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「なぜ高騰? 都会のマンション」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

都会のマンションが高騰しています。今井純子解説委員。

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【マンション、高くなっていますよね】
はい。きのう民間の調査会社が発表した、10月に首都圏で発売された新築マンションの一戸あたりの平均価格を見てみますと・・・

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【東京の23区は、7000万円台ですか!】
マンション事業者が立地のよいものに絞っているため、発売された戸数が10月として過去最低の水準だったということもあるのですが、23区は、一年前と比べて0.3%の上昇。高止まりの状態です。埼玉県では、10%近く上がりました。ワンルームから億ションまでの平均ですので、その月にどのようなマンションが発売されたかで価格の変動はありますが、上半期の推移を見ていただくと、あきらかに高くなっていることがわかると思います。今年は、1991年のバブル期以来、28年ぶりの高い水準になったのです。

【新築マンションの価格が上がっているのは首都圏だけですか?】
関西圏も、上半期の平均価格は1993年以来の高い水準でした。他の主な都市でも、(こちらは年平均の統計しかありませんが)、去年の平均価格は、いずれも4年前と比べて10%前後上がっていて、福岡は、43%も上がっています。

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【数が絞られているとしても、やはり高いですよね】
専門家に話を聞くと、いくつもの背景が複雑に絡んでいて、簡単には下がらない要因もでてきているというのです。マンションを売る側。そして、買う側。それぞれの事情を見ていきましょう。
売る側の事情では、まず、地価の上昇。そして、人件費・建築資材の上昇です。

【地価、上がっているのですね】
そうです。
▼ 景気の回復が続いてきたことや外国人観光客の増加を背景に、7月1日時点の都道府県地価調査は、三大都市圏、そして地方4市、ともに7年連続の地価上昇となりました。しかも、立地のよい土地は売りに出されてもホテル事業者との奪い合いになり、取引価格が上がってしまうと言います。
▼ 加えて、円安やオリンピック・パラリンピックに向けた建設ラッシュを背景に鉄鋼やコンクリートなどの建築資材の価格。そして、人手不足から働く人の人件費も上がり続けています。2011年度を100とした建築コストを示す指数(建設工事費デフレーター)をみると、2018年度は111まで上がっています。地価も建築コストも上がっているため、マンションをつくる費用が高くなってしまっているのです。

【こんなに高いのに売れているのですか?】
売れ行きがよいわけではありません。首都圏の新築マンションで、発売した月に売れた率は、42.6%と、一年前より25%ポイントあまり下がっています。10月は台風の影響もありましたが、それでも低調でした。

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【売れないと値引き合戦がおきるのではないですか?】
それが、マンション事業者は値引きに慎重だというのです。というのも、リーマンショックの後、体力のない中堅のマンション事業者が相次いで破たんして、今は、大手の不動産会社が、マンション事業を手掛ける割合が増えています。首都圏マンション販売に占める大手の割合は、2006年の25%から2018年には44%まであがっています。こうした大手不動産会社は、ブランドイメージを大切にする上、オフィス事業が好調で経営体力に余力があるため、売れなくてもなかなか値引きをしない。もともと良い立地が減っていることもあって、先ほども触れたように、建設、そして販売する戸数を絞って、時間をかけてじっくり販売する戦略をとるそうです。だからマンションの価格が高止まりしているのです。

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【でも、これだけ高いと普通の人は買えませんよね】
確かに、働く人の平均給与はおよそ440万円ですので、なかなか手が出ませんよね。ただ、マンションを買っているのは、いわゆる富裕層だけではないようです。マンションを買う側の事情も少し変わってきているというのです。

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まずは、共働きの増加で、2人合わせると年収1000万円を超える、いわゆるパワーカップルの世帯が増えていることです。

【一人の収入だと買えなくても、2人の収入を合わせると手が届くわけですか・・】
はい。そして、その背中を押しているのが、企業が社宅や寮を減らしてきたという事情です。従業員一人当たりの、社宅や独身寮の管理・運営費は、ピークの1996年度から26%減っています。会社の負担で、安い社宅や寮に住むことができない若い人たちが、「高い賃貸料を払うくらいなら、マンションを買った方が得だ」と考える。しかも、日銀の金融緩和で、歴史的な低金利が続いています。住宅ローンの金利は、1%に満たないことも、めずらしくありません。カネ余りを背景に、銀行も、住宅ローンを積極的に貸してくれる傾向にあります。こうしたことから、30代の持ち家比率は、およそ64%と、2000年のころと比べて、大幅に高くなっています。
そして、若い共働きの世帯は、高くても、都心部、あるいは、郊外でも多くの路線が乗り入れるターミナル駅から近い立地にこだわる傾向が強いと言います。

【なぜですか?】
共働きだからこそ、職場に通いやすい便利な場所に住みたい。しかも、そういう一等地のマンションは、多少景気が悪くなっても値崩れしない。いざという時には売ったり、人に貸したりすることができる。と、マンション事業者に言われて、高くても、立地のよいマンションに徹底的にこだわるというのです。
逆に言うと、確実にニーズはある。だから、マンション事業者も、そういう立地に絞って、高値でじっくり販売することになるというのです。

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【でも、年収が高い世帯しか買えませんね・・】
そう焦って買う必要はないのではないかと思います。地価や資材の価格、それにマンション事業者の戦略も、長い目で見ると、景気の動向によって、どう変わるかわかりません。まずは、焦らずじっくり検討すること。
そのうえで、どうしても早いうちに買いたいという事情がある方は、少し視野を広げて考えてみると・・最近は、中古のマンションの人気も高まっています。10月に契約された首都圏の中古マンションの平均の価格は3461万円。

【それでも高いですが、新築と比べるとまだ割安なのですね】
そういうこともあって、中古マンションの契約件数が3年連続で新築の供給件数を上回っています。今後、バブル崩壊後に企業がリストラで売却した土地に建てられたマンションが大量に中古市場に出てくるとみられています。管理体制がしっかりしているかなど、注意が必要な点はたくさんありますが、選択肢のひとつにはなると思います。
もうひとつ。首都圏では、最近、小規模な土地に建てる新築の戸建ても増えています。値上がりしている資材は使わず、また、地域の工務店と連携して手早くつくるため、首都圏の郊外で、3000万円台で販売されている例もあるといいます。

【こちらも高いですが、もし買うのであれば、こうした選択肢があるということですね】
専門家の話では、住宅で無理せず買えるのは、年収の5~6倍程度だということです。「今、買った方がお得」「立地がいいから値下がりしない」などとマンション業者に勧められて、無理して買うのではなく、ローンを払えるのか。生活にしわ寄せがこないか。

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じっくり考え、見極めることが大事だと思います。

(今井 純子 解説委員)


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