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「結局どうなる?大学入試」(くらし☆解説)

西川 龍一  解説委員

テーマは、大学入試です。2021年に行われる入試から大学入試センター試験が、大学入学共通テストに変わります。しかし、ここにきて英語の民間検定試験の利用と国語・数学の記述式問題の導入が見送られることが決まりました。受験を予定している高校生や保護者にとって気になるのは、「結局どうなるのか」ということではないでしょうか。

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Q1.結局どうなるんですか?

A1.試験の形式だけを見れば、名前が変わるだけということになりました。見送りが決まった英語の民間検定試験利用と国語・数学の記述式問題の導入というのは、大学入学共通テストの2つの柱と位置付けられていました。その2つがともになくなるということで、共通テストは従来のマークシート方式だけの試験として実施されることになったということです。

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Q2.振り出しに戻るという感じですね?

A2.まったく変わりなしということではありません。共通テストを実施する大学入試センターは、6月に記述式導入にともなう変更点などを発表していました。数学は現行では60分の試験時間を共通テストでは70分に延ばして、マークシートと記述式で100点満点としました。国語は80分を100分まで延ばして、マークシートを200点満点、それに記述式を5段階評価として、利用する大学が加点できるとしていました。記述式の導入を止めるわけですから、数学はすべての問題をマークシートに切り替え、国語は切り離して採点することになっていた記述式の部分を止めることになります。
一方で、問題の中身について、従来のセンター試験は、知識と技能中心ですが、共通テストは、単純に選択肢から正解を選ぶのではなく、思考力や判断力、表現力も測定できるようにこれまで以上に問題を工夫する方針です。こうした問題への対応もあり、試験時間も含めて検討し、遅くとも来月半ばには問題作成方針を示したいということです。

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Q3.英語はどうなるのですか?

A3.こちらは、出題内容と配点の割合が大きく変わります。英語は、「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能を測るため、民間の検定試験を利用することを決めた際に、共通テストでもマークシートの問題は当面残すことになっていました。ただし、これまで出されていた発音やアクセントの問題、英文を正しく並び替えて文章を作る問題は取りやめて、「読む」「聞く」の2技能だけを測るものにすることを決めていました。そして「読む」テストを100点、「聞く」テストを100点の配点として200点満点とすることになっていました。民間試験の利用は見送りますが、大学入試センターは、この方針は、変えないことにしています。

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Q4.「発音」や「アクセント」の問題は出なくなるということですか?

A4.そうなります。センター試験は、英語は250点満点で、「聞く」以外を200点、「聞く」テストを50点の配点でした。共通テストでは、「聞く」力を問う問題が増えて、比重がかなり大きくなることになります。

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Q5.それにしても高校生や保護者にしてみれば、振り回された印象ですよね?

A5.第1回の共通テストは2021年1月16、17日と実施日が決まっています。本番まで1年1か月を切る時点での見直しというのは、本来、あってはならないことです。影響はその年の受験生に限らないからです。
大学入試センター試験を大学入学共通テストに切り替える今回の大学入試改革は、6年前から議論が続いてきました。そもそも1発勝負、1点刻みの入試で評価するのではなく、知識を活用し、自ら判断する力を測る入試にするということが方向性として示されました。そのため、年に複数回受験できるようにすることや、複数の科目を横断した合科型の問題の出題などの導入が検討されましたが、課題が多く、結局英語の民間試験と国語・数学の記述式問題を導入することで落ち着くことになり、おととし7月に文部科学省が共通テストの実施方針を決めた経緯があります。
ただ、英語の民間試験と国語・数学の記述式を導入することの問題点は、当初から指摘され続けてきました。

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Q6.どんなことですか?

A6.50万人の共通テストに導入するという大きな足かせです。たとえば国語の記述式では、機械で処理していた採点を短期間に人海戦術で正確に行うことが可能なのかという課題がありました。解決しようとすればするほど、テスト自体がパターン化して、思考力や判断力を測るという本来の目的から遠のくというスパイラルに陥ることになりました。
英語の場合は、公平性を保てるのかという疑念が最後まで拭えませんでした。受験生はもともと目的の異なる複数の民間試験の中からどの試験を受けるのか決めなければなりませんでした。しかし、志望する大学が課す民間試験を地元で受けられるかもわからない状態が続き、家庭の経済状況がこれまで以上に受験を左右するところでした。

Q7.そもそも無理だったという印象ですね?もっと前に決断できなかったんですか?

A7.記述式に関しては、去年とおととしの2回行われた試行テスト・プレテストで、受験生が最終的な受験先を決めるために必要な自己採点が難しいという新たな問題が明らかになりました。英語に関しても、民間試験導入のあり方を検討するため非公開で行われた有識者会議でこうした課題が一部の委員から指摘されていたことが、今週文部科学省が公表した議事録を読むとわかります。

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こうした見直しの機会を逃し続けたことの影響は、1つの学年にとどまるものではなく、大学入試センター試験最後の受験となる今の高校3年生を中心とする今年の受験生にも広がっています。

Q8.どんな影響ですか?

A8.浪人を避けるために、志望校の難易度を下げる安全志向の高まりです。制度が変わることに大学進学を目指す高校生が不安を抱くのは仕方のないことです。それを少しでも払拭するためにも早い決断が必要でした。実際、今回は英語の民間試験や記述式の導入が見送られる前に、推薦入試の出願が始まっていました。関係者によりますと、もっと早い段階で導入見送りが決まっていれば、浪人を避けるためにあえて難易度が低い大学の推薦を受けることはなかった生徒は少なからずいると言います。不安にかられ、高度な教育を受ける機会にチャレンジする精神を損なうことになったこと、影響は大きいことを文部科学省、大学入試センターともに認識する必要があります。

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Q9.今後はどうなるのですか?

A9.共通テストはこういう形になりましたが、これを各大学がどう利用するのかは、これから改めて各大学が判断することになります。各大学は、一刻も早く公表する必要があります。

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一方、共通テストについて、文部科学省は、次の高校の学習指導要領が実施されて教育内容が大きく変わる時期に合わせて、2025年1月のテストから英語の4技能が測れる試験を導入できるよう今後1年をかけて検討します。記述式についてはいったん白紙に戻して、評価方法を再考するとしています。本格的な見直し議論は年明けからとなります。できることとできないことを見極め、多くの関係者を振り回した今回の轍を踏むことがないように求めておきたいと思います。

(西川 龍一 解説委員)

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