NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「再び注目 夜間中学」(くらし☆解説)

今村 啓一  解説委員長

様々な理由で義務教育を受けることができなかった人が学ぶ夜間中学を再び開設しようという動きが全国各地で広がっています。今なぜ夜間中学に注目が集まっているのでしょうか。今村解説委員長に聞きます。

k181203_01.jpg

Q1)夜間中学という名前、聞いたことがあるが、どういう学校なのか。

k181203_02.jpg

A)戦争や貧困をはじめ様々な理由で義務教育を受けることができなかった人のために戦後まもなく各地に設立されピーク時には全国で80校以上ありました。その後、時代の変化と共に減少してきましたが、今年4月新たに埼玉県と千葉県に2つの夜間中学が開設されました。
その一つ、埼玉県川口市の夜間中学です。
現在、10代から80代まで67人が通っています。
授業は月曜から金曜まで週5日、午後5時半から9時前まで。
国語、数学、社会をはじめ昼間の中学校で学習するのと同じ内容を学びます。
授業料は無料、教科書代もかかりません。

Q2)夜間中学にはどんな人たちが学んでいるのでしょうか。

A)様々な人たちが通っています。

k181203_04.jpg

まず戦後の混乱期に何らかの家庭の事情で義務教育が受けられなかった人です。加えて不登校や病気などで学校に通えず、形だけ卒業したものの実質的に義務教育を受けることができなかった人、さらに日本に働きにきている外国人で、母国で義務教育を受けることが出来なかった人が通っているのです。

戦後の混乱期に義務教育を受けられず、いま夜間中学に通っている方にインタビューしました。
最高齢の86歳、堀川しず子さんです。隣の市から毎日30分以上かけて歩いて通っています。永年中学校に通いたいと思っていた堀川さん。川口に学校が開設されたことで念願がかないました。
「数学、特に方程式は初めて勉強します。文化が違う、過去も違う、いろいろな人と知り合えるのは魅力です」
「自分自身を試して生きていく力をつける、生きていく。80年以上生きてきても知らないことがある。これは家にいても得ることができません。有難いことです」

Q3)86歳でさらに学ぼうというその思いに敬服しますね。

A)その通りです。以前は形式的に中学校を卒業した人は再入学できませんでしたが、4年前、文部科学省の通知を受けて、本人が希望すれば再び入学できるようになりました。これを受けてもう一度学び直したいと入学する人も増えています。

河野長広さん45歳、昼間はビルのメインテナンス会社で働き、仕事を終えてから夜間中学に通っています。
「当時はあまり中学校の授業には出ませんでした。若い頃は人の言うこと聞かず、自分本位でした」「仕事で疲れていても夜間中学はとても楽しくて、みんなから力をもらえます。将来は高校に進学しできれば大学にも入りたいです」

さらに最も多いのが日本に働きに来る外国人やその子供たちです。
川口の夜間中学では13か国からきた外国人が学んでいます。生徒全体の3分の2にあたります。漢字が理解できない生徒のために、時間割はひらがなで書かれています。日本語がわからない外国人に対しては特別に日本語の授業も行っています。
(グエン・ティ・カム・トゥさん16歳 ベトナムから来日)
「いろいろな国籍の人がいるのが楽しい。高校に入り日本で大学にも行きたい。」
(孫愉茜さん16歳 中国から来日)
「ミャンマー、トルコなどいろいろな国から来ている友達ができました」
「東京が好きです。将来は日本で医者になりたいです。」
星野泰久教頭「夜間中学に通う生徒はみな一人一人、服装も生い立ちも違うのが当たり前、その違いを認め合うという意味が大きい。違いはあるが学びたいという気持ちは一緒です。それがいいと思います。」

Q4)全国で夜間中学校はどれくらいあるのでしょうか。

k181203_06.jpg

A)現在は全国9つの都府県に33校あり、およそ1700人が通っています。公立の夜間中学がない地域では、ボランティアが自主的に運営する夜間中学が行われているところもあります。ただ夜間中学に通いたいというニーズが増えていることもあり、各地で公立の夜間中学校を作ろうという動きが広がっています

Q5)昼間の中学校で不登校だった生徒が、夜間中学に通っているケースもあるということですが、どうして夜間中学では受け入れられているのでしょうか。

A)勿論、いじめなどで昼間の中学校で不登校になった生徒が、夜間中学に入ったとしても全員がすぐに通えるようになるということではありません。ただ年齢が違い、育った国も違うという様々な背景を持つ生徒の間に入って、他と比べられることなく、自分の考えを述べたり、自由に発言する機会を得て、自らの居場所を見つけるケースもあります。夜間中学独特の多様性を受け入れる柔らかい風土が、不登校の子供たちを受けいれる環境を作り出しているという指摘もあります。

Q6)外国人の生徒が増えていることですが、全国でみるとどれくらいいるのですか。

k181203_08.jpg

A)全国の夜間中学に通う生徒、およそ1700人のうち80%が外国籍の人です。原則としてそれぞれの母国で義務教育を終えずに来日し、学齢期を過ぎていることなどが入学の条件です。日本語が話せない生徒のために、日本語の指導も行われています。

Q7) 先生はそれぞれの専門の科目と共に日本語も教えるとなると大変ですね。

A)そこが一番の課題です。川口の夜間中学では、日本語を教える専門の教員が授業を行っていますが、多くの夜間中学では日本語を教える人材を確保するかが大きな課題になっています。ただ現場の教育関係者からは「今の仕組みで夜間中学にすべての役割をおわせるのは無理がある、外国人への日本語教育を担うなら十分な教員の確保を含めて支援を拡大してほしい」という声も聞かれました。

Q8)夜間中学校で様々な人たちが学んでいるということ、私も知りませんでしたが、その存在自体が広くは知られていませんね。

A)不登校で義務教育を受けることができなかった子供、母国で義務教育を受けることができなかった外国人も、夜間中学の存在を知らなければ、その門を叩くことができません。
夜間中学の教師らで作る団体では、その存在を広くアピールしようとドキュメント映画を制作し全国各地で上映会を行っています。
文部科学省は、夜間中学の設立を後押しするため来年度の概算要求で今年度の3倍の1億3000万円あまりの予算を求め、今後すべての都道府県で夜間中学校の設置を目指しています。

k181203_10.jpg

多様な人々が集まる夜間中学には、今日本が向かっている多文化共生社会の縮図ともいえる光景があります。
「お互いの違いを認め合い、学びたいと思いのもと生徒が集う」夜間中学をどう支援していくのか、社会全体で考える必要があるのではないでしょうか。

(今村 啓一 解説委員長)

キーワード

関連記事