◆新型コロナウイルス感染症が広がる中、厚生労働省の有識者会議で「オンライン診療」の活用について方向性が示された
これは「オンラインで新型コロナ感染症の診療が受けられる」ということではありません。新型コロナウイルスに感染しているかどうかはPCR検査などを受けないと診断できないためです。ではなにをするのかと言いますと、まず人との接触をなるべく避けることで「新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ」という狙いがあります。そしてもう一つ、感染をおそれるあまり、他の持病のある人が通院するのをためらう“受診控え”の状況も起きていて、そのことで健康を損なうことを防ぐため、オンラインできちんと受診してほしいという意味もあります。
◆そもそも「オンライン診療」とはどういうもの?
オンライン診療はスマートフォンやパソコンなどを使い、言わばテレビ電話のような形で診療を受けられる仕組みです。スマホに専用のアプリを入れて医師とつなぐような仕組みが多いですが、2015年に厚労省の通達でオンライン診療の条件が事実上緩和されたことなどから急激に広がっていますので、かかりつけのクリニックでもオンライン診療に対応しているか、など一度聞いてみるといいでしょう。
この他に電話やネットでの“医療相談”なども広がっており、これはオンライン診療の枠組みとは別ですが、きょうはこうしたものについても少し触れたいと思います。
◆病院に行かなくてよいのは患者にとって便利だが
ただし、オンライン診療でも全く通院しなくていいわけではありません。患者の健康を守る観点などから現在の国の指針では基本的にこのような形になっています。
まず初診は病院に行って、対面診療できちんと病気の診断をつけるのが原則です。その上でオンライン診療の対象になるのは、例えば慢性疾患などで容体が安定している患者で継続的に同じ処方で治療するようなケースです。急病や容体が急変した場合は対面診療が必要になります。また薬については処方せんを郵送などで受け取った患者が薬局に行って薬を受け取ることになります。
このように現在の指針ではオンラインと言っても色々条件がありますが、新型コロナウイルスの感染拡大に対し特例的に一部を緩和する方向性が、11日の厚労省の有識者会議でまとまりました。
◆どう緩和される?
冒頭で触れたように新型コロナウイルス感染症のおそれがある症状に対しては、オンライン診療の対象にはなりません。ただ、今後さらに感染が拡大して入院できる施設なども不足していく中で、感染が確認されて症状が無かったり軽症の人は帰宅して自宅で経過観察という形になることが考えられます。そうした人は在宅でオンライン診療で見守っていくことも可能だとの方向性が示されました。
◆では当面はどういう人がオンライン診療の特例にあたる?
糖尿病や高血圧など他の持病がある人などです。こうした慢性疾患にはこれまでもオンライン診療が活用されていましたが、状態が悪化して処方を変えたりする場合は対面診療を受ける必要がありました。
それが特例として、容体が変わったり処方を変えるような場合でも、同じ病気の継続的な治療であれば通院せずオンラインでよいという方向性がまとまりました。
また先月25日に政府が打ち出した基本方針では、高齢者や持病がある人の継続的な処方などは、ネットだけでなく電話での診察でもよいとしています。
◆薬の扱いについて
これまで、オンライン診療では郵送などで届いた処方せんを患者が薬局に持って行き、対面で服薬指導を受けて薬を受け取るのが原則でした。これに対し先月28日に厚労省が出した通達では、医療機関から薬局にファックスなどで処方せんを送り、服薬の指導は電話などで行ってもよいとしています。そして、確実に患者に薬が届く方法なら、薬剤師の判断で例えば宅配便などで薬を送るといった方法も可能になりました。これなら患者は在宅のまま薬が入手できます。
ただし、こうした措置は今後ずっとという話ではなく、感染拡大が続いている間の特例的な位置づけです。
◆健康不安に対して、なるべく人と接触せず相談できるような仕組みは?
現在、発熱など新型コロナウイルス感染が疑われる人については、全国各自治体に設けられている「帰国者・接触者相談センター」などが電話で相談を受けています。持病を持つ人などの健康不安については、かかりつけ医でも電話で相談を受け付けてくれるところが増えているとされます。また経済産業省もネットで健康相談できる事業をスタートさせていて、今月末まで無料で行われるとしています。
国民・市民の不安軽減につながる電話やオンラインの活用を、もちろん安全や情報の正確性などの確保が前提ですが、こうした状況の中では迅速に進めてほしいと思います。
◆私たちが心がけることは?
やはりまずは“リスクが高い”とされる換気の悪い空間に大勢の人が集まるような場所にはなるべく行かないこと。外出したら咳エチケットや手洗い・うがいをきちんとする、というのが基本です。一方で、感染していない高齢者などが不安から家に閉じこもるのは、体が衰えたり持病の悪化につながる場合もありますので、体調に応じて散歩などをするのも大切でしょう。
新型コロナウイルスは大きな問題ですが、それを心配しすぎて持病の“受診控え”が起きるのも問題です。自己判断で持病の治療や服薬を中断してしまうことは決してしないで下さい。そして、かかりつけのクリニックでオンラインに対応しているかや健康上の不安などがあれば、まず電話などで問い合わせて見て下さい。
(土屋 敏之 解説委員)
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