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新しい生活様式って?『ロックダウン』の街でも

堀家 春野  解説委員

緊急事態宣言が多くの地域で解除され、社会経済活動が徐々に再開しています。感染の拡大防止と両立させるためのキーワードが「新しい生活様式」です。

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(新たな生活様式)。
Q)。新しい生活様式、最近よく聞くようになりました。

A)。新型コロナウイルスへの対応は長丁場になると見込まれます。感染の拡大防止と社会経済活動を両立させるためには、これまでの生活様式を見直す必要がある。専門家はこう提言しているんです。その基本となる対策は3つです。

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①人との身体的距離の確保、②マスクの着用、③手洗いです。人との間隔はできるだけ2メートル、最低1メートル空ける。会話をするときや外出の際にはマスクをつける。手洗いは30秒程度かけて水と石けんで丁寧に洗うことが必要です。

Q)。家に帰ったら、何も触らずにまず手を洗っています。

A)。こうした基本的な対策をあらゆる場面で気を付けようと、事業者の団体がガイドラインを作成しました。具体的に見ていきます。スーパーやデパートなどでは▽会計の際、利用客が並ぶ床に目印をつける。▽レジの前に透明な仕切りをつける。

Q)。すでにやっているところも多いですよね。

A)。そうですね。そして、▽総菜やパンなど客が取り分ける場合はパックや袋詰めでの販売に変更、▽試食も中止するとなっています。

Q)。残念ですが、感染を防ぐためには必要なんですよね。

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A)。そうですね。ガイドラインを監修した国際医療福祉大学の和田耕治教授は「多くの人が触るトングなどの共有物を減らすことがポイントだ」と話しています。
そして、レストランなどでは、▽テーブルの上にアクリル板などの仕切りを設ける、▽大皿は避けて料理は個々に提供するなどとなっています。
そして、働き方も工夫が必要です。引き続き、在宅勤務や時差出勤、ローテーション勤務などを取り入れることで人との接触を減らす。通勤ラッシュの緩和にもつながります。経団連が公表したガイドラインには週休3日などの働き方も盛り込まれています。これまでは例えば介護をしている一部の社員に週休3日を認めているといった企業もありましたが、これからは感染の拡大を防ぐという観点で多様な働き方を考えていかなければならないと思います。

(新しい生活様式 イタリアでは)。
こうした新しい生活様式を模索しているのは日本だけではありません。

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ヨーロッパで感染者が多い国のひとつイタリアではおよそ2か月にわたって都市を封鎖するロックダウンが行われてきました。食料や生活必需品の買い物以外の外出は制限され、出かけるときには行先と目的を書いた「自己宣誓書」と呼ばれる文書を携帯しなければなりませんでした。一時期に比べ感染者が減少してきたことから5月4日から段階的に規制が緩和され、今週からはレストランの店内での営業が始まりました。イタリア北部、エミリア=ロマーニャ州に住む通訳の須飼真理さんにうかがいました。

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須飼さんはバールと呼ばれるカフェで働く夫と小学生と中学生の息子との4人暮らし。先週、久しぶりに子どもたちとイタリアのアイスクリーム、ジェラートを食べに行ったということです。
須飼さんは「何か月ぶりにジェラートを食べて子どもたちも本当にうれしいと言っていました。外を歩くことでリフレッシュできました」と話していました。

Q)。ジェラートすら食べられなかったということなんですね。

A)。はい。いまは規制が緩和されたといっても日本に比べるとまだまだ厳しいものです。
感染の広がりを抑えるため徐々に日常生活を取り戻しているといった状況です。州内の移動には宣誓書は必要なくなりましたが、州外の移動は緊急時を除き基本的に禁止。公共交通機関や他の人がいる場所ではマスクの着用が義務付けられています。ジェラートを買う際にも1メートルの間隔をとって待たなければならないそうです。

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(とにかく距離をとる)。
Q)。これまで通りの生活とはいかないようですね。

A)。そうですね。人との距離をとるということが生活のあらゆる場面で求められています。

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須飼さん、先日、2か月ぶりに病院に行きました。継続的に受けている乳がんの治療のためです。いつもはほかの患者さんが待合室にいますが、今回はだれもいませんでした。病院が予約を調整して待合室で多くの人が一緒にならないようにしているそうなんです。まだ急を要さない治療は延期されています。須飼さんも、定期検診はキャンセルになり、対応できるようになれば改めて連絡がくるということになっています。

そして、仕事も元通りとは程遠いようです。須飼さんは日本からの旅行客や出張者の通訳をしていますがいまはストップしています。夫はオフィスビルに入っているバールで働いていますが、オフィスで働く人のテレワークが続いているためお店はまだ再開されず自宅待機の状態だといいます。フリーランスの須飼さんには月額600ユーロ、日本円でおよそ7万円の休業補償が支払われ、雇用されている夫は基本的に給与の80%が国から補償されるということです。

(オンライン授業 課題も)。
Q)。子どもの学校はどうなっているんですか。

A)。2月の下旬から休校になっています。イタリアは年度終わりが6月ですがそれまで再開されない予定です。その間、授業はオンラインで行われています。

Q)。オンラインが普及しているんですね。

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A)。もともとオンライン上で学校の情報を共有するしくみがあったそうなんです。ですが、課題も見つかっています。きょうだいが多い、親も在宅勤務をしているといった理由でパソコンが足りなかったり、課題を印刷するプリンターがなくて困ったりということです。先日、オンラインの保護者会が開かれたそうなんですが、親が印刷屋さんで課題を印刷をしたり、パソコンに習熟していない子どものそばについてみる必要があったりするなど、親の負担も増しているという声が上がったそうです。

Q)。オンライン授業にも課題があるようですね。

A)。そうですね。日本でもこれからオンライン授業を広げようとしていますが、ほかの国で挙げられている課題を整理して参考にする必要があると思います。
イタリアでは5月下旬にはジムやプール、そして6月の中旬には劇場や映画館の再開を予定しているということです。
須飼さんは「町としては活気が戻ってくればいいなと思っていますが、イタリアの人は遺伝子のレベルで人に対してハグをする、そこを2、3か月で完璧変えられるのかというと正直難しいと思います」と話し、期待の半面不安を感じているようでした。

(元通りの生活 リスクも)。
Q)。新たな生活様式に変えるのも難しいようですね。

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A)。そうですね。そして、元通りの生活に戻ることのリスクも見えてきました。規制を緩和した結果、一度減った感染者が再び増加してしまった国もあるんです。韓国ではソウルのナイトクラブで160人を超える集団感染が確認されています。こうした事態を受け、ソウルではナイトクラブなどの営業中止命令が出されました。学校の再開も当初の予定が延期されました。

Q)。感染が広がったらまた制限するということもあるんですね。

A)。各国手探りで対策を行っている状況だといえます。新型コロナウイルスの感染は一度封じ込めたように見えても、第2波、第3波が押し寄せてくると指摘されています。その波が大きくならないようにバランスを取りながら社会経済活動を再開させる。そして再び感染が広がったら自粛や制限をする事態になるかもしれません。感染者が減っていても気を緩めることなく新たな生活様式を定着させていくことが必要だと思います。

(堀家 春野 解説委員)


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