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「『ガンダム衛星』と日本の宇宙産業」(くらし☆解説)

片岡 利文  解説委員

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これは本物のガンダム衛星とほぼ同じ複製品。大きさは10センチ×10センチ×34センチ、重さは2.9キロと、手で持てるサイズの人工衛星。そして、ロボットの模型が、飛び出してくる。

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このロボットは、今から40年前に放送されたテレビアニメ「機動戦士ガンダム」の主役となるモビル・スーツ。そして、隣の赤いのがガンダムのライバル、シャア専用ザク。

このガンダム衛星、正式にはG-サテライトと呼ばれ、東京オリンピック・パラリンピックの大会組織委員会が中心となって、東京大会の応援企画として宇宙に飛ばそうと進めてきたプロジェクト。
12月5日、ガンダムの生みの親、アニメーション映画監督の富野由悠季さんも迎え、完成した本物のガンダム衛星が、衛星の打ち上げを担当するJAXA・宇宙航空研究開発機構に、引き渡された。
  
このあとのスケジュールは、来年の3月中旬に補給船で国際宇宙ステーションに運ばれ、4月に宇宙空間に放出。そのあと、ガンダムの模型と、カメラを仕込んだパネルが開き、 地上400キロメートルの宇宙から送られてきたこのような画像が、大会組織委員会の公式ツイッターで配信される予定。

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こうして東京大会を盛り上げたあと、1年から2年の間地球を周回し、そのあと大気圏に突入して、宇宙ゴミとはならずに燃え尽きる。

このガンダム衛星、東京オリンピック・パラリンピックを盛り上げるイベントとしては楽しみだが、「日本の宇宙産業」と、どう関わってくるのか。

私は、このガンダム衛星は、ニッポンの3つの底力を世界に示す“宇宙のショーウィンドウ”だと考えている。
その3つの底力とは、ジャパンブランド、超小型衛星、そして地場産業。

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まず、ジャパンブランド。
アニメのガンダムシリーズは、すでに世界26の国と地域で放送されている、日本を代表するジャパンブランド。そして、アニメに登場するモビル・スーツをかたどった国産のプラモデル、いわゆるガンプラは累計出荷数が5億個を超え、いまや出荷数の半分が海外向け。今回、宇宙からガンダム衛星の画像が広く配信されることで、日本のロボットアニメやキャラクターモデルといったジャパンブランドの人気が、世界でさらに高まると期待されている。

続いての底力は、超小型衛星。
人工衛星全般でいうと必ずしも日本が世界に先んじているわけではないが、ガンダム衛星のような極めて小さな超小型衛星をコストを抑えて作る技術は、日本が得意とするところ。その第一人者が東京大学の中須賀真一教授で、ガンダム衛星も中須賀教授の研究室が開発したもの。

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一般的な観測衛星を飛ばそうとすると、何百億円ものお金がかかるのに対し、中須賀教授の超小型衛星は、開発期間は半分以下、コストはおよそ100分の1の数千万円で収まるという。

しかも、中須賀教授の超小型衛星は、これほど小さいにもかかわらず、地上から発信される極めて微弱な電波を400キロメートル離れた宇宙空間でキャッチし、情報処理して地上に送り返すことができる。

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そうすると、例えば温度、気圧、位置情報、川の水位などを測る安価なセンサーを地上にいくつか置いておけば、上空の超小型衛星が、その情報をキャッチし、処理して、搭載しているカメラの映像とともに地上に送ってくれる。

それに目をつけたのが、アフリカのルワンダ。主な産業は農業だが、大雨や洪水の被害が多い地域でもある。そこで、農地の状態や川の水位などを宇宙から監視するために中須賀研究室に依頼して、このルワンダ衛星を共同開発した。
   
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大きさはガンダム衛星と同じだが、模型を積むスペースが必要ないので、そこに、より高性能なカメラが搭載されている。

11月20日、ガンダム衛星に先んじて、そのルワンダ衛星が国際宇宙ステーションから無事放出された。
ルワンダでうまくいけば、他の発展途上国からも引き合いがきて、超小型衛星を使った国際貢献型の宇宙ビジネスを広げていくことができるのではと期待されている。
さらに、中須賀教授の教え子が作ったベンチャー企業では、こうした超小型衛星を数十基打ち上げることで、地球全体をカバーする衛星の輪を組み、そこから得られる情報を利用するビジネスに乗り出そうとしている。
こうして盛り上がりを見せる超小型衛星をひとつの核に、日本の宇宙産業は、2030年代早々には、2年前に比べて倍の規模となる2兆4千億円にまで市場を拡大すると期待されている。

日本にとって国際貢献しながら次世代産業として育てていける可能性を現実のものとするのが3つめの底力、地場産業。
ガンダム衛星やルワンダ衛星を実際に製作したのは、実は福井県のものづくり企業の皆さん。

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福井県といえば繊維産業や眼鏡作りが地場産業として知られているが、その産業の基盤を生かしながら、宇宙産業を新たな地場産業に育てようと、企業の壁を超えてチームで衛星作りに取り組んでいる。

繊維産業や眼鏡づくりが、人工衛星にどうつながるのか。例えば、小さな電子部品がぎっしり詰め込まれたプリント基板は、繊維に色や柄をつけるプリント技術を応用して作られたもの。また、衛星の骨格となる金属のフレーム、そしてガンダムの模型が出てくるしくみなどは、眼鏡の製造装置を作る会社の技術が生かされている。

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一方、ガンダム衛星に搭載される模型を作ったのは静岡のプラモデルメーカー。プラモデル産業は静岡の地場産業。今回の宇宙ガンプラの開発を通じて、過酷な宇宙空間でも劣化しない樹脂素材や塗装のノウハウを積み上げることができた。
宇宙産業という新たな活躍の舞台が、地方のものづくりが活気を取り戻すきっかけになっている。
 
そもそも日本のものづくりは、ポケットサイズのトランジスタラジオから始まって、燃費のいい小型車、小型ビデオに薄型テレビと、便利な機能を小さなボディにまとめ上げることを十八番としてきた。超小型衛星はまさに日本のモノづくりの強みを生かせる格好の舞台なのだ。ガンダム衛星の打ち上げ、ぜひ成功してほしい。

(片岡 利文 解説委員)

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