「魚種交代? 変わる食卓の主役」(くらし☆解説)
2020年01月16日 (木)
合瀬 宏毅 解説委員
サンマやイカなどの不漁が続く一方、イワシが豊漁となるなど海の環境変化が強く指摘されています。合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員です。
Q.去年は本当にサンマが高かったですね。
スーパーでは一匹、500円という時もあって、高級魚顔負けの価格が続きました。それだけ漁獲量が少なかった。
どれだけ少なかったのか、先週、業界団体が発表した、去年の漁獲量見てみますと、シーズンが始まった8月から12月までの5ヶ月間で捕れたサンマは4万517トン。前の年の3分の1にとどまりました。
各地区の漁獲量を見てみると、水揚げが最も多い北海道の花咲港で1万6000トンと前年比で61%減、岩手県大船渡港、宮城県気仙沼市いずれも大幅に水揚げを減らし、千葉県銚子港に至っては、前年の14%しかとれませんでした。
Q.本当にとれてないですね?
こうした地域はサンマを水揚げするだけでなく、干物や缶詰などにする加工工場がたくさん集まっています。地域経済にも大きな影響を与えています。
産地だけではありません。こちらは9月に行われた、毎年恒例の目黒のサンマ祭りの様子です。会場ではこの日、およそ7000匹のサンマの塩焼きが、お客に無料で振る舞われました。例年は岩手県宮古市で水揚げされたばかりのサンマが用意されますが、今年は深刻な不漁が続いているため、前年に冷凍保存されていたサンマを振る舞う異例の対応が取られたのです。
Q.なぜ今年はそれほど、とれなかったのですか?
そもそも去年の不漁、予想はされていた。
サンマは北海道の沖、千島列島より南側に分布し、
8月以降、一旦北上した後、親潮に乗って日本近海に回遊してきます。ところが水産庁の研究機関がシーズン前の6月から7月にかけて調べたところ、
8月に回遊するサンマが見当たらず、遙か遠い地域にしか分布していないことが分かった。
このため、水産庁としてはサンマがとれ始めるのは例年より1月ほど遅い9月下旬以降で、漁獲量も去年に比べ、3割ほど少なくなるとみていた。
Q.しかし実際にはもっと少なかったですよね。
そうなのです。サンマを導く親潮の動きが思ったより弱かったこと。そして北海道沖に、エサで競合関係にあるイワシが群れを作ったこと。こうしたこともあって、サンマが北海道沖に入ってこなかった。
ようやく10月下旬に大きな群れがやってきたのですが、その時期、台風が連続して日本を襲いました。海がしけて船が出航できず、結局は水揚げの減少につながった。
サンマのいる北太平洋では、以前から乱獲による資源への影響も心配されており、価格もすっと高止まりしている。
Q.価格が高いときには、ほかの魚を食べればいいが、去年は他も高かったですよね。
そうなのです。ほかの魚も獲れていない。去年1年間の水揚げ量を見てみますと、例えば秋鮭は4万7000トンと5年前に比べて60%少なくなっていますし、スルメイカも2万6000トンと、5年前に比べ半分以下に(64%減少)減るなど、歴史的な不漁となっている。価格も軒並み上がっている。
ただ、すべての魚がとれなくなっている訳ではありません。イワシやブリなどの魚が北海道沖で急にとれだしていて、特にイワシは去年の水揚げ量が49万トンと、5年前に比べて2.3倍に増えている。
それも影響しているが、専門家の間で指摘され始めているのが、そもそもの海の環境の変化なのです。
Q.そもそもの海の環境ですか
はい。北太平洋は数十年単位で、海流や海温の変動を繰り返していることが知られています。
こちらはその変動を示したグラフですが、1950年代から70年代にかけては、北太平洋が比較的暖かい温暖期を迎え、次に90年代初期まで寒冷期が続き、再び温暖期になっています。
この海の変動で、漁獲できる魚が変わっていて、代表的なのはマイワシです。マイワシは温暖期には全く獲れず、それが寒冷期になった途端にとれ始め、80年代の漁獲は400万トンを超えて、日本漁業を支えました。それが90年代以降、全く獲れなくなり、幻の魚と呼ばれるまでになった。寒冷期に捕れる魚は他にも、スケトウダラなども知られています。
Q.そうなのですか。
一方で全く違う動きをする水産物もいます。例えばスルメイカです。温暖期には年間80万トンぐらい獲れていましたが、寒冷期になって獲れなくなりました。そして温暖期には再び獲れるようになった。カタクチイワシなども温暖期に増える魚です。
こうした獲れる魚が変わる現象は「魚種交代」と呼ばれ、数十年単位の海の変動が、海水温や海流を通して、エサの分布に影響を与え、生息する魚介類の種類を左右した結果だとされています。
こうした温暖期と寒冷期に捕れる魚が、ここ数年、再び変わってきていることから、海が転換期を迎えているのでは無いと考える人たちが増えてきた。
Q。その変化の中にサンマもあるということですか?
サンマの増減が数十年単位の変動とどういう関係にあるのか、まだよく分かっていません。
ただ、海が変化している以上、サンマも何らかの影響を受けているのでは当然だと考える人は多い。
Q.私たちはどう対応すれば良いのでしょうか?
資源が減りつつある今こそ、資源管理に力を入れるべきだという声が強い。資源が減少しつつあるときに、さらに魚をとり続けていると、資源が枯渇しかねないから。
実は北太平洋の公海上では、日本の他、中国や台湾などが、競争しあいながらサンマを取り合っている。これがサンマの資源量に大きな影響をもたらしているとされてきた。
このため、この地域でサンマを獲っている国と地域が、2015年にこの地域の資源管理を行うための組織を設立し、管理のあり方について議論を進めてきた。
Q,その資源管理、どうなっているのか?
5年にわたって議論を続けてきた結果、ようやく去年、8つの国地域で、合わせて55万6000トンのサンマを捕ることで、合意した。サンマの漁獲量について、国際的な合意が得られたのは初めてのことです。
しかしこの55万トンという数字、おととしの全体の漁獲量が43万トンですから、枠が大きすぎだとする声も少なくありません。各国の利害がぶつかり合う中で、まずは合意を得ることを最優先した結果だった。
Q.これでサンマを守ることはできるのか?
これまで見てきたように、水産物は海の環境や、漁業の圧力を強く受け続けることがわかっている。もし、北太平洋が海の転換期にあたるなら、しばらくはサンマを獲ることを控えた方が良いかもしれません。
一方で、イワシのようにたくさんとれる魚も出てきている。ただ、イワシは余り人気が無く、多くが養殖のエサとして使われているのが現状。たくさんとれる魚をどう利用するのか、私たちも発想を転換して対応することが必要なのかもしれません。
(合瀬 宏毅 解説委員)
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