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「『特定技能』半年 外国人の働く現場は」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

働く外国人の受け入れを拡大する「特定技能」という在留資格が4月に設けられて、半年がたちました。
人手不足の解消を目的とした制度ですが、外国人が働く現場は変わったのでしょうか。制度の現状と課題です。

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【「特定技能」半年で895人】
Q:この外国人労働者の新たな制度、あっという間にスタートしたという印象もありますね。
A:国会でも早いペースで審議が行われました。どうして急ぐのだろうかと疑問に感じた方もいるのではないでしょうか。

Q:半年がたって、どうなったのでしょうか。
A:今月8日時点での「特定技能」の在留資格を得た人の数が発表されました。およそ半年で895人です。

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Q:もっと多いのかと思っていました。
A:政府は当初、最大で向こう5年間に34万5000人。今年度だけで4万7000人を見込んでいましたから、伸び悩んでいると言うほかないでしょう。

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この在留資格は「特定技能1号」と言います。
介護や建設、農業、外食、宿泊など特に人手不足の14の業種で、外国人労働者を受け入れるというものです。そのためには「相当程度の知識や技能」、そして日本語の能力が必要で、滞在期間は最長で5年間です。
まだ働き始めた人は少ないのですが、私はこの特定技能の在留資格で働くベトナム人の男性を、富山で取材してきました。

【働く現場の様子は】
エレベーターの製造やメンテナンスなどを手掛ける富山市の「大澤工業」です。ベトナム出身のブー・ディン・ゼップさんはここで働いています。ゼップさんは以前も同じ会社で、技能実習生として働いてきました。しかし、5年間の滞在期間が終わったため、去年やむを得ずベトナムに帰国していました。
今年6月に再び来日し、今回は、全国的にもまだ数少ない特定技能1号の在留資格を取得して働き始めました。
「夢は日本で長く働きたいです」(ゼップさん)
そのゼップさんを呼び戻したのは、専務の大澤恒寛さん。優秀だった彼に何とかまた働いてほしいと考えていました。
実習生の時とは違い、今回は溶接の専門技術を持つ労働者として、仕事を任せることができます。ほかの外国人のリーダー役も務め、日本人と同じ待遇で、給料は実習生の時よりも2割ほどアップしたということです。
「今となっては、大澤工業に欠かせない状況になっていますね。日本人だから外国人だからという扱いではなく、一人一人のメンバーとしてやっています」(大澤工業専務・大澤恒寛さん)

【技能実習生とどう違う?】
Q:実際にゼップさんが働く様子を取材してどうでしたか。
A:周りの社員たちから、非常に頼りにされていたのが印象的でした。私は以前、外国人の技能実習制度の取材をしたことがあります。

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技能実習生というのは、働く現場で技能を習得するという制度ですが、日本語もまだ不十分な人が多く、現場で上司の指導を受けながら作業をしていました。
しかし特定技能のゼップさんは「相当の知識や技能」があるわけですから、朝、工場長と日本語で打ち合わせをした後は、自分で設計図を見ながら、一人でてきぱき溶接作業を行っていました。まさに経験と技術を持った労働者です。

【特定技能どうして増えない?】
Q:どうしてゼップさんみたいな人が、増えないんでしょうか。
A:特定技能の取得の仕組みをみてください。

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この在留資格を得るには、2つコースがあります。1つは技能実習生から一定の要件を満たせば、試験なしで移行できます。ゼップさんもこちらでした。
もう1つは留学生や海外にいる外国人の場合、日本語や技能の試験に合格することが必要です。
ところが、法務省が10月末現在でまとめたところでは、すでに試験が実施されたのは14の業種のうち6業種です。

Q:まだ半分以下ですね。
A:現状は急ごしらえのしわ寄せが来ている側面もあるのではないでしょうか。この制度を進めていくのであれば、特に海外での試験など整備が必要です。
また今は介護など、分野によっては多くの先進国が外国人の働き手を求めていて、優秀な人材の獲得競争も激しくなっています。
日本も実は、外国人労働者から選ばれる側になっているんです。

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【技能実習生に「また働きたい」と思ってもらうこと】
Q:試験を受けなくても、技能実習生から移行する人をもっと増やすこともできるはずですよね。
A:そのためには技能実習生に「また日本で、できれば同じ会社で働きたい」という気持ちを持ってもらうことが大事だと思うんです。

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技能実習制度の期間が終わって、一度ベトナムに帰ったゼップさんも「馴染んだ富山で、以前の仲間と働きたい」と戻ってきたんです。
ですから、技能実習生の時の待遇が重要になります。もし、不当な扱いをすれば、再び同じ会社で働きたいとは思わないでしょう。
反対に、外国人の働き手が大都市に集中するのではと言われてきましたが、地方の企業でも長期的な育成を進めることで、海外の優秀な人材を獲得することは可能ではないかと取材をして感じました。

【今後の課題1:特定技能2号】
Q:今後の課題はどういうことがあるのでしょう。
A:2つあると思います。
現在の「特定技能1号」は、滞在期間が最長5年間で家族を連れてくることはできません。実は、永住に道を開き、家族を連れてくることが可能な「特定技能2号」という制度も作られています。
しかし、この導入が決まっているのは2業種だけです。
現状では特定技能の資格を得て5年間しかいることができませんし、母国に奥さんや子供がいても連れてくることはできません。働く側からすると、この点も課題になります。

【今後の課題2:実習生の失踪対策も】
Q:もう1つはどんな課題でしょうか。
A:特定技能の半数が技能実習制度からの移行ですが、その土台となる技能実習生が「失踪」するケースが後を絶ちません。
去年は9000人と5年前の2倍近く。今年も上半期で4500人に上っています。

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Q:そんなにいなくなるというのは、大きな問題ですよね。
A:入管庁は、賃金や残業代を正しく支払わないなど、不適正な取り扱いが原因の1つとしていて、先週、技能実習生の失踪防止策を発表しました。
防止策では、大量の失踪者を出した「送り出し機関」、「監理団体」、「実施者」に対して、問題があると判断されれば新規の受け入れを停止するほか、失踪した技能実習生を雇用した企業名の公表なども検討するとしています。
また、受け入れている実習先に問題がなくても、国を出る時点で悪質なブローカーによって多額の借金を背負わされ、借金から逃れるために失踪せざるを得ない事例も絶えません。
これも新たな防止策では「対応を強化する」としています。ただ、この問題はずっと前から専門家や支援団体などが指摘していました。本当に実効性のある対応が求められます。

Q:取り組みには力を入れてほしいです。
A:外国人労働者をどこまで増やすかは様々な意見があり、今後も議論が必要です。
しかし、スタートした制度は、適正に運用する必要があります。仮に不当な扱いが続けば、日本に対する信頼そのものを損なうおそれもあります。
技能実習制度から特定技能まで、安心して働くことができるような取り組みが求められると思います。

(清永 聡 解説委員)

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