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「大丈夫? 食料の供給体制」(くらし☆解説)

合瀬 宏毅  解説委員

新型コロナウイルスの感染が広がっていることから、お米やカップ麺などを買いだめする動きが出ています。食料の供給体制はどうなっているのか。合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員です。

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Q.一時は食品がなくて慌てましたが、また平常に戻っていますね

 はい。新型コロナウイルス、大変ですが、地震などと違って、道路や工場が壊れた訳ではありません。流通は動いていますので、いまは通常に戻ったようです。しかし一時は大変でした。
 こちらは先週木曜日の都内のスーパーです。普段は客の少ない午前中ですが、この日は朝から沢山の人が店を訪れ、レジには長い行列が出来ていました。コメなどの他、カップ麺や冷凍食品、それに缶詰など、保存できる食品はあっという間に売り切れ、肉や野菜など生鮮食品も多くで、品切れが続きました。
 このため、大手スーパーなどは在庫として保管していた加工食品などを、倉庫から出して急遽補充。週末は町のスーパーでも開店前に従業員が仕入れた商品を、商品棚に次々と並べていました。

Q.大変なさわぎでしたよね。

はい。都内のスーパーに話を聞きますと、小池知事が週末の外出自粛を呼びかけた直後から、お客が増え始め、翌日はほとんどの商品が棚から消えたという。一部のスーパーでは、客の入場制限をしたほどだった。

Q,入場制限ですか?

 ただ、様々なデータを見てみると、食料は不足していない。しかも買い急いで集まることで、新たなリスクもある。

Q.どういうことでしょうか。

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密閉した空間に、人と人が押しかけてしまうと、そこから感染が広がる恐れがある。国立国際医療研究センターの大曲貴夫さんは「人が集まることはリスクがある。お店の中や前では、人と人の間を空ける工夫が必要だ」と話しています。
本来であれば東京都は、外出の自粛要請とともに、食料を買いに行くことを止めてはいないこと。食料は十分にあることを同時に伝えなければならなかった。今後は、より丁寧に情報を伝える必要があると思います。

Q.それにしても食料は足りているのか?

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農林水産省のホームページによると、コメは政府備蓄と民間在庫で、国民が消費する190日分にあたる380万トンが。パスタや即席麺の材料となる小麦についても、70日分にあたる93万トンが備蓄されていると説明している。
また農水省が企業などに聞き取りを行ったところ、即席麺については現在、通常の2-3割の増産体制をしいて、さらに増産の余裕がある。
パスタも通常時の1-2割増しで増産、冷凍食品も発注は伸びているものの、在庫で十分対応可能だとしているし、レトルト食品についても、原料は潤沢にあり、通常の5割増しで増産し、在庫も十分だと応えている。

Q.確かに在庫は十分ありますね。

一方で、野菜やお肉、流通量が豊富なため、価格も落ち着いている。

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東京中央卸売市場での卸売価格、卵こそ、去年の同時期と比べ17%ほど高いのですが、牛肉は6-25%、豚肉は横ばい、鶏肉は9%安くなっている。
また、野菜の小売価格ですが、トマトやほうれん草、白菜は平年並みだけど、キャベツ、ネギ、レタスは平年の30%と、かなり安い。

Q.結構豊富にあるということですか?

 野菜については、今年は暖冬だったこともあって、成長が良かった。また牛肉などは、新型コロナウイルスで送別会や謝恩会などの自粛が響き、実は生産者が困っているほど、在庫が積み上がっている。とても心配するような状況では無い。
むしろ、買い急ぐ消費者の行動が一時的な品不足を生み出しているとして、農林水産省では消費者に対し、「食料品は必要な分だけ買うようにしましょう」「過度な買いだめや 買い急ぎはしないでください」そして「転売目的の購入はしないでください」と呼びかけている。

Q.ただ今後どんなことがあるのか分からない。食料を確保しようという気持ちになるのは当然。

 たしかに、短期間での感染の広がりや、外出自粛要請、一部公園の封鎖など、2ヶ月前には私たちが予想もしなかったことが次々と起きている。
 ただ、こうした事態がこれまで全くなかったわけでは無い。地震や新型インフルエンザなど、局地的に食料が行き渡らないことは度々あった。そのため政府は、企業にそうした事態を想定して、事業継続のための対応計画を作ることを求めていて、食品企業も食料供給を切らさないような対応は準備している。

Q.事業継続のための計画ですか。

対応のベースになっているのは、政府が作った「新型インフルエンザ対策ガイドライン」です。
これを見てみると、日本における感染者数の増加をグラフのように想定していて、発生した場合、どういうことが起きるのか。まずそれを洗い出し、事業者がやるべきことを事前に用意しておくことを求めている。

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 例えば、食品確保に対する不安です。海外で発生が見つかった場合、一部でカップ麺やレトルト食品などのまとめ買いが始まり、それが国内に伝播した場合、発生地域を中心にまとめ買いが加速。感染拡大の時期には、まとめ買いは全国に広がり、一回あたりの購入量が増加。宅配需要も増加するとしている。
その後いったんは沈静化するが、感染の第二波に向けて、食品のまとめ買いがふたたび起こり、特に栄養価の高い食品の需要が増加することを予測している。

Q.この想定に沿って、企業は準備を進めている訳ですね。

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 はい。こちらは食品スーパーでの例ですが、海外での発生が見つかった場合、まずは自分たちを守るためのマスクなど衛生用品の在庫を増やす。
そして国内で感染が広がった場合には、作業を行う従業員の2メートル間隔の確保や、物流を止めないための輸送手段の確認。そして、会社内に感染者が出た場合の指揮命令系統の確認や、それを想定した訓練。こうした、感染が拡大した場合の計画を細かく作っている。
 そしてその中には、消費者への対応も含まれる。

Q.どういうことでしょうか?

 先ほど指摘したように、スーパーなどに大勢の人が押しかけると、それをもとに感染が広がる恐れがあります。
このため、感染が拡大期にある場合には、買い物客に対して検温を行い、場合によっては入場者数の制限も行う。レジに並ぶ際には、誘導員が人と人との間隔を空け、駐車場などを使った野外での販売や、インターネットなどでの事前予約も検討している。
先週、買い物客が押しかけて、一部のスーパーが入場制限を行いましたが、これも、こうした計画にそって、行われたもの。

Q.今後、こうした対応も覚悟しなければならないということですか

状況によっては入場制限などはあるかもしれません。ただ、それはスーパーなどが通常通り営業し、食料が滞りなく流通するためのものです。私たちもそうしたことを理解して、冷静に行動することが必要です。
とはいえ、消費者が冷静に行動するためには、情報が必要です。政府に対しては、食料の供給状況がどうなっているのか、詳しく伝えることを求めると共に、私たち自身も、日頃から、一定の食料を買い置きしておくことが、安心に繋がることを忘れないようにしたいと思います。

(合瀬 宏毅 解説委員)


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