「2020年 国民の視線は?」(くらし☆解説)
2020年01月15日 (水)
太田 真嗣 解説委員
ことし初めてのNHKの世論調査が、きのう(14日)公表されました。来週からは通常国会も始まりますが、緊迫が続く中東情勢や、カジノを含むIR=統合型リゾート施設の整備など、山積する政治課題を国民はどう見ているのでしょうか。
≪安倍内閣の支持率≫
今年の年明けは、アメリカとイランの対立で、中東情勢の緊張が、一時、非常に高まりましたし、年末には、カジノを含むIR=統合型リゾート施設をめぐって現職の衆議院議員が逮捕され、政界に動揺が広がりました。そうした中、安倍内閣の8年目のスタートがどうなるかが注目でしたが、1月の世論調査の内閣支持率は、「支持する」が44%、「支持しない」は38%と、大きな変化は見られませんでした。
こうした世論の背景には、IR汚職事件や、総理主催の「桜を見る会」をめぐる対応といったマイナスの要素がある一方、国際情勢が厳しさを増す中、安倍総理の外交手腕へのプラスの期待があるように思います。
支持率を細かく見ますと、安倍内閣を支持しない理由では、「人柄が信頼できないから」が46%と最も多くなっています。この項目は、『桜を見る会』への批判が強まった、先月の調査で上昇し、今回も高いままです。
一方、内閣を支持する理由を見ますと、「他の内閣より良さそうだから」が51%と高く、次いで、「実行力があるから」が19%となっています。そこには、中東の緊迫化など、難しい国際情勢に直面している中、外交の継続性の面でも経験豊富な現政権に任せておいた方が良いという判断。加えて、野党の合流に向けた協議が難航していることの影響もあるでしょう。
≪中東情勢への懸念と自衛隊派遣≫
今回の調査で、中東情勢が国際情勢や日本経済に与える影響をどう見ているかを聞いたところ、「大いに懸念している」が38%、「ある程度懸念している」が43%で、「あまり懸念していない」は10%、「まったく懸念していない」は3%でした。
アメリカ・イラン双方とも、いまのところ、「全面対決につながるような、事態のエスカレートは望んでいない」という姿勢を見せています。ただ、今月8日には、ウクライナの旅客機がイランに誤って撃墜され、多くの犠牲者が出る惨事も起きました。極度の緊張状態が疑心暗鬼を生み、不測の事態が起こらないとも限りません。
そうした中、日本政府は、中東地域で日本に関係する船舶の安全確保に必要な情報収集を強化するため、独自の取り組みとして、自衛隊の護衛艦などを中東に派遣することにしています。そこで、今回の調査で、その賛否を聞いたところ、「賛成」は45%、「反対」は38%でした。
エネルギー供給の大半を中東に依存している日本にとって、船舶の安全確保は、非常に重要です。ただ、▼日本が巻き込まれる恐れはないのか、▼隊員の安全確保は十分なのか、といった不安もあります。今回、安倍総理がサウジアラビアなど周辺国を訪問したのも、こうした自衛隊の派遣に関係国の理解と支持を求めるためです。加えて、これらの国々にイランとの対話を促すなど、地域の安定化に向け、日本として外交努力を続けるとしています。
≪カジノを含むIR施設の整備≫
カジノを含むIR=統合型リゾート施設の整備について、政府は、外国人観光客の誘致や地方創生の重要な切り札と位置付け、「引き続き整備を進めていく」としています。
しかし、今回の調査で、IRの整備を進めることの是非を聞いたところ、「進めるべきだ」は25%だったのに対し、「やめるべきだ」は54%と半数を超えました。現職の衆議院議員が逮捕されたこともあって、野党の支持層だけでなく、与党の支持層でも、「やめるべきだ」という声が多くなっています。
カジノの導入をめぐっては、誘致を目指している自治体の間でも、「地域活性化の起爆剤となる」という期待の一方、住民からは、「治安への影響などについて十分な説明がない」といった不満の声も聴かれます。野党側は、「カジノは不正の温床になる」などとして、IR整備法を廃止する法案を、国会に提出する方針です。
≪立件民主党と国民民主党の合流≫
立憲民主党と国民民主党の合流に向けた協議は、先週、両党の代表よる会談が行われましたが、政策や党名をどうするかなどをめぐって結論が出ず、調整が続いています。
両党の合流について、期待しているかどうかを尋ねたところ、「期待している」は23%。これに対し、「期待していない」は69%でした。両党の支持者と、それ以外では、当然、期待度は違うのですが、『野党支持層』という括で見ると、半数が「期待していない」としている上、両党が支持を得たいとしている無党派層も多くが冷めた目で見ていることがわかります。
今回の話しは、「巨大与党に対抗するには、野党勢力の結集が必要だ」ということで始まりましたが、両党は、憲法改正や原子力政策などに対する考えの違いから、『ゴタゴタ』が生じ、分裂した訳ですから、その点を曖昧にしたまま、再び合流しても、国民から見れば、「前と同じで、何も変わらない」ということでしょう。
まず、重要なのは、いまの政権に代わって、「自分たちはこれをやる」という旗をどう立てるのか。そして、今後の国会論戦で、きちんと存在感を示していかなければ、国民の期待を集めるのは難しいと思います。
≪ことしの景気・通常国会の展開は?≫
来週から始まる通常国会では、先の消費増税の影響など、今後の日本経済の行方も大きな議論になると思います。
今回の調査で、ことしの景気の見通しについて聞いたところ、「良くなる」は13%、「悪くなる」は23%で、55%の方が、「変わらない」と答えています。今年は、東京オリンピック・パラリンピックが開催され、多くの観光客が日本を訪れることが期待されますが、国民の景気の先行きに対する見立ては、1年前と、ほとんど同じです。
政府は、「今後も緩やかな回復が続くことが期待される」としていますが、消費増税に伴う対策も、今後、順次終了しますし、米中の貿易摩擦の行方など、世界経済の下振れリスクもあります。このため、政府・与党は、26兆円規模の経済対策をまとめ、こうした対策を盛り込んだ、今年度の補正予算案と新年度予算案の早期成立を目指す方針です。
一方、野党側は、「格差拡大が個人消費の低迷を招いており、経済発展につながる所得の再分配を進めるべきだ」としています。加えて、IRの問題や、『桜を見る会』などをめぐって、引き続き政府を追及する方針で、国会は幕開けから激しい議論が交わされることになりそうです。
(太田 真嗣 解説委員)
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