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「どう防ぐ 住宅浸水」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

すでに梅雨明けしたとみられる沖縄と梅雨のない北海道を除いて、各地で梅雨入りしています。大雨への警戒が必要な季節です。住宅への浸水をどう防ぐのかお伝えします。

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【相次ぐ住宅浸水の被害】
Q:大雨の被害は毎年各地で起きています。
A:特に住宅の浸水被害は、内閣府の最新のまとめでは、一昨年の西日本豪雨が床上・床下合わせておよそ2万8000棟。去年の台風19号ではおよそ3万1000棟に上っています。
Q:災害の後にボランティアの人たちが自宅の片づけを手伝う映像を見た人も多いと思います。
A:命の危険だけでなく、水が引いた後も、たまった水や泥のかき出しや消毒作業などが必要です。西日本豪雨の時に、私も広島の被災地でボランティア作業を手伝ったことがあります。泥をかぶった家財道具を運び出したり、畳を取り外して床下の泥を洗い流したりと、自宅での生活を取り戻すには大きな労力がかかります。

このほど、国の研究機関と住宅メーカーが、浸水防止の大規模な実験を行いました。どのような技術が使われているのか、また、一般の住宅はどういう場所から水が流れ込むのか、取材しました。

【大規模実験の様子】
今年2月に国の防災科学技術研究所の発表会が都内で開かれました。この日、発表された研究成果の1つが、住宅の浸水防止対策でした。
つくば市の防災科学技術研究所です。ここには大型の降雨実験施設があります。ここは1時間に最大300ミリの猛烈な雨を降らせることができます。
副センター長の酒井直樹さんです。

去年10月、ここに実際の住宅を2棟建てて大規模な実験を行いました。猛烈な雨を降らせるとともに、洪水を想定した1000トン以上の水を地面に流していくというものです。

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こちらは室内の様子です。「浸水対策を行った住宅」と「一般仕様の住宅」です。
Q:窓の外では激しい雨が降り続いています。
A:リビングには床下の様子が見えるように、ガラスを設置しています。実験開始から10分あまりたつと。一般仕様の住宅は、床下の換気口から水が流れ込み始めました。
Q:床下に水が溜まっています。
A:続いて20分あまりたった時点で一般仕様の住宅の方に、ドアの隙間から水が入り始めました。同じ時間のこちらはリビング。ほとんど同時に、窓からも水が入ってきます。そして、床下からも水がしみだしてきました。
Q:どんどん水が広がっていきます。
A:一方でこちらは浴室です。排水溝から逆流した茶色い泥水が流れ込んできました。それからトイレも水が逆流しています。
Q:これはたいへんです。
A:その後、室内の水かさはあっという間に上がっていきます。浸水が始まって30分ほどの間に、床上70センチ近くまで水が上がりました。
実験なので浸水の時間はあくまでも目安です。また、この実験では明かりはついていますが、これだけ浸水すると停電することもあります。
Q:夜だとこの状態で真っ暗になるかもしれない。これは不安ですね。
A:一方で浸水対策を行った住宅は、この通りです。
Q:外はもう窓の途中まで水が来ています。それでも部屋の中に変化はみられません。こんなに違うんですね。

【水はどこから流れ込んでくる?】
Q:あっという間に水は入ってきますね。
A:先ほどの実験では、水が入ってきたのはドアの隙間、窓や床下、そして、浴室やトイレなどからです。
Q:開発中の住宅はどんな技術を使っているんですか。

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A:ドアや窓は隙間をなくす、それから排水管は逆流防止の弁を設置しています。こうした場所ごとの工夫を組み合わせることで被害を防ぐことができるということです。実験を行った一条工務店は、「新築向けの住宅」での実用化に向けた開発を進めているということです。ですから今回の実験のような技術を今すぐ自宅に使うことができるというわけではありません。

【私たちにできる浸水防止策は】
Q:映像で見たような住宅はまだ難しいとしても、私たちにできる対策としてはどういうことがあるでしょう。
A:ある程度、浸水被害を軽減することは可能です。国土交通省が私たちにもできる工夫を紹介しています。

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まずは、大雨に備えて排水路のごみや落ち葉を取り除いておくこと。土のうや板で簡易止水版を作ること。ほかにも土を入れたプランターをレジャーシートでぐるぐると巻けば、同じように水の侵入を防ぐ役割を持たせることもできます。それから貴重品は少しでも高い場所に置いておくことも大事です。
Q:室内のトイレや浴室はどうでしょうか。
A:ゴミ袋などを二重にして中に水を入れた「水のう」で抑えると、逆流を押さえる効果があります。特に都心では一階部分を掘り下げて作っている住宅があります。去年の台風19号では、低い場所にあるトイレや浴室から最初に汚水が流れ込んだケースもあるということです。
Q:停電も困りますね。
A:さきほどの実験では水没しないよう、蓄電器やエアコンの室外機を高い場所に設置していました。エアコンの室外機は水没すると使えなくなってしまいます。梅雨が明けて猛暑になったら家の中にいられなくなってしまいます。低い場所に設置している場合は、室外機を棚などの上に設置しなおすことを検討しても良いと思います。

【まずは避難を】
Q:まずは大雨になる前に自宅を確認することが大事ですね。
A:ただし、これは大事なことなのですが、こうした対策を取れば「避難しなくても良い」ということではありません。大雨の際には、まずはできるだけ早く避難するということが第一です。

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実験を行った防災科研の酒井直樹さんも「住宅の浸水対策は、完全に水の侵入を防ぐことが難しくても『命を守るための行動』をとるための時間を稼ぐことができる。また、新型コロナの感染防止のためにも、適切な避難を行う余裕につながる。さらに水の侵入を防げば、財産を守り、災害後の速やかな生活再建に役立つ」と話しています。

例えば体が不自由ですぐに避難ができない人、持病があって新型コロナウイルスの感染が不安な人、さらに急な増水で避難するタイミングを失った人も、大雨の前に自宅の浸水防止の対策を取っておくことが、命を守ることにつながります。
Q:それに浸水被害が少なければ、災害後に速やかに自宅に戻って、日常生活を取り戻すことができますから、やはり対策は大事ですね。
A:毎年、この時期には各地で大雨による住宅の被害が繰り返されています。皆さんも今のうちに住まいをチェックして、早めに準備を進めてほしいと思います。

(清永 聡 解説委員)

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