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「緊急事態宣言 苦境の障害者に支援を」(くらし☆解説)

竹内 哲哉  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、全国に緊急事態宣言が出され、障害のある人は、より厳しい状況での生活になっています。

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【“障害者支援”と“感染拡大防止”の両立は難しい】
障害者が生活するにはいろいろな支援が必要ですが、この支援は「人」と「人」が接触することで成立します。しかし、感染拡大を防ぐためには「人」と「人」とが接触しないようにしなければなりません。つまり「障害者支援」と「感染拡大防止」は両立するのが難しい課題なんです。この両立がうまくできないと、介助の現場は崩壊し、障害者とその家族の生活は破綻してしまう可能性があります。

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【日中の介助が受けられない!】
Q.いま起きてきている問題は?
A.大きいのは日中、介助を受ける場所がなくなってきている。たとえば入浴・排泄、食事など、常に介助が必要な人に提供する「生活介護」、いわゆる障害者デイサービス。日中の居場所づくりや生きがいづくり、地域社会との交流を促進する「地域活動支援センター」。そして、一般の企業で働くことが難しい人のための働く場を提供する「就労継続支援」などがあります。

Q.様々あるんですね。これらが緊急事態宣言を受けて利用できない…と。
A.福祉事業所は障害者の生活を支えるということから、休止の対象ではありませんが、人が集まるということで感染リスクがあります。そのため、万が一に備えて自主的に休止したり、あるいは障害者が自主的に通うことを控えた結果、休止しているという事業所もあります。

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Q.ただ、休止になると介助はどうなるんでしょうか?
A.それぞれ自宅で…ということになりますが、福祉事業所での支援をそのまま自宅で受けられるかというとそう簡単ではありません。自宅で介助をするためには居宅介護従業者などの資格が必要ですが、福祉事業所で働いている人は資格がない人もいます。また、福祉事業所だと1人で複数の介助ができますが、自宅でとなると一人一人に支援をしなければなりませんから、人手は足りません。

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Q.そうなると、日中の介助はだれが行うことになるんですか?
A.資格を持つ介助者に頼みたいところですが人手は不足しています。そのため、多くは同居している家族、親が介助をすることになります。しかし、介助は重労働です。高齢な親もいますから、毎日となれば肉体的には厳しく、とても支え切れるものではありません。もし、家族が支えきれなくなれば、一家もろとも共倒れになってしまいます。

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【自宅介助は最終的なライフライン】
Q.フリーアナウンサーの赤江珠緒さんは夫婦二人で感染してしまい、誰が子どもの面倒は見るのか、ということが報道されていますが、それと一緒ですね。
A.それを防ぐために、厚生労働省は訪問による介助は最終的なライフラインと位置づけており、市町村や社会福祉施設などには十分な支援の提供を求めています。そして、居宅介護の資格がなくても、市町村が認めれば訪問して介助ができると通知しています。

Q.自治体ですでに行っているところはありますか。
A.大阪市では資格がなくても限定的、つまり事業所でいつも介助をしていて慣れている障害者であれば、自宅に訪問して介助ができるとしていて、実際にある福祉事業所では事業所で働く介助者を自宅に派遣しています。また、この事業所では自宅での介助が難しい、つまり慣れない現場で対応しきれない場合は、人数を絞って事業所に来てもらい介助をするなど、柔軟に運用をしています。こうした取り組みを全国の自治体でしっかりと行って欲しいと思います。

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【介助者への感染拡大は介護崩壊を招く】
Q.そして、最も大変なのは介助者が感染してしまうことです。介助者は慢性的に不足していますから、もし介助者が感染すれば、たちまち窮地に追い込まれてしまいます。

【障害者と介助者 両方を介助から守れ!】
Q.感染拡大を防ぐためにはどうすれば?
A.最も大事なことは、障害者と介助者、両方を感染から守ることです。障害のある人のなかには感染すると重症化しやすい人がいます。脳性麻痺や脊髄損傷などで呼吸機能が落ちている人や糖尿病により失明した人、あるいは内部疾患があり免疫力が低下している人が重症化する恐れがあります。命を守るためにも、感染は避けなければなりません。

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一方の介助者ですが、マスクをするなど感染対策を徹底しても、介助をするには障害者のいるところへ行かないとなりません。そのためには電車やバスなどの公共交通機関を使わざるを得ないこともあります。そして、障害者の依頼によっては買い物や通院などに付き添うことが求められます。ですから、介助者を守るには、できる限り人との接触を減らす、社会の協力が必要です。

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【具体的な協力①買い物】
Q.どんな協力が必要でしょうか?
A.たとえば、障害者などに限定時間を設けて買い物ができるようする取り組みです。すでに一部のスーパーでは始まっていますが、こうした取り組みが全国に広がれば、感染リスクを減らすことができます。その際にはレジに並ぶときには間隔をあけたり、入場できる人数を絞るという対策も必要かと思います。

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【具体的な協力②通院】
Q.通院はどうすれば良いでしょうか?
A.厚労省の通達で解禁となったオンライン診療は有効な手段のひとつです。電話やビデオ通話などで診察を受け、処方箋は薬局に医師からファックスで流してもらい、薬を郵送してもらえば、介助者に付き添ってもらわなくても済み、人との接触はかなり減らせます。また、精神障害者のなかには、連日の報道で情報に過敏になり、外出を極端に恐がっている人もいます。オンライン診療ができれば、外に出なければならないという恐怖からも解放されて症状の悪化を防ぐこともできますので、一石二鳥ともいえます。ですので、オンラインあるいは電話診療ができるか、まずはかかりつけ医に相談してみるといいと思います。

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【具体的な協力③マスク】
Q.ほかに対策はありますか?
A.感染を防ぐためには、私たちもマスクをつけることは大切ですが、ただマスクは聴覚障害者にとってコミュニケーションを阻む大きな壁にもなります。たとえば、手話で「こんにちは」というと、手の動きだけではなく、口も同時に動かします。マスクをしてしまうと見えません。そこで使えそうなのが、この口元が透明なっている「マスク」。官公庁や医療現場の窓口、接客をする人が使うようになれば、手話通訳者を帯同しなくてすむようになるかもしれません。

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またオンラインによる遠隔手話。タブレットの向こうにいる手話通訳者を 交えることで、コミュニケーションができます。こうした技術を駆使することも一つの手段かも知れません。

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【一致団結して協力を!】
Q.いろいろな知恵を出し合えば、介助と感染拡大防止は両立できるということですね。
A.緊急事態のなかでは、障害者を含む“社会的弱者”と呼ばれる人たちが窮地に追い込まれることは多々あります。人との絆を断とうとしているコロナウイルスですが、まずはみんなで力を合わせて、障害者、その家族。そして介助者。そうした人たちが社会から取り残されないよう支えられる社会を作る。それが人への思いやりを育むあるいは技術の進歩を生み出すチャンスにつながればと思います。

(竹内 哲哉 解説委員)

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