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「はやぶさ2が帰ってくる!」(くらし☆解説)

水野 倫之  解説委員

小惑星への着陸、そして地下の岩石採取に成功した探査機はやぶさ2が、いよいよ今年、地球へ帰ってきます。地上では今、帰還に向けた準備が急ピッチで進められています。
水野倫之解説委員の解説。

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去年11月にリュウグウを出発したはやぶさ2は、今は地球から直線距離で2億5000万キロのところを飛行中。
帰還予定は今年11月か12月、総飛行距離は8億㌔の長旅となる見込みで、その要となるのが電気で推進するメインエンジン。

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今のところ順調だが、初号機では地球到着前に4基すべて壊れて瀕死の状態となったこともあり、運用チームは今も毎日、エンジンの温度や圧力、燃料の流量などの監視を続ける。

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はやぶさ2、去年は大きな成果を残した。
中でも意義ある成果が地下の岩石の採取。
金属の塊を地表面に打ち込んで直径10mあまりのクレーターを作ることに成功、7月にそのヘリ部分へ着陸し、むき出しになった地下の岩石採取に成功したとみられる。
この地下の岩石が注目されるのは、私たちのような地球生命のルーツを解き明かすカギになる可能性があるから。
今地球上には3000万種を超える生命がいるが、すべての生命は炭素のつながりでできている。この炭素のつながりがこの地球上でどうやってできて生命が誕生したのか、大きな謎。

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というのも誕生したばかりの地球は灼熱のマグマで覆われていたから。
これまでの定説では地球内部から材料が湧き出して、化学反応を起こして炭素のつながりができたと考えられてきた。
ところが研究が進むにつれてそうした材料は少なく、生命のルーツには遠いことがわかってきた。

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そこで注目されるのが小惑星から供給されたという説。
小惑星の中にはリュウグウのように炭素が豊富だったり、氷を大量に蓄えているものがあるが、小惑星内部に残っていた熱によって氷が解けて温泉のような環境ができ、そこで炭素の長いつながりが生まれたんではないかと。
こうした炭素のつながりを持った小惑星が太古の地球に相次いで飛来、やがて生命が誕生していったという説が有力になって。
今回リュウグウで、宇宙の放射線などの影響を受けていないいわばフレッシュな地下の岩石が採取できたわけで、これを分析すれば生命のルーツに決着がつけられるかもしれないことから、はやぶさ2の帰還に注目。

帰還を前に地上ではすでに岩石受け入れに向けた準備が急ピッチで進められている。
先週、はやぶさ2の管制室がある神奈川県相模原市のJAXAを訪ねたところ、専用の分析装置がすでに完成。
JAXA安部正真准教授
「装置の中は高純度の不活性な窒素で満たされていて、地球の外気や水に触れることなく試料の分析ができます。」
小惑星の岩石の分析で最も重要なポイントは、試料を汚染しないこと。
リュウグウの岩石ははやぶさ2のカプセルに収納され、宇宙空間の真空状態で蓋が閉められている。地球に投下されたカプセルは開封せずに施設に運ばれ、装置の中で開封される計画。
岩石は半年かけて顕微鏡などで観察され、岩石の大きさや重さが調べられるほか、水や炭素を含む有機物がどれだけ含まれているかも測定。

岩石が入ったカプセルは初号機と同じくオーストラリア南部の砂漠地帯に投下する計画。
地球に数10万キロまで接近したところでカプセルを本体から分離。
カプセルは大気圏に再突入、3000度の高熱にさらされながら降下し、最後はパラシュートを開いて砂漠地帯にソフトランディング。
ただどんなに精密に制御しても投下地点は150キロ程の誤差が出る。
投下場所は広大で人口密度が低く、探しやすいように平坦な地形であることが条件で、オーストラリアの砂漠地帯が選ばれた。

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現在回収チームがウーメラへのカプセル投下の許可を得るため、オーストラリア宇宙庁と協議を進めていて、人への影響や環境を汚染しないか、野生動物を絶滅させるようなことがないかなど審査が行われていて、問題ないと判断されれば許可が出る。

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宇宙機構では今回40人規模の回収チームを編成し、今後国内で、カプセルから出る電波をとらえて回収する訓練も行うことに。
そして今回の帰還、初号機と大きく異なり新たな期待が膨らむのが、次なる第2のミッションが計画されている点。
初号機はトラブル続きだったため本体も大気圏に突入して燃え尽きたが、はやぶさ2はエンジンも健全、カメラも撮影でき、燃料がまだかなり残っていて、あと10年は運用できるということ。
そこでチームではカプセル投下後、はやぶさ2本体を、別の小惑星などに向かわせることを計画。

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現在350余りの候補がリストアップされていて、チームではターゲットを決めて探査計画を作りたいとしている。
今年ははやぶさ2にとって新たなスタートの年ともいえるわけで、今後も続く挑戦に期待したい。

(水野 倫之 解説委員)


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