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「次のノーベル賞目指して ハイパーカミオカンデの挑戦」(くらし☆解説)

水野 倫之  解説委員

岐阜県飛騨市神岡町の山の中には小柴昌俊さん梶田隆章さんと2人のノーベル賞を生んだ世界に誇る施設があります。そして今年、3度目のノーベル賞目指して新たな施設の建設が始まります。建設されるのは、素粒子ニュートリノを観測して宇宙の謎に迫る「ハイパーカミオカンデ」。
山の地下で何が行われようとしているのか、水野倫之解説委員の解説。

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ハイパーカミオカンデは東大宇宙線研究所が、岐阜県の鉱山跡地の建設する巨大な水槽。

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直径74m、深さ60m。20階建てビルがすっぽり入るくらいで、センサーで水槽の中を通過するニュートリノという素粒子を観測。
建設費は650億円、3月にも地盤調査が始まり2027年度に完成予定。

ニュートリノは物質を構成する最も基本的な粒子・素粒子の一つ。
身の回りのあらゆるものは原子でできていて中心の原子核は陽子と中性子でできていて、細かく見るとこれ以上分けられない最小の粒子に行き着く。それが素粒子。
ニュートリノはその一つで、138億年前宇宙が大爆発で誕生した時に大量に生まれたほか、今も星の爆発などで生成され、宇宙を飛び交っている。
これを調べれば謎だらけの宇宙の成り立ちを解明する重要な手掛かりが得られる。
ただニュートリノは電気的にプラスでもマイナスでもなく物質とほとんど反応しない。
私たちの体内を1秒間に数10兆個通過していますがまったく感じない。「幽霊粒子」とも呼ばれる。
ただまれに水の分子に衝突して微弱な光を出す。
この光をセンサーで検出・分析するとニュートリノの性質がわかる。
そこで観測に邪魔な放射線などが入らないよう、地下深くに巨大な水槽を作ってニュートリノを徹底的に調べるのがハイパーカミオカンデ計画。実は3代目。

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同じ神岡町の地下に1983年に初代のカミオカンデが完成し、小柴昌俊さんが星の最期の爆発で生じたニュートリノを捉えノーベル物理学賞を受賞。
1996年に建設された2代目の大型のスーパーカミオカンデで梶田隆章さんがニュートリノに質量があることを証明し2度目のノーベル賞。
今やニュートリノ研究は日本のお家芸。
そしてこの分野で3度目のノーベル賞目指して建設されるのがハイパーカミオカンデ。

今も現役の2代目スーパーカミオカンデが水を抜いて点検が行われた時に取材した。
スーパーカミオカンデは地下1000m。
入り口入って研究者の案内でしばらく進んでいくと岩盤をくりぬいた巨大な空間。その下に水槽。
このフロアにはコントロールルームもあり、観測中は担当者2人が24時間張り付いてニュートリノの監視。
そしてここから車で40m分くだり、人ひとりが入るのがやっとの狭い通路を抜けてたどり着いたのが巨大な水槽の底。
水槽には5万tの水が入る。壁や床のガラス玉のようなものが光の検出器。
月面で照らした懐中電灯の光を地球上で検知できるくらい。
11000個取り付けられていて、これでニュートリノが水に当たって出るかすかな光を捉える。

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3代目となるハイパーカミオカンデは、この5倍の26万tの水をたくわえることができ、検出器も4倍の4万個。
これによって10年かかったデータの取得が1年でできるようになるということ。

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これで具体的には宇宙になぜ物質があるのか、なぜ我々は存在するのかという宇宙の根源的な謎に迫る。
宇宙が誕生したときには物質を作る「粒子」と、性質が正反対の「反粒子」が同じ数だけ生まれたと考えられている。
粒子と反粒子は電気的に+と-で、回転の様子も鏡に映したように正反対で、宇宙の始まりの頃はお互いがペアでぶつかっては消滅。
ところが今の宇宙には粒子だけが存在し、反粒子はほとんど存在しない。
でもそのおかげで、宇宙は物質であふれ、地球も、そして我々も存在している。
なぜ反粒子が消滅したのかは大きな謎。

そこで素粒子の一つニュートリノで、なぜこうした現象が起きるのかを突き止めようというわけで、人工的に作ったニュートリノと反ニュートリノをハイパーカミオカンデに別々に打ち込んで観測。
その装置があるのが茨城県東海村にある実験施設「JPARC」。
加速器で陽子を光の99%まで速度を上げて衝突させると、ニュートリノと反ニュートリノが出てくる。
これを300キロ離れたハイパーカミオカンデの水槽に向けて地下から別々に打ち出す。
今後装置を改良すれば、1日に2兆6000億個のニュートリノと反ニュートリノがそれぞれ別々に水槽を通過させて、このうち300個が観測できる見込み。

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データを分析して宇宙誕生の謎に迫ることができれば3度目のノーベル賞も夢ではない。
ただこの分野競争が激しくなっていて、アメリカも似た施設の建設をすでに始めている。
宇宙の謎解明に向けて再び日本が大きな貢献することを期待したい。

(水野 倫之 解説委員)

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