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「どう変わった?日本の自然」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

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◆日本の自然が年々どう変化しているのか?先週、詳しい調査の結果がまとまった。

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 これは2003年に始まった「モニタリングサイト1000」という国のプロジェクトです。全国1000か所以上の草原や森林、高山、砂浜やサンゴ礁など様々な生態系の代表となるような場所を選んで、どんな動植物がどれだけいるかなどを調べています。調査自体は毎年行われますが、5年に一度、詳しい分析結果を発表しています。先週、2017年度までの調査結果をまとめた概要が発表されました。

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 調査の目的は生態系の異変をいち早くとらえて、貴重な自然を保全することにあります。
生き物が減る時は例えば最初は気づかないぐらい少しずつ減っていたり、単純に減る一方ではなく増減を繰り返すために変化がわかりにくいケースもあり、こうした変化を見つけるため、調査には「長い目で」「全国各地で」「同じ時期」「同じ場所」「同じ方法」で調べ続けるといった原則があり、実に100年間にわたって定点調査を続ける計画です。

◆調査でどんなことがわかってきた? 

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 まず、「外来種の増加」があります。ブラックバスや最近だとヒアリなども外来種ですが、今回の分析では特にアライグマが年におよそ25%ものペースで増えている可能性があるとわかりました。アライグマは今から40年ぐらい前の人気アニメがきっかけでペットとして急増したことがありますが、それが捨てられたりして野生化したものがじわじわ全国に広がったと見られています。アライグマは農作物を荒らすほか、在来のカエルやカメを襲うなどして生態系の脅威になることも懸念されています。

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 また、地球温暖化に代表される地球環境の変化の影響も見られます。高山に生えるハイマツの枝の伸び方が増えている、つまり成長が加速していることがわかってきて、高山でも気温が上昇している現れだと考えられています。ハイマツそのものや、それを隠れ家などにする生き物にとってはいいことかもしれませんが、一方でハイマツが広がるとそれと入れ替わるように高山植物の花畑などは減少していく可能性があるとのことで、そうするとそこに暮らす昆虫などは行き場を失うので、生態系全体にとっていいことなのかはまだわかりません。そういう意味でも長期的に調査を続けることが大切です。

◆生き物が減る原因と言うと開発が進んですみかが奪われるイメージがあるが、外来種や温暖化など原因も様々

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 開発などの人間活動はもちろん大きな原因になりますし、逆に人間の手が入らなくなることで生態系に影響が出ることもあります。
 今回の分析では身近な草地や森、いわゆる里山の生き物の多くが急激に減っているとわかってきました。代表的なのがチョウです。全国の里山などで比較的よく見られる87種のチョウのうち、ミヤマカラスアゲハやオオムラサキなど4割の種がこの10年で30%以上も減少。これは「絶滅の危険が増大している」とされるレベルの減り方です。その原因ははっきりしませんが、里山に人の手が入らなくなったことで植生が変化したためではないかとの見方があります。里山の自然というのは手つかずの原生林ではなく、人が適度に木を切って薪や炭焼きなどに利用してきたことで、日が当たるようになった場所にクヌギやエノキなど多様な落葉樹が育つ雑木林が成り立っていた面があります。こうした里山は手入れされずに下草が生い茂るようになったりすると、別の種類の樹木に置き換わっていきます。それ自体は悪いことではありませんが、チョウはそれぞれ決まった種類の植物に卵を生んだり幼虫のエサにするものが多く、幼虫のエサが減ってしまうことが考えられます。そして、今回の調査ではこうした里山の雑木林で育つようなチョウが特に減っていたとされています。

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 他にもホタルやツバメ、ノウサギなど昔は少し郊外に行くと普通に見られた動物が全国的に減少傾向にありました。

◆明るい変化は?

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 絶滅の危機にあったシジュウカラガンという渡り鳥が、近年、増加してきたことが報告されました。理由として考えられるのが、保護団体などがシジュウカラガンを人工繁殖させ放鳥する取り組みをしてきたことがあり、その放鳥された鳥が自然の中で繁殖した結果、徐々に増えてきたのではないかということです。

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 東日本大震災で大きな被害を受けた東北の海でも変化が見られます。2011年の巨大津波で、東北の太平洋岸では浅い海の生態系を支えている海藻やアマモと呼ばれる海中の植物も大きなダメージを受けました。岩手県のある沿岸部ではこのようにアマモ類が2011年には全く見られなくなりました。しかし、その後の調査で回復の兆しが現れています。これはまだ水深が浅くて光が届きやすい場所に限られていますし、地域や種類などでも違い一概には言えませんが、今後さらに回復していくことを期待したいところです。

◆毎年の大規模な調査は大変では?

 去年の調査に参加した人は全国で4700人にのぼりますが、大学や研究機関などの専門家は2割ほどで、8割はNPOや一般の市民です。「調査に参加してみたい」など興味がある方は、環境省生物多様性センターのHP(https://www.biodic.go.jp/moni1000/index.html)から詳しい情報や問い合わせ先のメールアドレスが見られますので、問い合わせて見るとよいでしょう。
(募集のタイミングが決まっているものや、正確な調査を行うための研修を受ける必要が あるものなど、条件もあります)
私たちも身近な自然についてあらためて考えてみるきっかけになると良いですね。

(土屋 敏之 解説委員)

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