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「どう変わる?「全世代型」 社会保障」(くらし☆解説)

竹田 忠  解説委員

人生100年時代を見据えて
社会保障の在り方を見直すための政府の会議が始まりました。
今回、政府がまず目指すのは、支えられる側だった高齢者に、
支え手になってもらうことです。
担当は竹田忠解説委員です。

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【会議は「全世代型社会保障検討会議」と名付けられていますが?】

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まず、会議の映像を見てください。
ちょっと違和感を覚える人もいるのでは?
全世代型の社会保障を議論する、といいながら、若い人の姿がない。
経済界や学者など、9人の有識者が委員になっていますが、
高齢者や、50代以上の人たちばかりで、
40代や30代の人たちがいない。
社会保障への将来不安を感じているのは、若い人たちなんです。
こうした若い世代にも入ってもらうべきではないでしょうか?

【そもそも、この“全世代型”とはどういうことなんでしょう?】
もともと、社会保障というのは、年金、医療、介護、のように
主に高齢者が利用し、給付を受けるものが中心です。

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なので、それだけでなく、子育て支援など、
若い人、現役世代が利用するものも充実させよう。
つまり、給付を若い世代にも広げよう、
それが、全世代型の社会保障、と言われているわけです。
しかし、今回の会議は、それだけではない。

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給付だけでなく、負担や、支えあいも全世代型にする。
つまり、高齢者にも、支え手になることを求めてるんです。

【“全世代型”には、そういう意味もあるんですか?】

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そうなんです。実は、この言葉は、
2013年に、社会保障制度改革国民会議という政府の会議が
消費税を10%に上げるのに合わせて社会保障をどう変えるか、
議論した報告書の中で使われている言葉なんです。

そこでは、“全世代型”についてこういうような説明をしています。
「すべての世代に 給付やサービスの対象を広げ、
すべての世代が 負担能力に応じて、負担し、支えあう」仕組みだと。

これを受けて、政府はその後、
給付の全世代型について取り組んできたわけですが、
いよいよ、後段の部分、負担・支え合いの全世代型についても
進めることになった、という流れだと思います。

【それはなぜですか?】
社会保障がこれから正念場を迎えるためです。
社会保障にかかるお金は、これからもっと増えます。

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今がおよそ120兆円ですが、
これが、2025年には、140兆円に増えます。
2025年というのは、
団塊の世代が全員、75歳以上、つまり後期高齢者入りをして
医療・介護の費用が膨れ上がるためです。

さらにその後も、社会保障費は増えます。
2040年には190兆円に達します。
今度は、団塊ジュニアの世代も高齢者になって
高齢者の数がついにピークを迎えるためです。

【そのお金はどうやってまかなうんですか?】

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もともと、消費税10%への引上げは、
2025年に備えることが目的でした。
それを大きく上回る2040年の社会保障費に
どうやって備えるのか?
今度も、消費増税で対応できるのか?

実はこの肝心の消費増税問題について、
この会議では議論する予定はありません。

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なぜなら、安倍総理大臣が
この夏の参議院選挙の際の党首討論で、
消費税を10%から、さらに引き上げる可能性について、
「今後10年くらいは、必要ないと思っている」と述べてことで
新たな消費増税の議論が、事実上、封印されているためです。

【では、どうすればいいんですか?】
そうなると、頼みの綱は、現役で働いている人たちに、
もっとガンバってもらおう、ということになりますが、
実は、これもまた厳しい。

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今後の人口の見通しを見てください。
高齢者は2040年までさらに増え続け
その後も大きな割合を占め続けます。

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しかし、その高齢者を支える現役世代、
生産年齢人口は、ずっと減っていきます。
この結果、2050年ころには
一人の現役が、一人の高齢者を支える割合になります。
これでは、支えることが難しくなる。
そこで、高齢者の人たちに、
支えられる側ではなく、支える側・支え手になってもらう。
今より長く働いて、税金や保険料も払ってもらう。
そうお願いできないだろうか、というわけです。

【高齢者の人たちにとっては、大変な話し。
  そもそも、体力的に無理だという人もいるはず。】
そうだと思います。

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一体、いつまで働かされるのか?
いつまで、負担をしなければいけないのか?
そういう声も強まると思います
ただ、働きたくない人に無理やり働け、という話しではありません。
あくまで、元気で、そして、働く意欲のある人が
もっと働けるように、制度や環境を整備しよう、という話しなんです。

【今後、具体的にどういうことが議論されるのか?】
年内は次のような議論が柱となります。
▼70歳まで働けるよう制度を整備する。
現在、企業は、希望する人は全員、65歳まで雇用する義務がありますが、
さらに70歳まで、働く機会を確保するよう企業に求める法改正を行う。

そして、これとセットになっているのが、
▼年金の受給開始年齢の上限の引き上げです。
現在、年金の受け取りの開始は、
60歳から70歳までの間で
本人が自由に選べるようになっていて、
後からもらいはじめるほど、年金の額は増えます。
これを、もっと後まで、
たとえば75歳ぐらいまで引き上げることなどを検討する予定なんです。

▼そして、さらに、働きながら年金をもらうと、年金が減らされる
 在職老齢年金制度の見直しです。
この制度は、年金と賃金の合計が一定額を超えると
年金がカットされるという制度なんです。
その結果、年金がカットされないように、
高齢者が仕事を減らして調整してしまう、として批判されています。
高齢者にも、フルタイムで働いてもらえるように
制度を見直すことにしています。
会議では年内にも中間報告をまとめ、
こうした項目について来年の法改正を目指すとしています。

【そうすれば、社会保障は大丈夫なんですか?】
そういうわけにはいきません。
支え手を増やすことは重要ですが、膨れ上がる社会保障費にはまだ足りない。

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75歳以上の医療の窓口負担や、介護サービスの自己負担、
このいずれも1割から2割に引き上げたり、という
負担増や、給付減、という痛みを伴う見直しも議論は避けられない。
そうでないと、結局、若い世代に負担を先送りすることになる。

全世代型、とわざわざ名乗るなら、
議論を逃げてはいけないと思います。
次の大きな焦点です。

(竹田 忠 解説委員)

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