時間後にボートで救助されました。

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佐藤さんは「特別警報を解除してしまうと一般市民の受け止めとしては『これで大丈夫だ』と思ってしまう。『帰ってはいけません』と言ってもらいたかった」と話しています。

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佐藤さんのようなケースが少なくなかったことがわかっています。気象庁が避難行動をとった300人を対象に行ったアンケートで30パーセントの人が「大雨特別警報が解除されたので安全な状況になったと考え、避難先から戻った」と答えています。

【新しい情報とは】
Q)特別警報が解除されたら「安全になった」と誤解してしまう要因はなにか?

A)警報と特別警報の体系がややこしいことが影響しています。

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大雨特別警報は「数十年に一度」というめったにない豪雨のときに出されるものです。
大雨警報と洪水警報が出されていて、さらに状況が悪化したときに出されます。
ただ大雨特別警報の対象は「大雨」だけで、「洪水」は対象外です。洪水については「特別警報」はないので、引き続き「洪水警報」で警戒を呼びかけることになります。

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その後、雨がピークを超えて「大雨特別警報」が解除され「大雨警報」に切り替わっても「洪水警報」はそのままで「洪水」の危険性が下がったわけではありません。しかし「特別警報の解除」と聞くと、すべてのリスクが下がったと誤解されやすいのです。

「洪水の特別警報」を作るべきという意見もありますが、国土交通省と気象庁は今の枠組みの中で、新しい情報を出して補足することで危険性を正しく理解してもらおうと考えています。

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まず「大雨特別警報」の「解除」を「切り替え」と言い換えます。そのうえで新たに出される「河川氾濫に関する情報」は引き続き氾濫の危険が大きいことを伝えます。
対象になるのは国が管理する流域の広い298の河川。
「A県の大雨は峠を越えたが、洪水はこれから」
「B川では氾濫のおそれがあるため一層の警戒が必要」などと呼びかけます。
そして主な地点ごとに「まもなく最高水位に達する」とか「まだ上昇していないが、6時間から12時間後に最高水位に達する」など水位が最も高くなる予想時刻も発表します。利根川のような大きい14の川では24時間先の予測まで盛り込みます。

特別警報から切り替える前に国土交通省と気象庁が会見を行って発表することになっています。そしてテレビやラジオ、インターネットやSNS、スマホの防災アプリなどで伝えられます。

【新しい情報を活かすために】

Q)大雨特別警報が警報に切り替えになっても、そのあと一番危なくなる時刻がわかれば気をつけようと思いますね。

A)
新しい情報で引き続き氾濫に警戒が必要であることを確認したら、そのあと住民も自治体も川の変化を注意深く見ていかなければなりません。
川の最新情報の入手方法としては、

▼洪水警報の危険度分布(気象庁ホームページ)
▼川の防災情報(国土交通省ホームページ)があります。

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洪水警報の危険度分布ではすべての川の増水状況がリアルタイムで地図に表示されます。新しい情報の対象の大きな川では太く示されていて、赤紫色は「氾濫危険情報」が出ている川で流域では避難が必要です。氾濫が発生すると黒に変わります。それ以外の川では濃い紫色になったら避難が必要です。

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また川の防災情報では、氾濫の危険性が高まっている川が地図や一覧表で示され、観測点ごとにどのくらいまで水位があがっているのか、データやライブカメラで確認することができます。住んでいる場所の近くの観測点のグラフが上昇し、「氾濫危険水位」になったら避難が必要です。都道府県の河川のページやNHKのニュース・防災アプリでもほぼ同様の情報が確認できます。

普段からどこにアクセスすれば情報を得られるか確認しておけば、大雨のときの避難開始や特別警報が切り替えたときの判断に役立ちます。またインターネットやスマホを使えないお年寄りなどにはまわりの人が伝えたり、避難所でも運営側がきめ細かく情報を提供するなど情報の活用が求められます。

(松本 浩司 解説委員)

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