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「CASEで変わる自動車の未来」(くらし☆解説)

神子田 章博  解説委員

ソニーが自動車産業に参入を表明し、トヨタ自動車が街づくりに乗り出すなど自動車産業をとりまく状況が大きく変わっています。神子田解説委員です。

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Q 大きく変わる自動車業界背景には何があるのか?

A キーワードはCASE。といっても何のことやらわらかないと思いますので、ひとつひとつ説明していきます。

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CASEとは、4つの頭文字を合わせたものです。
Cは=コネクティビティ つながり、という意味ですが、これはインターネットを通じて、動いている車と離れた場所の間で情報のやりとりができる。A=AUTO 自動運転ですね。人が運転しなくても車で思う所へ行くことができる。S=SHARE 1台の車を複数の人が相乗りする、あるいは複数の人がそれぞれ別の時間帯で共有するということ。そして E=ElECTRIC 電気自動車のことですね。

Q これが消費者にとってどういう意味があるのでしょうか?

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A 生活に身近な話からいきますとC=コネクティビティは、例えば宅配便を配送中の車の現在地を配送センターがリアルタイムで把握できる、すると新たに荷物を集荷する必要が生じた時に、一番近くにいる車がどれか即座にわかり、効率的な配送ができる。
さらに、大量の車の位置を一元的に把握できれば、交通量の少ない道に誘導して渋滞を防ぐといった効果も期待されています。

Q 生活にも関わってくるんですね?

A 車がどこにいるかという位置情報が正確につかめれば、地図の情報にもとづいて、道路に沿って動くようにする自動運転も可能となります。

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たとえば山の上に住むお年寄りが、歩いて向かうのは厳しい街中の病院まで、自動運転の車が連れて行ってくれるようになる。車の構造も、ハンドルとか運転席とかが必要なくなるので、あたかもリビングのなかにいて移動する様なものになるかもしれません。そしてこの自動運転、情報のやり取りは電気信号で行うので、車の動力などの指示系統がEつまり、電気で制御されるとなれば、止まるとか曲がるという指示も遅れなく伝わる。ということで、自動運転には電気自動車のほうが相性が良いといっている業界の関係者もいます。
 このように、CとAとSとEはそれぞれ別の概念をさしているのですが、この4つはお互いに関連したものなんです。

そして、CASEすべてが組み合わさると、こんなこともできるようになるんです。

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きょうは子供たちが楽しみにしていたドライブ。だけどお母さんが体調を崩していけません。ところがコネクティビティ=つまり家庭と車の間がつながって、情報がやりとりされることで、まず車の中にはお母さんの姿が。これアバターと呼ばれているいわば分身です。家の中にいるお母さんをカメラで撮影して、特殊なメガネの中にその像が浮かび上がり、お母さんの動きやおしゃべりをリアルタイムで再現。会話もできて、あたかもお母さんが同じ車に乗っているように感じます。さらに、お母さんの目にも、車から見る景色や、車のなかにいる家族の様子が見られるようになっていて、家にいながら、あたかも一緒にドライブに出かけている感覚が味わえるということになります。
自動運転の技術は、すでに、高速道路に乗ってから降りるまでハンドルを握らずに済むというところまで進んでいますが、さらに技術が進みますと、運転する役割をしているお父さんはもう必要ないということになって、若くてイケメンのアイドルのアバターが乗っているということになっているかもしれません。

Q そうなるとお父さんがかわいそうですが、この技術どこまで進んでいるんですか?

A これは決して絵空事ではなく、日産自動車とNTTドコモが共同で実証実験を始めています。実験では、大容量のデータを遅れることなく通信できるという次世代の通信規格5Gの通信技術をつかっています。後部座席に座っている人はゴーグル型の端末を装着していて、離れた場所にいる女性がアニメになって見えるんですが、その動きは、女性の動きをリアルタイムで再現し、会話もできる。技術はもうここまで進んでいるんです。

Q 自動車メーカーもCASE時代にむけて様々な開発を進めているんですね。

A そうですね。一方で自動車メーカーにとっては電動化が進めば、精巧な技術でガソリンやディーゼルエンジンを作ってきたという強みも薄れてしまうことになります。そうしたなか、最近では新たなライバルも登場しました。電機メーカーのソニーが先月、電気自動車のコンセプトカーを発表しました。この電気自動車は、ソニーがオーストリアの自動車メーカーなどとの協力を受けて開発したもので、33個の高機能のセンサーが道路など周辺の状況を感知するしくみです。2020年度の公道での走行実験をめざすということです。ソニーはスマホ向けのセンサーで大きなシェアを占めていますが、こうしたセンサーをクルマづくりに活用することで、今後自動車向けの市場を開拓する狙いもあるものとみられます。

一方で、自動車メーカー側も、車がネットにつながり、様々な情報を発信することで、その情報を活用する新たなビジネスが生まれる可能性があります。

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人は生活の中で、通勤や通学からレジャーまで車を使って移動することが多いのですが、その際に、どういうルートをたどったかや、レストランや土産物屋などどんな店に寄ったか、宿泊場所はどこで、どんなレジャー施設を訪れたかなどの情報をコンピューターネット上に集めてビッグデータ化します。

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それをAI=人工知能で分析することで、例えばドライブの途中でその人の好みのレストランにいくことを提案したり、レジャー施設の予約をとったりするなど新たなサービスを提供することが考えられます。こうした情報をめぐっては、グーグルなどの巨大IT企業も関心を示しているとみられていますが、自動車メーカーの中にも、集めた情報をつかって新たなビジネスを生み出すことができないか研究しようという動きが出てきています。
例えばトヨタ自動車は先月、静岡県裾野市の70万平方メートルの工場の跡地に、未来型の新しい街づくりを進めると発表しました。この街では、完全自動運転で二酸化炭素の排出がゼロという車や、一人乗りの小型の電気自動車などが走行します。自動運転の車は相乗りの送迎や宅配のサービスを行うだけでなく、移動型の店舗にしつらえて街を走らせる計画です。来年初めから建設にとりかかり、車に関する情報がどのように集まり、どのようなビジネスを新たに生み出すことができるか実証実験を通じて探っていきたいとしています。

Q こうした未来の車社会、いつ頃実現するんでしょうか?

A 電気自動車はすでに実用化され、自動運転の技術も日に日に進歩していますが、きょうご紹介したような未来の車が広く普及するには、安全をどう確保するかといった規制の問題や、まちづくりの中で自動運転の専用レーンを確保するなど行政の課題も残されています。また、クルマに関する膨大な情報が企業に集まるとなると、その個人情報をどう保護するか、情報の独占といった問題にどう対応するかといった課題もでてきます。

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未来の車社会をどのようにして安全で便利なものにしていくか。自動車メーカーのみならず、社会の知恵が問われていくことになります。

(神子田 章博 解説委員)


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