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「広がる 宅配と雇用のシェア」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの店が売り上げの落ち込みに直面している中、宅配で経営や雇用を支えようという動きが広がっています。今井解説委員。

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【宅配。新型コロナウイルスの感染拡大で注目されていますね】
はい。3密を避けたい。できるだけ買い物に行きたくない。という消費者にとって、家まで商品を持ってきてくれる宅配は、ありがたいサービスです。実際、
▼ 会員制で、食料品や日用品を、毎週、決まった曜日に届けてくれる生協。関東中心に活動しているパルシステムは、4月の注文が去年よりおよそ30%増えたということです。

【学校のお休みや在宅勤務で、家族が家で食事をする機会が増えたため、どうしても、注文する量が増えますよね】
他にも、全体の売り上げが大幅に減っている中で、ネットで注文をして家まで宅配してもらえるネット通販については、
▼ 化粧品の注文が、1年前の4倍に増えた(三越伊勢丹)
▼ 洋服の注文が2.5倍に増えたというところもあります。(ワールド)

【受け渡しの時に感染する心配はありませんか?】
最近は、家の前に荷物を置いてくれ、受け取りのサインも必要がない「置き配」をしてくれる事業者が増えています。それだと、受け取る側も、配送する側も、感染のリスクを減らすことができますよね。

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もうひとつ、宅配の注文が増えている分野が料理です。店で食べるお客さんが減っていることから、
▼ ファミリーレストランの中には、宅配専用の店を設けるところ。それから、通常のバイクでの配達に加えて、普段は接客をしているスタッフが、歩いて配達をする店も出てきています。
▼ また、個人経営のレストランや居酒屋の間でも、持ち帰りに加えて、新たに宅配に乗り出す店が増えています。

【宅配で、お店の経営、そして、雇用を守ろうということですね】
そうです。行政もこうした動きを支援しようと、
▼ 例えば東京都は、宅配などに新たに乗り出す中小や個人の飲食店に対して、宅配で使う容器やバイクのリース料金などの費用を最大100万円助成することを決めました。返す必要のないおカネということで、申請が相次いでいるということです。
▼ また、大阪府や福岡市などは、飲食店から料理を届ける「出前の代行事業者」と連携し、キャッシュレス決済で1000円以上の注文をした利用者に500円分のポイントを還元する支援策を打ち出しました。当初の予定を伸ばして今月末まで実施するとしています。

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【消費者としては、地域の店の応援にもなるし、ずっと家にいる生活の中で、いろいろな店の食事を食べられるのはちょっとした楽しみになりますね】
そうですね。ただ、ニーズは非常に高い宅配ですが、課題も見えてきました。需要の増加に供給が追い付かない面がでてきているという点です。
例えば、
▼ 生協では、注文が設備や人の限界を超え、仕分け作業が追い付かないことから、一部の商品で欠品が出たり、カタログに載せる商品を絞ったりせざるをえない状況になっています。
▼ また、スーパーの商品を家まで届けてくれるネットスーパー。これも、便利なのですが、店で商品を集める店員や、配送用の車に限りがあるため、枠がすぐに埋まってしまい、地域によっては、なかなか利用できない、注文できないという声もあがっています。
▼ さらに、料理も店によっては、宅配に応じられる店員や車がないところもあります。

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【注文したくても、応じてもらえないと、それは困りますね。働く人や車を増やして対応できないのですか?】
店側も、店員を増やしたり、一台のトラックが配送センターと往復する回数を増やしたりと、取り組みはしています。ただ、事態が終息すれば、宅配へのニーズが一気に減るのではないかという心配もあり、思い切って雇用や車を増やしたり、設備投資に踏み込んだりできないというのです。

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【思い切って増やすと、いずれ余ってしまうかもしれないということですね】
そうなのです。その中で、新しい取り組みもでてきました。雇用のシェアと呼べるような動きです。

【シェアですか?】
はい。大きく2つの動きを紹介したいと思います。
▼ まずは、働く人そのもののシェアです。料理の宅配代行サービスを全国で展開している「出前館」など3つの会社が共同で、臨時休業などで仕事がなくなって困っている飲食店のアルバイトなどのスタッフを一時的に雇う取り組みを始めています。緊急事態宣言が延長されたことを受けて、飲食店からの受付けを今月末まで伸ばしました。これまでに70社あまりから申し込みがあって、およそ2000人の就業を調整。順次、受け入れているということです。飲食店が通常の業務に戻れば、元の職場に戻ってもらうという仕組みです。

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【働く人にとっては、一時的に別の仕事になりますが、収入を失わなくて済むのですね】
そうです。そして雇用のシェア、2つ目の動き。
▼ こちらも、お客さんが減って困っているタクシーの運転手に、宅配をしてもらおうという取り組みです。もともと、タクシーはお客さんを運ぶ事業です。おカネをとってモノを運ぶには、そのための許可が必要なのですが、国は、タクシー会社が雇用を守るなど一定の条件を満たす場合、飲食店などの依頼を受けて、料理などを運ぶことを簡単な手続きで認めることにしました。緊急事態宣言が延長されたことで、これも、9月30日まで伸ばしました。すでに全国900を超える事業者に許可をだしていて、料理の宅配を始める動きが広がっています。地方を含めて、自治体がタクシー代の一部を支援する動きも広がっています。特に食品の場合、感染対策はもちろんですが、これから季節、食中毒などの対策もきちんとしてもらえれば、ありがたい動きだと思います。

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【料理以外のネットスーパーなどの宅配でも、こうした雇用のシェアはできないのですか?】
ネットスーパーではない、通常のスーパーですが、
▼ 関東で店を展開している「まいばすけっと」が、外食8社から、150名の短期アルバイトを店舗で受け入れる。
▼ また、居酒屋大手のワタミが、首都圏でスーパーを展開する「ロピア」に。およそ130人の社員を、短期的に出向させてスーパーではたらいてもらう。
そういう取り組みはでてきています。

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ですから、ネットスーパーや生協でも、雇用のシェアはできるはずです。また、タクシーだけでなく、事業者向けに部品などを運ぶ仕事が減って困っている宅配事業者もありますので、それをシェアすることも考えられます。
雇用があまっているところと、足りなくて困っているところで、一時的に雇用をシェアする。双方の経営者で、検討する余地はあるのではないかと思います。

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【そうすることで、消費者も宅配のニーズに応えてもらえるわけですね】
そう。助かります。
その上で、もう一つ指摘したいのは、消費者として、地域のレストランを助けたいと思っても、どこが宅配をしているのか、わかりづらいという点です。店側からも、個別にSNSで発信しているのに気づいてもらえないという声があがっています。地域によっては、宅配をしている店の情報をまとめてサイトやチラシで案内をする工夫をしているところがありますが、もっと多くの地域でそうした取り組みをしてほしい。

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地域の雇用を支えることにもつながりますので、様々な知恵で、宅配をより利用しやすくしてほしいと思います。

(今井 純子 解説委員)

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