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「『通いの場』で健康長寿 そして地域づくりへ」(くらし☆解説)

飯野 奈津子  解説委員

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高齢者が気軽に集まって活動する地域の“通いの場”が、健康長寿につながると注目されています。

今日は、高齢者が集う、「通いの場」がテーマです。担当は飯野解説委員です。
Q1 通いの場というのは、公民館などで行なっている運動教室のようなところですか?
A1 高齢者が、外に出て、ほかの人と活動する機会を増やそうと、地域に開設されている交流の場です。きょうは、通いの場が、高齢者を元気にするだけでなく、地域のあり方をも変えていく可能性について、お話したいと思います。

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まず、通いの場の活動です。運動を中心にしているところが多いのですが、食事をしたり、趣味の活動をしたり、様々です。

Q2 これまでも同じようなものがありましたよね。
A2 通いの場は、5年前の法律改正で市町村が進める介護予防事業の中核に位置づけられたものです。これまでのように自治体が運営を担うのではなく、地域の住民が運営の主体。市町村は立ち上げや組織作りを支援します。昨年度の段階で、全国で10万6000か所余りできていて、65歳以上の人口に占める参加者の割合、参加率は5,7%となっています。

Q3 この通いの場が、健康長寿につながるということですね。
A3 それを裏付けるデータが、最近の研究や調査で出始めています。

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通いの場に参加している人と参加していない人、健康状態が同じ程度の人を選んで4年間追跡して、通いの場の効果を、筑波大学の山田実教授らのグループが調べました。まず運動教室。4年後に介護認定を受けた人の割合は、参加していない人が21%だったの対し、参加している人は15%と6ポイント低くなっています。会食や趣味などの通いの場でも、参加していない人が44%だったの対して、参加している人は32%と12ポイント低くなっています。
元気な人ほど運動教室に通う傾向があるので、会食や趣味の活動より認定率が低くなっていますが、どちらも、介護を受けるリスクを減らす効果が認められるとしています。

Q4 なぜ通いの場に参加すると、介護リスクが下がるのですか?
A4 通いの場に出かけていくこと自体、運動になりますが、気持ちの問題も大きいと山田教授は指摘します。家に閉じこもっているとふさぎ込んで、だらだら過ごしてしまいがちですが、定期的に外出することで生活にはりがでて、仲間と情報交換することで、健康意識が高まるのではないかということです。中には、終わった後、気の合う仲間と食事や買い物に出かけたりする人もいて、通いの場が高齢者の活動を広げるきっかけにもなっているのではないでしょうか。

Q5 一人暮らしの方も増えていますから、元気に暮らし続けるために、高齢者自身も、地域にある通いの場をうまく活用してほしいですね。
A5 ただ、通いの場が楽しく、行きたくなるようなところでなければ、高齢者に参加してもらえません。通いの場の魅力を高めようと、自治体も工夫を始めています。

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たとえば、東京の葛飾区。住民の健康意識を高めてもらおうと、区内の公園に健康遊具を設置していて、その遊具を使って運動教室を開く地域が出ています。参加を促そうと、健康目標を達成するとポイントがたまって健康グッズがあたる、ポイント制度も活用しています。
熊本県水俣市では、遊休農地などを利用して、野菜作りや花づくりを楽しめる通いの場ができています。収穫した野菜を会食の料理の食材に使うほか、市民などにも販売して、その売り上げを活動経費にあてているということです。

Q6 ポイントがたまると、出かけようという気になりますし、運動は得意じゃないけど、野菜作りならやってみたいという人もいるでしょうね。
A6 行政の中の福祉部局と公園を管理する部局など、縦割りを超えて知恵を出し合った結果だと思います。行政内の連携にとどまらず、民間企業を巻き込んで、地域ぐるみで、通いの場を広げている自治体もあります。

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愛知県豊明市。高齢者一人ひとりの声に耳を傾け、民間サービスを活用した、多様な通いの場を作り出し、全国から注目されています。

Q7 どんな通いの場ができているのですか

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A7 たとえば、カラオケ店。カラオケ好きの人のために、ここで体操教室を行っています。温泉を楽しみたいという人のために、送迎つきの日帰りの温泉施設でも健康講座を開いています。施設には、高齢者が安心して利用できるよう、手すりや休憩場所も作ってもらいました。薬局でも、健康チェックや体操を行っていますし、スーパーマーケットも重要な通いの場になっています。商品を無料で届けるサービスを始めてもらい、高齢者が店内で買い物を楽しめるようになりました。
こうした通いの場への移動手段を確保しようと、今年4月から乗り合い送迎サービスも始まっています。住民が乗り場と行き先、着きたい時刻を電話で申し込めば、一回200円で利用できます。利用者は、一日平均50人ほど。月を追うごとに増えているそうです。

Q8 こうしたサービスがあれば、どこにでも出かけられて便利ですね。

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A8 このサービスを運営しているのも民間企業です。こうした通いの場だけでなく、病院や銀行など、高齢者が普段の生活で出かけることが多い場所に停留所を設けて、送迎しています。停留所を設けた事業者も協賛金を出して、サービスを支援しています。

Q9 豊明市が民間サービスの活用を始めたのは、何かきっかけがあったのですか?
A9 各地に住民主体の運動教室ができていますが、住民から「買い物をしたいけど、荷物をもって帰れない」「免許を返納したので好きなところに出かけられない」そうした生活する上での悩みが寄せられたからです。そこで、運動教室だけでなく、日ごろの生活で外出を妨げる壁を取り除こうと、民間サービスの活用を考えたそうです。

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目標に掲げているのは、「本人が普通に暮らせる幸せを支える」こと。豊明市が高齢者の声に耳を傾けてニーズを把握し、協定を結んだ企業にニーズを伝えて一緒に高齢者向けのサービスを開発する。その情報を高齢者に伝えてサービスを利用してもらう仕組みです。高齢者が安心して好きなところに出かけられれば、介護予防につながりますし、客が増えれば企業も助かります。

Q10 誰にとってもメリットが大きい仕組みだということですね。
A10そうです。介護予防のために始まった通いの場が、高齢者にとって暮らしやすい地域づくりにつながっている。豊明市を取材して感じたのは、通いの場には介護予防にとどまらない、地域づくりという大きな可能性があるということです。
その可能性という点で、私がもうひとつ注目するのは、通いの場が、地域の住民同士が支えあう拠点になり始めていることです。

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豊明市内の協同組合が、空き家を利用して3年前に開設した通いの場。ここにおたがいさまセンターという、住民同士が支えあう活動拠点ができました。住民から掃除や料理、草取りなど、困りごとの相談を受けると、センターに登録した生活サポーターが手伝いにいく仕組みです。利用料は30分で250円。サポーターの8割が60歳以上です。

Q11 高齢者が地域の人たちを支える側にもなっているのですね。
A11そうです。高齢者が通いの場に参加することで元気になり、集まることで地域のために動き始める。豊明市以外にも、通いの場の高齢者が、子育て世代を支援したり、絵本の読み聞かせを行ったりするところも出てきています。
通いの場には、関係が希薄になった地域のつながりを復活させる可能性もあります。
それぞれの地域で、通いの場を誰もが安心して暮らせる地域づくりにつなげられるよう、
知恵を絞って取り組みを進めてほしいと思います。

(飯野 奈津子 解説委員)

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