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「学校の9月入学ってなあに?」(くらし☆解説)

西川 龍一  解説委員

国の緊急事態宣言は、すべて解除されましたが、多くの学校は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、長期間休校になりました。こうした中、学校の9月入学の導入について、国が検討を進めています。

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Q1.うちの子の小学校もなかなか再開されない状況なので、学習の遅れが心配なので、非常に興味がありますが?

A1.そうですね。学校の休校は、2月末の政府の突然の全国一斉休校要請を受けて3月から始まりました。東京都などは、今月末までの休校を決めていますから、長いところでは3か月の休校という異例の事態です。そこで学習の遅れを取り戻す対策の1つとして小学校から大学まで一律9月入学にしてはどうかという声が上がり政府が検討を始めました。

Q2.学習の遅れを取り戻せるなら、そういう手もありますよね?

A2.確かにそういう親御さんは多いと思います。今月行われたNHKの世論調査でも、9月入学の賛否について聞いています。賛成が41%、反対が37%と賛成がやや上回っています。年代別で見ると、18歳から40代までは半分近くが賛成と回答していて、高めとなっています。一方で、調査の時点で緊急事態宣言が解除されていた39県では、賛成が36%と低めでした。学校が再開した地域に住む知り合いに聞いたところ、「一時はいい案だと思ったが、学校が始まったので、もう終わった話だと思っていた」と言っていました。地域によって随分受け止め方が違うようです。

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Q3.確かに9月入学って、なんとなくイメージが先行した感じがします。実際にはどんなメリットがあるんですか?

A3.日本の学校は4月に始まるわけですが、これを夏休み明けの9月に始めるというのが9月入学です。先進国の中では秋に学校が始まるのが主流ということもあって、以前から求める声があり、メリットが示されてきました。本来のメリットは、▽学年の変わり目に長期の夏休みを挟むことで、新学年に向けた学校側の準備がしやすくなること。▽夏休み明けには子どもたちの生活が乱れるなど、不登校などが増える傾向がありますが、こうした子どもたちの不適応を解消しやすくなること。▽入試の時期が初夏になりますから、冬の気象状況やインフルエンザの流行への心配がなくなること。▽諸外国との始業時期をあわせることで、留学したり、留学生を受け入れたりしやすくなることなどがあります。今回はこれに加えて、地域ごとに学習の進み具合が異なる状況を解消するためということがあります。

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Q4.こう聞くとなんだかいいことずくめのようですが、これまで導入されなかったということは、何か課題があるということですか?

A4.そもそも年度の変わり目が4月ということもあって、社会活動全体への影響が大きいことがあります。例えば地方公務員の異動も春というのが一般的です。先生も公務員ですから、先生だけ異動の時期を夏にずらさなければならなくなります。このほか、自治体の会計年度と始業年度がずれることで、予算の執行が年度をまたぐことになることや、就職に関わる資格試験などの時期をずらすことも必要になります。

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Q5.でも、それは、ほとんど大人の都合ですよね?子どもたち優先に考える必要があるのではないですか?

A5.子どもたち自身への影響も大きいんです。今、政府が検討しているのは、来年から9月入学に変えることです。授業の実態はともかく、今の学年は、この4月から始まっていますから、子どもたちは同じ学年に1年5か月とどまることになります。私立に通っている児童生徒や大学は、その5か月の学費をどうするか。保護者が負担するか、国が補填するかしなければつぶれる学校が出る可能性があります。習い事や塾の費用も大きいかもしれません。

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Q6.そうすると卒業も本来の3月から遅れることになるわけですね?

A6.在校生はすべて卒業が遅れることは避けられません。入学年齢の問題もあります。義務教育は6歳からと決まっていますが、今のままだと4月から8月生まれの子は、7歳になってから小学校に入学することになり、先進国ではもっとも遅くなります。このため9月入学を機に、小学校の新1年生は、今の4月2日から翌年の4月1日生まれから、9月2日から翌年の9月1日生まれまでに変更することにしています。
これによって来年何が起きるか。来年小学校に入学するのは今の仕組みだと2014年4月2日から2015年4月1日生まれです。

Q7.4月2日から9月1日生まれの子は、どうなるんですか?

A7.制度が変わったからといって、いきなり2年生にはできませんので、1年生として、翌2015年4月から9月1日までに生まれた子どもたちも含め、1年5か月分の子どもたちが小学生になることになります。最も誕生日が早い子と遅い子の間には1年5か月の差が生じることになります。

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Q8.今での早生まれの子は不利な面があると言われているのに、それは、不安ですね。それと、この学年だけ人数がいきなり多くなりますね?

A8.今の入学予定者の100万人が140万人に。1.4倍の人数になります。そして、この学年だけ人数が多い状態が小中高と続くことになります。その分の先生を増やしたり、教室を確保したりしなければなりません。そこで文部科学省は、別の方策も示しました。いわば激変緩和策とも言えるものです。来年は今の予定の1年間分に加えて、2015年5月1日生まれまでの1か月分の子を入学させます。翌年は6月1日生まれまで、さらに翌年は7月1日生まれまでと5年かけて9月1日生まれまでに移行します。

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Q9.これだと新入生は1年1か月分で、学齢差も縮まりますね。でも5年間は人数が多い状況が続くわけですね?

A9.学年の区切りが毎年変更になるわけですから、事務処理が煩雑になることや、保護者などの関係者の間で混乱が生じないか心配です。いずれの案でも、同じ幼稚園や保育園で同級生だった子ども同士が小学校に入ると別の学年になる事態は避けられません。
さらに現実的な課題となるのは、来年から9月入学にした場合、4月から8月までの5か月間、小学校に行くのを待たされる100万人の子どもたちをどうするのかという問題です。都市部を中心に待機児童の問題が深刻な中、幼稚園や保育園などが引き続き預かることは現状では不可能です。では、小学校が面倒を見られるかというと、それも非現実的で、結局家庭の負担が増えることになりかねません。非常に大きな問題や矛盾を幼児教育に押しつけるものだと指摘する研究者もいます。子どもの年齢が低いほどしわ寄せが大きくなる恐れがあることを知っておく必要があります。

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Q10.どうなりそうですか?

A10.政府は来月初旬には、9月入学を導入した場合の論点を整理して公表し、夏までに結論を出すとしています。新型コロナウイルスの感染拡大は、今は落ち着きつつあるように見えますが、北海道の様子をみてもわかるように、第2波、第3波が来ることも想定される中、9月入学が問題の解決策なのかという根本的な疑問もあります。再び休校になった場合も含め、目の前で困っている子どもたちの学びを確保するために何をするべきかを考えることこそ喫緊の課題のように思います。

(西川 龍一 解説委員)

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