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「どうなる? 2020年のくらし」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

今年は、東京オリンピック・パラリンピックを控え、ぜひ、明るい年になってほしいと思っています。今井解説委員。

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【ですが・・タイトルには、黒い雲が出てきていますね】
はい。アメリカ軍がイランの司令官を殺害したことで、今年の日本経済は、株安・円高、そして原油高で始まる形になりました。

【心配ですね】
そうですね。そして今年は、暮らしについても、不安感が増している。そんな心配な数字があります。

【どのような数字ですか?】
2020年=今年の家計の見通しについてのアンケート調査です。「変わらない」と答えた人が、半数に達していますが、心配なのは、「悪くなる」と答えた人が37.8%と、一年前と比べて8ポイントあまり増えている点です。この5年間で最悪の数字です。
理由としては、「収入が減るのではないか」「消費増税の影響が響いてくるのではないか」といった点が挙げられています。収入の面でも、負担の面でも不安があるということです。

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その上で、今年、おカネをかけたいことのトップ10を見てみますと、一年前と比べて「ふだんの食事」「外食」が大きく減った一方、「貯金」が11ポイントあまり増えて一年前の5位から2位に。「老後の暮らしの準備」も、23位から8位に上がりました。老後2000万円問題が話題になったことに加えて、生活への不安から、守りを固めたいと考えている人が多いことがうかがえます。(博報堂生活総研)

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【具体的には、何がそんなに厳しくなる、というのですか?】
まず、負担の面。家計を取り巻く制度がどう変わるか見てみますと・・
▼ 今月から、所得税が一部変わりました。会社員の給与所得控除、そして誰にでも適用される基礎控除が見直されました。その結果、年収850万円を超える会社員と公務員は増税となります。一方、自営業やフリーランスで働いている人は、減税となります。増税になる人が230万人。減税になる人が300万人程度になるとみられています。

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【減税になる人の方が多いのですね】
もともと制度上、会社員の税負担が低かった。だから働き方による不公平をなくしていこうという考えなのですが、全体では、900億円程度の増税になる見通しです。
▼ そして、3月には、去年10月の消費税率引き上げに伴って導入されたプレミアム付き商品券の制度が終わります。自治体によって違いはありますが、遅くとも3月末までには使わないといけないのです。また、一定の基準を満たした住宅の新築やリフォームで、最大35万円分のポイントがもらえる次世代住宅ポイントの制度も3月に終わります。
▼ さらに、6月には、キャッシュレスのポイント還元の制度が終わります。

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【毎日のように利用しています】
12月には、およそ94万店で使えるようになっています。増税前より割安になることから、最新では、一日平均およそ14億円が還元されるまで利用が増えています。

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【それだけ消費者は助かっているわけですね】
逆に、制度が終わるとその分、懐に響きますよね。
▼ そして、9月には、車を買う時にかかる自動車税が、環境性能に応じて、最大、価格の1%分軽減されていた制度も終わります。
こうした対策は、増税後の消費を支えるひとつの要因になったとみられています。それが、順次なくなることで、それぞれ、かけこみ需要と、その後の消費の落ち込みが心配されています。

【負担が増える項目が目立ちますね】
負担が減る項目もあります。
▼ まず、収入の低い世帯を対象に、4月から、大学や短大などの入学金や授業料などが減免される制度が始まります。
▼ また、9月から(来年3月までですが)、マイナンバーカードを持っている人を対象にした新たなポイント制度が始まります。手続きをすれば、最大2万円の買い物などで5000円のポイントが受けられる制度です。
ただ、家計全体の負担を差し引きでみますと、今年は、消費増税の負担がまるまる一年分乗ってくることもあり、去年と比べて、年間1兆6000億円、負担が増えるとみられています。(第一生命経済研究所)

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【一人いくら負担が増えるのですか?】
年収や家族構成などで大きな差がありますが、単純に、国民一人当たりで割ると、一人1万3000円近く負担が増える計算になります。そこに、中東情勢の緊張で、原油高が続くと、ガソリンや灯油などの価格が上がる。その負担が乗っかってくる心配もでてきます。

【負担が増える分、収入が増えてくれないと困りますが、冒頭のアンケートは、収入についても、不安があるという結果でしたね。どのような背景があるのですか?】
▼ まず、年末のボーナス。中小企業も含めた民間企業の一人当たりの支給額は、4年ぶりに減少したというのが、多くの民間シンクタンクの分析です。
▼ そして、残業時間の上限規制。大企業には去年、導入されましたが、今年の4月からは、働く人のおよそ70%が務めている中小企業でも導入されます。働き方改革の一環で、必要な規制ではありますが、これによって、残業代が減るのではないかと心配する声も上がっているのです。
▼ さらに、去年は、希望退職を募った企業の数、そして募集人数ともに、一年前の3倍の勢いで増えています。働く立場とすると心配ですよね。

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【賃金の引き上げは期待できないのでしょうか?】
▼ 春闘はこれからですが、今年度、企業は全体で減益となる見通しです。賃金はこれまで6年連続で引き上げられてきましたが、今年は、その勢いが鈍るのではないかという心配の声が上がっているのです。

【暗い話ばかりですが、明るさは全く見えないのでしょうか?】
米中の貿易摩擦が少し改善する兆しが見えてきたと思ったら、中東情勢の緊張が高まり、今年も、世界経済を覆う不安の雲はなかなか晴れないかもしれません。

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ただ、足元では、
▼ 半導体の需要の落ち込みが、ようやく底を打って、これから、次世代の通信規格5G向けに需要が伸びていくのではないか。
▼ 東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに、外国人観光客が一段と増えるのではないか。
▼ さらにAIなど新しい技術の導入や人手不足への対応で、活発な設備投資が行われるのではないか。
そういった期待も出てはいます。大事なのは、こうした動きを、今度こそ、家計につなげていくことです。

【言われて続けている課題ですが、どうしたらいいのでしょうか?】
冒頭のアンケートからもわかるように、このままでは、守りを固めるために消費者の節約志向が益々高まって、消費が戻らない心配があります。それは企業にとってもマイナスです。減益といっても、全体では企業の利益の水準はまだ高いですし、抱える現金・預金も1年前よりさらに増えて270兆円を超えています。

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▼ いつも言っていることですが、少しでも余裕のある企業は、賃金を底上げすること。いつも厳しいと言っている中小企業も、残業代を減らした分は、賃金の引き上げに回せるはずです。
▼ また、年金だけでは生活が厳しいという人が、元気なうちは無理なく働き続けられる環境づくりに力を入れることも大事です。

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国も企業も、働く人たちが少しでも暮らしに明るさを感じることができるよう、今一度考えてほしいと思います。

(今井 純子 解説委員)

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