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「どう再開? 高齢者の運動の場 withコロナ」(くらし☆解説)

飯野 奈津子  専門解説委員

新型コロナウイルスと付き合いながら生活していくwithコロナを前提に、高齢者が集う運動の場をどう再開するか。担当は飯野専門解説委員です。

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Q1 地域の運動教室への参加を楽しみしているお年寄りも多いと思いますが、まだ再開できていないということですね。

A1 運動教室の多くは、新型コロナウイルスの感染が広がった今年3月以降、休止が続いています。高齢者はウイルスに感染すると重症化しやすいとされていることもあって、政府の緊急事態宣言が解除された後も、再開には踏み切れないところが多いのです。一方で、地域の仲間との活動が途切れたことで家に閉じこもり、体調を崩す高齢者が目立ち始めているという声もきかれます。そこで、高齢者の健康を守るために、どう活動の場を再開していくか、運動教室に焦点をあてて考えていきます。

Q2 まず、外出自粛による高齢者の健康への影響、心配ですが、どんな状況なのでしょう

A2 全国的な調査はまだありませんが、新潟県の見附市で、地域の運動教室に参加していた高齢者を対象にした調査がまとまっています。

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休止になっておよそ2か月間の変化を聞き取ったところ、運動不足を実感した、会話が減ったという人が6割以上、意欲的活動的に過ごせなくなった、もの忘れが気になるようになったなど、精神面での影響も出ています。持病が悪化することへの不安を感じるが27,5%、健康状態が悪化したと感じる人も13.0%います。
この調査を分析した筑波大学の久野譜也教授が注目しているのは、会話の減少。
人とのつながりが薄れたことが、高齢者のストレスや不安に大きく影響していて、気分や意欲の落ち込み、認知機能の衰えにつながっていることがわかったからです。

Q3 逆に言うと、身体を動かすだけでなく、人とつながることも高齢者の健康を維持するために重要だということですね。

A3 それが、高齢者が集う運動教室が重視される理由だと思います。
こうした状態が続くと、介護が必要になったり、認知症になったり、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなったりします。そして、夏に向けて心配される熱中症のリスクも高まるとされています。運動不足によって汗をかいて体温を下げる体の準備が整いませんし、身体に水分を貯める機能をもつ筋肉の量が減って、脱水状態に陥りやすいからです。
久野教授は、このままでは健康を損なう高齢者が急増しかねないとして、ウイルスへの感染防止に配慮した運動教室の再開を急ぐ必要があると指摘しています。

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Q4  ですが、緊急事態宣言が解除された後も、教室の再開に慎重なところが多いのですよね。

A4 運動教室の運営を担っているのは多くの場合住民です。住民だけでは、感染を防ぐといっても、どう対応していいかわからない、再開して感染が広がったらどうしようという不安も大きいからです。そこで、運動教室をはじめとする地域の活動を再開するにあたっての留意事項を、先日厚生労働省がまとめました。

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主な内容をみると、
●事前の体温測定●マスクの着用と手洗い ●消毒の徹底 ●身体的な距離の確保、できるだけ2メートル、最低でも1メートルあけるとしています。●室内の換気は1時間に2回以上 一回当たり数分程度です。
★身体を動かす活動をする場合は、
●休憩をとって ●熱中症予防のため、こまめに水分を補給する●屋外で人と十分距離を確保できる場合は、マスクをはずす などとしています。マスクをしたまま運動すると、熱中症や酸素の量が低下するリスクがあるからです。
こうした具体策が示されたことは、再開に向けて一歩前進だと思います。

Q5 これで、運動教室再開の動きはひろがっていきますか?

A5 再開の鍵を握るのは、それぞれの地域の状況にあわせた対策を実践できるかどうかです。実践力という点で参考になるのが、今週から運動教室が再開した愛知県豊明市の取り組みです。

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最大のポイントは、不安を抱える住民の声に耳を傾け、行政が、しっかりサポートしていることです。
教室再開にあたって、行政が始めたのは、新型コロナウイルスについて正しい知識を住民に伝えること。どんなウイルスで、どう感染するのか。そして、具体的な感染防止策についても、わかりやすく伝えました。
その上で、自分たちの教室の感染防止策について、住民同士で話し合い、ルールを決めるのも、住民自身です。どこまで消毒を徹底して、参加者の人数をどうするのか。こうしたことを住民が考え納得しなければ、安心にはつながらないからです。
おとといから始まったある地域の運動教室では、受け付けは建物の外に設けて、参加者に手の消毒をしてもらう。部屋の窓はすべて開けて、椅子と椅子の間隔を1メートルあける。それぞれが使った椅子を消毒する。そうしたことを実践しました。教室を運営する住民のリーダーに話をきくと、始めるまでは不安だったけれど、3密を避けて手洗いや消毒、換気を徹底する。そうした基本をみんなで実践すれば、続けられると感じたということです。

Q6 住民自ら納得して取り組みを進めることが大事なんですね。

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A6 そしてもう一つ、豊明市が力をいれているのが、集まらなくても自分で健康を管理する環境を整えることです。たとえば、一人で気軽に散歩できるように、生活圏ごとにウォーキングコースを設定してマップを作ったり、健康状態を自分でチェックするシートを配ったりしています。集まって活動するのは苦手という人にも役立ちますし、今後、再び感染が広がって運動教室が休止されても、参加者が自分で健康を管理できるというわけです。

Q7 こうした先を見越した対応も大事ですね。

A7 先を見越したという点では、新しい技術を活用して、オンラインでの運動教室を始める自治体も出ています。冒頭紹介した高齢者の健康調査を行った、新潟県の見附市です。
スマートフォンで参加者と指導者をつないで、画像は自宅のテレビで見られるようにしています。高齢者の中には新しい技術は苦手という人もいるので、スマートフォンや通信環境の設定などを市の職員が支援。今後はタブレット端末を購入して高齢者に貸し出すサービスも始めるということです。
見附市がこだわったのは双方向のコミュニケーションです。冒頭紹介した調査で、身体を動かすだけでなく、人とのつながりが大事なことがわかったからです。

Q10 高齢者がこうした技術を使えるようになれば、オンラインで友達と食事をしたり会話をしたりといったこともできますね。ただ、こうした行政の支援がないところも多いですし、運動教室はまだ再開しないし、やはり感染が不安で外に出たくないという方も多いのではないでしょうか。

A10 そうした方たちもぜひ、健康を守るということを意識して生活していただきたいと思います。天気のいい日に散歩に出かけ、バランスのとれた食事をとる。体調がおかしいと感じるならかかりつけの医師や地域の保健師に相談するのもいいと思います。人とのつながりが大事です。熱中症が心配ですから、こまめに水分をとることも忘れないでください。
新型コロナの対策だけにこだわりすぎず、一人一人が、健康を考えた自分に合ったライフスタイルをみつけていくことが大事なのだと思います。

(飯野 奈津子 専門解説委員)

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