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「再開へ動き出したプロスポーツ」(くらし☆解説)

小澤 正修  解説委員

新型コロナウイルスの影響で中断・延期されていたプロスポーツが緊急事態宣言の解除を受けて、開催へ動き出しています。なかでも多くのファンを抱えるプロ野球、サッカーのJリーグは今月以降、順次始まることになりました。小澤正修解説委員です。

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【ようやくの開催】
プロ野球もJリーグも開催できない時期がおよそ3か月も続いていました。緊急事態宣言の解除を受けて、少しずつ日常生活を取り戻そうという動きが模索される中で、プロスポーツの開始は明るい話題だと思います。

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具体的にはプロ野球が6月19日に3か月遅れで開幕。シーズンを当初より23試合少ない120試合とし、オールスターゲームは史上初めての中止、日本シリーズは11月21日からを予定しています。また、JリーグのうちJ1はいったん2月に開幕して1試合だけ行ったあとに中断していましたが、7月4日に再開し、J2とJ3は6月27日から試合を行います。プロ野球、Jリーグとも感染拡大の影響で、選手の練習も制限されていましたので、これから練習試合など準備期間を経て、開幕や再開を迎える予定です。

【再開にはどんな対策が】

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プロ野球、Jリーグとも、それぞれ試合実施に向けた詳細を詰めているところですが、ロッカールームなどでの「密」な状態を避けることや、定期的な検温、施設のこまめな消毒、選手・関係者への検査などの実施、感染者が出た場合の対応、そして長距離移動を繰り返さない日程の工夫、つまり1回の遠征でできるだけ多くの試合を行うことなど、最大限注意を払った対策がとられる予定です。はっきりしているのは、当面、スタンドに観客がいない「無観客」で実施されるということです。

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プロスポーツのスタジアムには1試合で数万人が集まることも多く、通常通りの開催なら、スタンドがいわゆる「密」になるのは避けられないという特性があります。サッカーでは、ヨーロッパチャンピオンズリーグの試合に大勢の観客が集まって移動したことも感染拡大の要因のひとつになったのではないかと、現地で伝えられています。日本のプロ野球に先んじて4月に開幕した台湾プロ野球では、無観客でスタートし、そこから段階的に入場できる観客の数を増やして、5月15日からは2000人まで上限を引き上げました。日本のプロスポーツも、第2波への警戒が続く中で、感染拡大につながらないよう、少しずつ入場できる観客を増やす慎重なリーグ運営になりそうです。とはいえ、ファンにとってプロスポーツは、選手の優れた技術をみるだけではなく、スタジアムで声をからしてひいきの選手やチームを応援することも大きなだいご味です。無観客開催が長期間続くと、こうした楽しさが減ってしまいますので、ファンは残念だろうなと思いますが、当面はまだ、我慢が必要だと思います。

【無観客開催の背景】

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感染拡大の影響を受けて厳しい状況に置かれているチームの経営面から考えると、無観客でも試合を開催することがまず大前提となります。競技によって違いはありますが、プロスポーツの収入には大きくわけて、チケット販売、スタジアムでの飲食、グッズ販売、看板広告などのスポンサー料、放映権料などがあります。

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Jリーグは、3年前から動画配信大手「DAZN」と10年でおよそ2100億円という大型契約を結んでいます。この中からJ1からJ3までの全56チームへの均等配分金が拠出され、J1のチームだと年間3億5千万円が配分される仕組みです。おととしのデータではJ1は年間の売り上げが30億から40億円くらいのチームが多く、放映権料をもとにした配分金は大きな財源になっているのです。なので、Jリーグとしては試合数が大きく減って、今シーズンが成立しなくなってしまうことは避けたい思いがあります。まずは無観客でも試合を実施することを最優先にしているのです。

【スタジアム活用のビジネスは?】
一方、プロ野球でも放送権料は大きな収入のひとつですが、最近はスタジアムを最大限活用するビジネスモデルへシフトしてきています。もともと放映権料に頼れなかったパ・リーグを中心にこうしたモデルが広がり、各球団がスタジアムでのファンサービスなど経営努力に務めてきました。その結果、12球団の観客動員数はこの14年で660万人以上も増えて、昨シーズンは史上最多のおよそ2653万人となりました。これによって今では多くの球団が黒字に転換したとも言われています。しかし、今回のように「お客さん」がきてもらえないと、放映権料は確保できても、スタジアムを活用した収入は期待できなくなってしまいます。このため、自宅でテレビなどを通じてプロ野球観戦をする人たちに、どんなサービスを提供できるか、知恵を絞っているのです。

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【新たなアイディアも】
3年連続で日本一のソフトバンクは、売り上げも12球団トップクラスの年間300億円以上にのぼります。他球団に先駆けて始めた「スタジアムにきてもらう」ことをベースにした収入が大きな柱になっていましたが、今回の事態を受けて考え出したのが、自宅でテレビ観戦するファンに、いわゆる“スタジアムグルメ”を食べてもらおうという取り組みでした。もとも本拠地のドーム球場には飲食を提供する80の店舗などがあり、非常に充実しています。一部は先行して、開幕前から提供を始めましたが、こうした球場でしか食べられない限定メニューの料理を、無観客でも、球場内の施設で普段通り作り、それをウーバーイーツやドライブスルーで提供して、自宅でテレビ観戦しながら味わってもらおうというのです。例えばキューバ出身のデスパイネ選手が大好物のアボカド。これをふんだんに使った特製ハンバーガーが球場での人気メニューのひとつなのですが、こうしたスタジアムグルメを、ユニフォームを着たファンがテレビ観戦しながら食べることができれば、自宅でもスタンドで応援する雰囲気に少しでも近づけるのではないか。球場内の店舗の従業員の雇用確保にもつながりますし、球団も一定の収入を得られるというアイディアなのです。こうしてファンが少しでも現場の雰囲気を感じられるようにしたいという取り組みはほかでも検討が進んでいて、中にはスマホを使ってスタンドのスピーカーから選手たちに歓声などを送るシステムなどの利用を検討しているところもあるようです。

【厳しい状況を乗り越えるために】
もちろん、こうしたアイディアだけで、通常開催の場合の売り上げすべてに代わることはできませんが、こうして「どうしたらファンが喜ぶのか」を考えて知恵を絞ることは、ファンにもチームにもプラスとなる、とても大切なことだと思います。以前と同じではない、厳しい状況での開催が当面続きますが、こうした状況だからこそ、プロスポーツの文化を守るために、新たな方法を模索してほしいと思います。

(小澤 正修 解説委員)

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