条例でできる?ゲーム依存対策
2020年04月02日 (木)
西川 龍一 解説委員
新型コロナウイルスの感染を防ぐため、学校が休みになり子どもたちが家に閉じこもりがちになっているという家庭が多くなっているのではないでしょうか。そうなると心配なのは、スマホなどでゲームをする時間が長くなってしまうことです。そうした中、子どもたちのゲームの利用時間に上限の目安を設けるなどとした条例が、都道府県では初めて香川県で成立し、今月から施行されました。
Q1.賛否もあったようですね?
A1.ゲームやネットの依存症対策を進めることを目的にできた条例なんです。18歳未満の子どもを対象に、▽ゲームの利用時間を平日は60分、休日は90分を上限の目安とすること。▽スマホのSNSなどとゲームは、中学生以下は午後9時まで、それ以外は午後10時までにやめるのを目安に、家庭でルールを作って守るよう義務づけるなどとしています。罰則はありません。元々スマホの利用時間も上限を定める方針でしたが、条例で規制することではないといった意見もあり、ゲームの利用時間のみを制限する内容となりました。
Q2.子どもたちとゲームとスマホの関係の問題、やはり深刻なんですか?
A2.長時間ゲームを続けることによってたんなるゲーム好きというだけでなく、自分の意思でやめようとしてもやめられないような状態になるなど、ゲーム依存になるおそれがあるという問題があります。去年、WHO・世界保健機関が提示する病気の分類の中にゲーム依存、正式には「ゲーム障害」が加えられました。治療が必要な病気の1つと捉え、診断の基準などを考えていこうという動きです。
Q3.具体的にはどういう状態なんですか?
A3.こちらがWHOが策定した基準です。「ゲーム利用のコントロールができない」自分ではゲームの時間を減らそうと思っていてもなかなかできない状態です。「日常生活でゲームを最優先する」仕事や勉強、家族との行事などよりゲームが優先、ゲームを中心に生活が回っているといった状態を指します。そして「問題が起きてもゲームをやめられない」そのことによって日常生活の中で問題が起きるといったことです。こうした状態が1年以上続く場合をゲーム依存ということになるとしています。
Q4.自分でゲームすることをコントロールできないということですが、いろんな問題が起きそうですね?
A4.日常生活に大きな影響が出ることになります。こちらはネット依存専門の外来診療を国内で先駆けて始めた神奈川県横須賀市の国立病院機構久里浜医療センターを2016年から17年に受診した120人のゲーム依存患者のデータです。受診前6か月間の半分以上の期間にこうした問題があった人の割合を示しています。▽朝起きられないがほぼ8割、▽学校などの欠席や▽昼夜が逆転してしまったが、それぞれ6割、さらに2人に1人が家で▽物にあたる・壊すことをしたなどとなっています。
Q5.長時間ゲームをしてしまうと寝るのが遅くなるというのは、想像できますね?
A5.睡眠障害もほぼすべての患者に見られたということです。ほかにも体力の低下や骨密度の低下といった健康上の問題が多く見られると言います。
今のゲームはネットを使って行います。以前と違って、終わりのない世界で、開発者側からすれば、少しでもゲームを続けてもらうための工夫にしのぎを削っているのが実状です。友だち同士で同じゲームにオンラインで参加して競い合ったり協力し合ったりして行うケースも多く、自分だけがゲームをやめるのを躊躇することも多いと言います。このように今のゲームの世界ははまりやすい状況だと言えます。
Q6.そこで先ほどのゲームの利用時間を制限する条例というわけですね?効果は期待できるんでしょうか?
A6.久里浜医療センターの樋口進院長は、「条例はゲームをする時間などについての1つ指針となるので、子どもたちを説得しやすくなる。とても大事なことだ。」と話しています。
条例は、利用時間の制限のほかにも、ゲーム依存にならないよう予防対策を推進することや、医療体制の整備、啓発教育や治療に当たる人材の育成といった施策を進めることなどを求めています。行政がこうした観点から対策を取ることは必要だと思います。一方で、今回の条例が家庭のルール作りを義務づけたことに対しては、家庭が決めるべき事に行政が足を踏み入れることになるのではないかといった意見や、eスポーツを盛り上げようという流れに矛盾するのではないかと疑問視する声もあります。
Q7.難しい問題をはらんでいるわけですね?
A7.平日60分以内という上限に医学的に明確な根拠はないという意見もあります。この問題は、なんとなく始めたゲームが面白いと感じ、依存していくケースがある一方で、不登校などをきっかけに自分の居場所をゲームの世界に求めていくケースなど、個々の抱える事情は複雑です。ゲームを利用するネットやスマホ、タブレット端末などが急速に広がる中で、予防や治療という考え方そのものが緒についたばかりという事情もあります。そもそもどの程度の割合の人がどんな理由でゲーム依存になるのかなど、わからないことが多い中で、時間を規制すれば防げるものではないということを理解しておく必要があります。そしてだからこそ、注目しなければならないことがあります。
Q8.何でしょう?
A8.「ゲーム依存は予防が重要」ということです。ゲーム依存の治療は、本人がまず自分が依存状態にあることを自覚することが必要です。しかし、年齢が低いほどこうしたことが難しく、親への甘えから問題をあえて認めない傾向もあると言います。治療のためにゲームの時間を減らそうとしても我慢することがなかなかできない傾向もあり、小学生や中学生の治療は特に難しいと言うことです。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、全国の学校は先月初めから臨時休校となりました。そのまま春休みを迎えたため、夏休み並みの長期休暇となっていますが、春休み明けの来週以降の延長も検討され始めています。図書館などの公共施設や遊園地なども休みとなったため、自宅で過ごさざるを得ない子どもたちが多い中で、ゲームにはまりやすい状況が続いている事を自覚する必要があります。学校が再開して初めてゲームで生活リズムを崩していることがわかるようなこともあり得るのです。
Q9.親の立場から見ても新型コロナウイルスの感染を避けようと一日中子どもが家にいることを考えると1時間でゲームを止めることは不可能なように思います。どうすればいいでしょう?
A9.今のような状況の中では難しいのは確かです。久里浜医療センターの樋口進院長は、親が心配しているというサインを常に子どもに送り続けることが重要だと話しています。据え置き型のゲーム機であっても、今はネットにつながっていますし、スマホを買い与えることは、子どもがゲームの世界につながることを意味します。いつどんな使い方をしているのか、最初から話し合う機会を作るなど関心を持つことが必要です。そうした上でメリハリのある使い方を親子で話し合って決めることが大事だと言います。親が関心を示さなければ、子どもたちは黙認されたと受け取る可能性があります。条例で縛られるのではなく、家族が納得したゲーム利用のあり方を作っていくことで、ゲームと向き合う必要があります。
(西川 龍一 解説委員)
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