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「感染拡大 文化をどう守りぬくか」(くらし☆解説)

高橋 俊雄  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大によって、文化・芸術の分野にも大きな影響が出ています。
その深刻な現状と打開策を紹介し、文化の現場をどうやって守のかについて考えます。

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【自粛や休業要請の対象に】

博物館や美術館の休館、そして音楽や舞台芸術の公演中止など、文化への影響は枚挙にいとまがありません。感染の拡大が始まったことし2月以降、イベントなどの自粛が相次ぎ、緊急事態宣言が出たあとは、多くの施設が休業要請の対象になっています。
例えば今月7日から緊急事態宣言が出ている東京都の場合、休業要請の対象となっている施設のなかから文化に関するものを見てみると、▽ライブハウス、劇場、映画館、▽あるいは公会堂や文化会館、▽床面積の合計が1000平方メートルを超える、博物館や美術館、図書館などがあります。音楽教室や囲碁・将棋教室なども対象となっていて、私たちにとって身近な文化活動にも制約が出ています。

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このままでは、私たちはこれまでと同じように、文化・芸術に親しむことができなくなるかもしれません。
ライブハウスや劇場、映画館などは経営規模が小さいところも多く、休業が長引くと経営危機につながるおそれがあります。さらに、休業や閉鎖によって、アーティストが発表する場も失われてしまいます。そうすると、文化の多様性が失われ、若い才能が育たなくなる。ひいては将来、文化の衰退につながりかねないのです。

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【アンケートに見る深刻な状況】
民間のコンサルタント会社が今月上旬にインターネットで行ったアンケート調査の結果を紹介します。音楽や演劇、美術などの活動に関わっている個人や組織から、3357件の回答がありました。
この中で、「今困っていること、心配していること」を複数回答で尋ねたところ、「活動ができないこと」が84%、「収入の低下」が82%で、多数を占めました。

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さらに、金銭面で「行政からの支援は十分だと思いますか」という質問に対する回答は、「そう思わない」が86%、「あまりそう思わない」が10%となっています。

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また、自由記述欄には「音楽家、音楽業界全体が過去最大の危機をむかえていることを感じています」「演劇業界の被害は壊滅的です」「映画文化は消滅する」といったコメントが寄せられ、各業界が切迫している状況がうかがえます。フリーランスの方からの、「金銭面の支援が切実に必要です」といった声もありました。

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【ネット配信に活路】
発表の場については、密閉・密集・密接の「3密」を避けるとなると、インターネットを使った発信ということになります。
コンサートができなくなり、自宅などで個別に練習を続けている新日本フィルハーモニー交響楽団の楽団員たちは、その中でできることはないかと考え、別々に演奏した様子を1つにまとめた動画の発信を行っています。3月中旬に有志が少人数で始めたあと参加者が増え、最終的には楽団員の7割を超える62人が参加して「パプリカ」を演奏しました。現在は第二弾として、「ウィリアム・テル序曲」に取り組んでいます。
楽団員は、同じ音源を聞いて個別に演奏。スマートフォンを前に置いて「自撮り」の要領で音とともに収録していきます。それを1つの動画に編集しているのです。
この活動をほかのメンバーに呼びかけ、動画の編集や公開にもあたっているトロンボーン奏者の山口尚人さんは、次のように話しています。
・誰かに音楽を届ける仕事なのに、それができないのが一番悲しい。
・今回の取り組みは、同じ場所で1つの音楽を作り上げる喜びに勝るものではないが、何もできない時に楽団のことを知ってもらういい機会になっている。
実際、オーケストラやクラシック音楽に興味がなかった人からも「コンサートに行ってみたくなった」という声が寄せられているということです。

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今は多くの人に活動をアピールして再開に備えようと、多くのところがこうした発信に力を入れています。
東京の歌舞伎座は、公演が中止された三月大歌舞伎を無観客で収録した動画を配信しています。今月26日までの期間限定ですが、歌舞伎座が公演を配信するのは異例のことです。
舞台芸術を手がける新国立劇場は、「巣ごもりシアター」と題して、過去のオペラ公演の映像を配信していて、現在は「トゥーランドット」の映像を公開しています。また、きょうからは過去の演劇公演の戯曲の全文を無料で公開する予定です。
ほかにも、休館中の博物館や美術館の様子をインターネットで公開するなど、さまざまな取り組みが広がっています。

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【国などの支援は】
次に、国や地方自治体の支援を見ていきます。
緊急事態宣言が全国に広がったことで、都道府県の休業要請などの対象に入っている施設については、協力金などが受けられる可能性があります。
国の支援については、文化庁がホームページの冒頭に「文化芸術関係者に対する支援情報窓口」という案内を設けて、支援策を紹介しています。ただ、急を要する融資や給付金は、他省庁と連携する形になっていて、文化に特化した独自の制度があるわけではありません。国の緊急経済対策に盛り込まれた、中小企業や個人事業主向けの新たな給付金制度などの中から、利用できるものを選ぶことになります。
また、補正予算案に盛り込まれている文化庁の取り組みを見ると、「文化施設の再開時の感染症対策支援」や「文化芸術への関心と熱意を取り戻すイベントの開催支援」など、感染が収まったあとの事業が中心となっています。

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【今すぐできる支援は】
一方で、今、次々と立ち上がっているのが、インターネット上でファンなどに広く呼びかけてお金を集める取り組みです。
例えば、休業中のライブハウスを支援する「SAVE THE LIVEHOUSE」というプロジェクト。全国各地の店舗の中から応援したい店を選んで、今チケットを購入することで、営業再開後に店でドリンクの提供を受けることができます。店側には週ごとにお金が振り込まれる仕組みで、開始から2週間で、総額900万円を超える支援が集まっています。

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また、各地の小規模映画館を支援するための「ミニシアター・エイド基金」は、2人の映画監督が発起人となって、今月13日からインターネット上で資金を募るクラウドファンディングを行っています。
当初、1億円を目標に始めたところ、わずか3日で到達し、すでに1億7000万円以上が集まりました。しかし、感染拡大の影響が長引く中、「これで十分と言える額はない」として、引き続き支援を呼びかけています。

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今は感染拡大防止が最優先ですが、「感染は収まったものの、文化・芸術は衰退した」ということは、なんとしても避けなければなりません。どうやったら現場を守り抜くことができるのか、みんなで考え、できることは速やかに実行することが大切だと思います。

(高橋 俊雄 解説委員)

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