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「知っていますか 『相続放棄』」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

きょうのテーマは「相続放棄」についてです。
亡くなった人の遺産を相続人が受け継がないことを「相続放棄」と言います。最高裁でこのほど相続放棄に関する新たな判決も出されました。制度の仕組みと課題についてお伝えします。

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【相続放棄って何】
A:もし、普段付き合いのない親戚が亡くなって、突然、遺産が入ってくることになったら、どうしますか。遺産は宝石と、株券と、あと借金がありました。

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Q:この宝石と株券をもらいます。

A:借金もあるんですけど・・・・・・。

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Q:いらないです!結構です。

A:それはダメなんです。相続というのは、その人の所有していた資産も負債も、全部受け継ぐというものです。

Q:でも、もし宝石と株がそれぞれ100万円分で、借金が300万円あったら、相続すると100万円の損になってしまいますよ。

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A:「相続放棄」という制度は、まさにプラスの財産よりもマイナスの財産が多い時に、使われることが多いんです。
一部の遺産だけ自分に都合よく相続放棄することはできません。また、法律では原則として「3か月以内」となっています。家庭裁判所に申し立てて、認めてもらうことが必要です。

【最高裁の判断は】
Q:最高裁の新しい判決というのは、どういう判断だったのでしょうか。

A:8月に言い渡したもので、最大の争点は先ほどの「3か月以内」という部分です。ある女性の伯父にあたる男性が、借金を抱えたまま亡くなります。自分の父親が相続人になるのですが、父親もその4か月後に亡くなってしまいました。そうなると、この女性が借金を背負うことになります。ただ、女性が借金について知ったのは父親が死亡した3年後。債権回収会社から通知が来た時点だったということです。そこで、女性は初めて相続放棄を家裁に申し立てました。

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Q:つまり3か月を過ぎていたんですね。でも疎遠だった親戚の借金というのは、なかなか分からないですよね。

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A:法律では相続放棄は「自分が相続することになったのを知ってから」3か月以内とされています。一般的には「亡くなった時点から」ということも多いのですが、今回は伯父さんからの相続という特別な事情があります。このため女性は「借金の通知が来て3か月以内なら相続放棄できる」と主張しましたが、会社は「お父さんが亡くなって3か月以内だ」と主張して争ったのです。

Q:最高裁はどう判断したのですか。

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A:事例としての判断ですが「借金の通知から3か月以内」でした。最高裁は、「こうした相続のケースでは、債務があることを知らないまま期間が始まるとすれば、相続するか放棄するかを選ぶ機会を保障する民法の趣旨に反する」と指摘して、女性が借金を引き継ぐ立場だと知った時点をスタートラインと判断し、相続放棄は有効だと認めたのです。

【今後の影響は】
Q:この判断は、今後どんな影響があるのでしょうか。

A:専門家に取材をしますと、客観的で十分な事情があれば、3か月をすぎても相続放棄を認める運用は、すでに、ある程度行われているということです。
ですから、最高裁判決によって一般的に相続放棄の運用が大きく変わるというわけではありません。

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例えば、相続人が海外に長い間暮らしていたケース、亡くなった親戚に滞納した税金があることがずっと後に判明するケースなどがあるそうです。
最高裁が今回、判決を示したことで、専門家は、「十分な事情があれば家裁も相続放棄を認めやすくなるのではないか」と指摘しています。また、別の弁護士は「自分が知らなかった借金の取り立てを免れることができる」効果もあると話しています。

【相続放棄の注意点1:形見分けに注意】
Q:ところで、相続放棄の際に注意する点は、どういうところでしょうか。

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A:相続の問題を多く手掛ける川義郎弁護士によると「一番多いのは、相続したい財産もあるが、一方で借金がいくらあるのか分からない」、というケースだそうです。
こういうケースでは、まずは借金を確認する前に形見分けや処分をしないことです。価値がある財産を処分してしまうと、相続を認めた(単純承認)ことになってしまい、放棄ができなくなります。

Q:でも、両親が撮影した写真のアルバムとか。親の思い出の品を取っておくのもダメなんでしょうか。

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A:宝石や金貨のように価値があるものを勝手に処分することはできませんが、経済的な価値がないものを取っておくことまで許されないわけではないそうです。過去の裁判では、着古した洋服などは、形見分けをしても、処分には当たらないという判断も出ています。
他にも葬儀費用を支払ったりすることは、処分にはあたらないとされています。難しいケースもあるそうですから、心配な場合は、専門家に相談してください。

【相続放棄の注意点2:早めに借金の調査を】
Q:あとはどんなことに注意が必要ですか。

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A:できるだけ早く、借金の有無を調べることだそうです。親は子供に借金のことを話さないケースが少なくありません。金融機関に問い合わせたり、郵便物や通帳から引き落としを確認したりするなど、3か月以内に調べる必要があります。
もう1つ注意点があります。もし相続放棄が認められたら、その借金はどうなると思いますか。

Q:消えるんじゃないですか。

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A:いえ。次の相続人に行きます。例えばこの人が放棄したら次の人に移ります。

Q:親戚に迷惑がかかりますね。

A:ですから親戚でよく連絡を取り合って、一緒に相続放棄するか、相続放棄することを伝えないと、新たなトラブルを生んでしまいます。

Q:何だかたいへんですね。でも、みんな放棄したら、どうなってしまうんですか。

A:家庭裁判所に選ばれた人、弁護士などが多いということですが、こうした人(相続財産管理人)が、残された財産を管理し、可能な範囲で借金を整理するという仕組みがあります。債権者が申し立てることもあるということです。
核家族化と少子化が進む現在、突然、付き合いのなかった親族の相続人になることは、決して珍しくありません。相続放棄の仕組みを知っておくことは、大切なことだと思います。

【所有者“放棄”不動産も】
Q:こうしてみると、身近な問題なんですね。

A:この相続放棄が今、社会問題にもなりつつあります。それは、不動産です。
特に過疎地では、売却もできず相続放棄されたままの空き家や土地が多くなっているということです。
ただし、法律では、相続放棄をしても「管理責任は負う」とされています。ですから、もし空き家をほったらかして、壁が落下して通行人がケガをすれば、法律上は、賠償を求められる可能性があるということです。

Q:それは大変です。

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A:とは言え、現実には、現在、相続放棄された空き家を行政が撤去する際には、「自治体が費用を負担するケースも多い」ということです。自治体にとっては重い負担になりかねず、こうした不動産をどうするか、国も今検討しています。

さきほど紹介した川義郎弁護士は、地方自治体の空き家対策協議会や審議会の委員も務めていますが、「都市部ではない地方の自治体ほど、相続放棄される不動産が増える傾向にある。現実には、国が財政的な手当てをした上で、自治体が管理するほかないのではないか」と話しています。
相続放棄は個人の問題にとどまらず、社会の変化に伴う課題も抱えています。放棄された土地をどうするのかは、地域の在り方を含めて考える必要があります。

(清永 聡 解説委員)

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