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「更生保護70周年 就労支援は」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

犯罪で服役した人などの社会復帰を支援する「更生保護」制度の70周年を記念する大会が、10月7日、天皇皇后両陛下も出席されて東京で開かれました。
式典には全国で支援活動を続けるおよそ4300人が出席し、各地域で活動する保護司やボランティア団体への表彰が行われました。
現在の更生保護制度は、今年で70年になります。この更生保護制度と、取り組みの柱である就労支援についてお伝えします。

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【更生保護って何?】
Q:更生保護って、どういう制度ですか。
A:犯罪を起こした人や非行少年が、罪を償って再出発しようとする際に手助けを行い、社会の中で立ち直ってもらおうという制度です。例えば刑務所を仮出所して、保護観察を受けている人などを対象に支援が行われます。
こちらは法務省の更生保護のマスコットキャラクター「ホゴちゃん」です。公共施設などにポスターがありますので、見たことがあるかもしれません。

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Q:かわいい太ったペンギンですね。
A:実は、ホゴちゃん。法務省による公式の設定があります。それによると、昔のホゴちゃんはこういう姿でした。

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Q:まあ、全然違いますね、
A:昔は非行ペンギンだったという設定です。しかも悪いことをして捕まってしまいます。ちなみにこちらの女の子はサラちゃんというのですが、こちらも昔は非行ペンギンでした。

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【更生保護はボランティアが支えている】
A:そんなホゴちゃんとサラちゃんが立ち直ったのは、ポスターの後ろにいる人たちのおかげなんです。

Q:クジラやイルカなどがいます。これが「更生保護の人たち」でしょうか。
A:そうです。クジラは保護司さん。社会の中で生活面での指導などを行います。それからイルカは少年を支援する学生など若い人たちの団体。「BBS」と呼ばれます。「更生保護女性会」という女性の組織。そして「協力雇用主」です。

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70年に及ぶ日本の更生保護の制度は、多くのボランティアや民間の人たちが支えているのが特徴なんです。
今回はこの中で「協力雇用主」を紹介します。これは犯罪を起こした人を雇用し、立ち直りを支援する民間の事業主です。就労支援は更生保護の柱の1つと言われています。

Q:どんな方が実際に協力雇用主になっているのでしょうか。
A:私、実際にある協力雇用主の職場を訪ねてきました。

【協力雇用主の現場は】
北九州市のガソリンスタンドです。この会社では、これまでに140人もの元非行少年や刑務所を出所した人を雇用してきました。
野口義弘さんです。協力雇用主として、経営する3つのガソリンスタンドで現在も17人を雇用しています。
かつて、事件を起こした元非行少年も、一昨年から野口さんのもとで働くようになり、今では、店を支える働き手になっています。
野口さんが協力雇用主になって20年余り。雇用した7割は、社会復帰し自立していったということです。
今でも野口さんのもとには、少年院や刑務所から、出所したら自分を雇ってほしいという手紙が届いています。
野口さんはこうした人たちに刑務所などで面会し、本人が希望すれば、基本的にすべて雇用するんだそうです。

【野口さんの取り組みは】
Q:素晴らしい取り組みですね。
A:取材すると、職場の雰囲気が明るく、若い人たちが元気に働いていることがとても印象的でした。

Q:どうしてこんなに熱心なんですか。
A:野口さん自身、父親を早く亡くして社会で苦労を重ねてきました。その後、人から頼まれて非行少年を雇用したことがきっかけになって、若い人の立ち直りを支援するようになったということです。

野口さんは、働きたいと希望する人がいれば部屋を探し、自立支援を行うNPOの協力で、家財道具も準備します。立ち直りのためには仕事だけでなく住む場所も大事だと考えているからです。
こうした協力雇用主への橋渡しは、全国の保護観察所という国の機関も行っています。住まいは、出所した人の宿泊場所や食事を提供する「更生保護施設」も全国103か所にあって、保護観察所で相談に応じています。

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Q:ただ、うまくいくケースばかりではないでしょう。
A:過去にはお金を持ち逃げされたこともあったということです。それでも野口義弘さんは、「相手をとにかく信じて何度失敗しても支えることが大事だ」「協力雇用主には大きなやりがいがある」と話していました。
中には、野口さんのガソリンスタンドに盗みに入った人を雇用したこともあったそうです。こうした話を聞いて、私も頭の下がる思いがしました。

【協力雇用主は増加も雇用は進まず】
Q:全国的にはこの協力雇用主の制度はどのくらい広がっているのですか。
A:登録している企業は、全国2万2千社。この5年で1万社も増えました。ところが、実際に雇用している企業は今年4月現在で、945社。登録企業の5%未満にとどまっています。
これに対し、仮釈放などで保護観察を受けた2万8000人のうち、およそ2割の5700人は保護観察終了時点でも無職のままだったというデータがあります。この中には、高齢の人や病気で働くことができない人もいるとみられます。それでも、この数字から支援が行き届いていない人も少なくないことが分かります。

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Q:どうして雇用の実績が増えないのでしょうか。
A:トラブルを心配する企業が少なくないようです。
法務省が今年発表した協力雇用主のアンケート調査では、「周囲とうまくいかない」、「無断欠勤がある」など問題のあるケースも少なくないという回答が寄せられています。また実際に雇用した人のおよそ半分が半年以内に辞めていたということです。

【安全な社会のためにも再雇用の促進を】
Q:雇う側にも苦労が絶えないわけですね。
A:会社側が雇用に慎重になることも分かります。また「事件を起こした人に手厚く支援する必要はない」という声もあります。
ただ、再犯・つまり再び事件を起こして刑務所に戻った人の7割以上が、無職だったというデータもあります。それだけに、辞める人がいてもできるだけ再就職の支援を続けるということは、事件を減らして地域の安全のためにも大切なんです。

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Q:これからどんな取り組みが必要でしょうか。
A:国が支援制度を作っています。雇用した企業への奨励金の制度、試験的な雇用を支援する「トライアル雇用制度」。それに、公共事業の入札で、出所した人の雇用を評価の対象にする制度もあります。
こうした取り組みを、幅広い企業に知ってもらうとともに、国だけでなく自治体を含めて支援をさらに充実していく必要があります。

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就労支援というのは、行政だけではできません。企業の協力と、協力雇用主に対する周囲の人々の理解がとても大切です。
社会で自立するためには仕事を得ることが第一です。就労支援は更生保護の柱の1つだけに、これからも官民一体となって、取り組みを進めてほしいと思います。

(清永 聡 解説委員)

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