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「新型コロナウイルス どうなる?就職活動」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

新型コロナウイルスの影響が、就職活動にも広がっています。今井純子解説委員。

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【どのような影響がでているのですか?】
▼ 先週、そして、きのうと、大手就職情報サイトが、全国で開く予定だった大学生向けの合同企業説明会を中止することを相次いで決めました。期間に違いはありますが、それぞれ、最大で学生およそ5万人、あるいは、21万人の参加が見込まれていた大規模なイベントでした。
▼ また、各地の大学が、多くの企業を集めて、その大学の学生向けに予定していた合同説明会を中止する動き、
▼ さらに、企業が個別に予定していた大学生向けの説明会を中止する動きも、急速に広がっています。
大勢の学生が集まるだけに、そこで、新型コロナウイルスの感染が広がるのを防ごうという狙いです。

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【これは、来年春に卒業する学生向けの説明会ですか】
そうです。主に、今の大学3年生が対象になります。その就職活動のスケジュールはこちら。来月1日から、企業の説明会、そして、エントリーシート(応募)の提出が始まります。去年までは、経団連が指針(採用のルール)をつくっていましたが、今年からは、政府が企業に要請する形になりました。そして、まさに、これから、本格的に就職活動が始まるというタイミングで、説明会を中止にする動きが相次いでいるのです。

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【感染を防ぐためとは言っても、学生さんは不安でしょうね】
そうですね。参加を予定していた学生からは、「いろいろな企業を知る機会が減ってしまう」「日程を組み直さなければならないので大変だ」といった声があがっています。
こうした説明会は
▼ 企業の社員から生の声を聞ける。その企業の雰囲気を知ることができることに加えて、
▼ 多くの企業が集まる合同説明会は、学生にとって、それまで知らなかった企業や業種に目を向け、関心の幅を広げる機会になっていました。
▼ さらに、大学で行われる説明会は、その大学の学生を採用したいと思っている企業が参加しますので、学生にとっては、志望する企業を考える上で大きな機会になっていました。
こうした場がなくなるのは、学生にとっても、企業にとっても、出会いのチャンスを減らすことになりかねません。

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【どうすればいいのでしょうか?】
企業や大学の中には、
▼ 中止になった説明会で紹介する予定だった内容を動画にまとめ、自社のホームページで公開したり、
▼ 説明会に申し込みをしていた学生に配信したりする動きがでてきています。
こうしたウェブ上の情報は、ぜひ、積極的に活用してほしいと思います。
▼ また、大学の中には、学内で開く個別企業の説明会や、学部やゼミが開く説明会など、小規模なものについては、マスクの着用や手の消毒、さらに、企業の担当者と学生の間に間隔を空けるなどの対策をとった上で、なんとか開く方向で考えているところもあります。
▼ 事態が落ち着いたら合同説明会を再開したいという動きもあります。

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【面接など採用活動全体のスケジュールや内容に影響が出てくる心配はないのですか?】
公式のスケジュールは、この段階での変更は難しいという声が多くあります。一方、実際の採用スケジュールについては、(ここへきての混乱で、今後はわからない状況もありますが、)これまでの段階で言うと、去年より早いペースで進んできていました。

【実際の採用活動ですか?】
先ほど説明をしたスケジュールは、あくまでも、政府が要請しているスケジュールで、強制力はありません。実際の採用活動は、ここ数年で、大きく変わってきています。

【どういうことですか?】
企業が、今の大学3年生の採用に向けて、何を重視しているか。アンケート結果を見てみると、トップはインターンシップ。半数近くの企業が重視しています。

【インターンシップというと、企業で実際の仕事を体験してもらうことですね】
そうです。実際には、大半の学生が大学3年生の夏休みからインターンシップを受け始めていて、そこが事実上の就職活動のスタートになっているのです。
企業は、インターンシップを受けた学生の中から、優秀と判断した一部の学生に対して、さらに限定の、いわば2次インターンシップに誘ったり、早期の選考会に誘ったりしています。このように、ルールとは別にすでに、事実上の採用活動を進めている企業は少なくありません。
実際に、2月1日時点で、いずれかの企業から内定、あるいは内々定をもらっていると答えた学生が10.0%と、2年前より、5.4ポイント多くなっています。

【もう内定がでている学生がいるのですね】
そうです。すでに内定を出しているのは、もともとルールに縛られていなかったIT系や外資系が中心とみられていますが、
▼ 今年は、経団連に加盟している大企業も、経団連の指針がなくなったことで、採用活動を前倒ししやすくなったこと。
▼ それから東京オリンピック・パラリンピックが夏に控えているため、その前に、採用活動を終了したいという動きもあることから、去年より早めに動く企業が増えるのではないか。大手の内定のピークは、大型連休の前になるのではないか。との見方がでていました。

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ところが、ここへきて新型コロナウイルスの感染拡大の影響が広がってきたことで、大学や学生の側からは、
▼ 逆に、面接や内定といった採用スケジュールを遅らせる企業がでてくるのではないか。
▼ そもそも、業績が悪化する企業などは採用を絞るのではないか。
このような不安の声もあがり始めています。

【どうなりそうなのですか?】
正直、企業の側も、混乱しているので、わからない状況です。もし、事態が早めに収まれば、企業活動の回復が見込まれるため、全体的には採用計画に大きな影響はないのではないか、という見方が強いのですが、観光業や体力のない中小企業など、業種や規模によっては、採用を通常より遅らせたり、計画より減らしたりする動きがでてくることも考えられます。企業は、決まり次第、早め早めに情報をきちんと発信して、学生の不安を和らげてほしいと思います。
その上で、新型コロナウイルスの影響でひとつ言えるのは、オンライン面接を採用する企業が増えそうだという点です。システムを手掛けている企業には、注文が急増しているそうです。感染の心配がない。という点が大きいのですが、学生の交通費がかからないというメリットもありますよね。

【それでも、不安に思う学生もいそうですね】
そうですね。初めてでどう対応したらいいのか。通信環境は大丈夫なのか。といった不安はありそうですよね。大学のキャリアセンターなどに相談したいという学生もいると思いますので、企業は、こうしたことも、決まり次第、きちんと情報を発信してほしいと思います。その上で、学生も、企業の情報を広く積極的にとりにいくことが例年以上に、大事になってくると思います。

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全体的には、今でも企業の採用意欲は高いとみられます。焦らず、健康に注意して、取り組んでほしいと思います。

(今井 純子 解説委員)


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