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「どうなる?医療費の負担」(くらし☆解説)

堀家 春野  解説委員

「花粉症の薬は全額自己負担にすべきだ」。先日、医療費に関するこんな提言がまとまり
波紋が広がっています。政府は、この秋から医療費の負担について議論を本格化させます。
担当は堀家春野解説委員です。

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(衝撃の提言とは)。
Q)花粉症についての提言、驚きました。
A)この提言は大手企業の従業員が入る健康保険組合連合会がまとめました。

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花粉症の薬についてドラッグストアなどで購入できる薬と同じ成分の薬は医療保険の対象から外すべきだとしているんです。背景には最近、市販薬でも同じ成分のものが手に入るようになっていることがあります。提言が実現すると最大で年間600億円の医療費の削減が見込まれるとしています。通常、医療機関の窓口では、かかった医療費の1割から3割を負担します。これに対してドラッグストアなどで薬を購入すると全額自己負担です。例えば、1000円の薬、医療機関で処方を受けると、自己負担が3割の場合ですと300円。一方、ドラッグストアでは全額自己負担で1000円になります。

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Q)負担が増えるのは困る気もするんですけど。
A)ネットなどでも「10割負担はキツイ」とか、「毎日使うのに破産する」といった意見があがっています。ただ、この提言、負担が増えるように見えますが、実は必ずしもそうではなさそうです。

Q)どういうことですか?
A)提言の内容をよく見てみると、保険適用を外すべきだとしている花粉症の薬は初期や軽い症状の患者に使われる薬ですべての花粉症薬ではないんです。そして、薬にかかる自己負担だけでなく医療機関にかかった際のトータルの医療費との比較を出しています。

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14日分の花粉症薬について見てみます。その場合、薬代だけでなく、診療にかかる初診料などを含めると6000円余り。3割負担だとすると自己負担の額は2003円になります。これに対して薬だけをドラッグストアで買った場合、多くても2036円になるというんです。

(医師会は反対)。
Q)費用をトータルで比較すると自己負担の額そんなに変わらないというわけなんですね。
A)この提言に対し日本医師会は批判しています。

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「患者が受診をがまんし重症化してしまうことが懸念される。医療上必要な医薬品は保険の対象とすべきだ」としているんです。
現場の医師にも聞いてみました。「風邪は万病のもとともいわれている。診察をしないと重い病気を見逃すおそれも出てくる」という声がある一方で、「薬をもらわなきゃ損とばかりに必要以上の薬や湿布を要求する患者もいて困っている。提言は医療費について考えるきっかけになるのでは」と話す医師もいました。こうした提言を行っているのは、実は健保連だけではないんです。医療の専門家も花粉症や、整腸剤といった市販薬と同じ成分の薬は保険の対象から外すべきだという提言をまとめています。

Q)なぜこうした医療費についての提言が相次いでいるんでしょうか。
A)背景には2つの理由があります。ひとつは高齢化に伴う医療費の増加です。

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現在およそ40兆円の医療費が2040年にはおよそ67兆円になる見通しです。医療費というとつい窓口で支払う自己負担の額だけで見てしまいがちですが、公費や保険料の負担も増えることになります。一人ひとりの保険料は所得によって異なりますが、健保連によりますと、今年度の1人当たりの保険料は、本人負担分でおよそ2万円。昨年度より390円増加しています。年金生活の人や非正規で働く人などが入っている国民健康保険の保険料も年々増える傾向で、全国の平均で7400円。2025年度には、健康保険組合の保険料は2万4000円余り、国民健康保険の保険料は8100円になるという推計もあります。いずれにしても医療費の増加は保険料に跳ね返ることになります。

Q)徐々に保険料が上がっているという実感、確かにあります。
A)そうですね。そして、医療費に関する提言が相次いでいるもう一つの理由が、医療の進歩でこれまで想定していなかったような高額な薬が次々と登場しているということです。

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ことしも3000万円を超える白血病などの治療薬が話題になりました。これまで治らなかった病気が治るわけですから恩恵は大きいものです。今のところ対象となる患者数が限られていたり、対象者が増えると価格が引き下げられたりしていますので直ちに医療保険財政に影響が出る状況にはなっていないと思います。ただ、今後も画期的な高額薬は登場してくると見込まれています。そして高額療養費制度といって過度に患者の自己負担が重くならないよう負担の上限が決められている制度もあります。ですので、このままでは医療保険財政がもたないのではないかという懸念が出ているというわけなんです。

Q)負担が軽くなるに越したことはありませんが、制度が続くのか心配です。
A)そうですね。日本では効果と安全性が確認された薬は全て保険適用されるんですが、海外では公的保険でカバーする薬を絞る、自己負担の割合を変えているというところもあるんです。例えば、フランスでは、抗がん剤など代替する薬がない高額な薬の自己負担はゼロ。胃薬などは35%、ビタミン剤などは全額自己負担になっているんです。

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Q)なぜ負担する割合を変えているんでしょうか。
A)国民が連帯して守っている公的な制度ですので、薬の有効性や費用対効果など医療上の利益を評価したうえで、重要な薬については自己負担の割合を軽くする。
そして、さほど重要ではないと判断したものについては自己負担の割合を重くしているんです。例えば日本で広く使われているアルツハイマー病に対する薬でも、フランスでは医療上の利益が不十分だとして保険の適用から外しているんです。

Q)国民から反発は出ないんでしょうか。
A)フランスの医療制度に詳しい専門家によりますと、他の国の制度について全て国民が担率だというと驚かれるということです。医療制度はそれぞれの国で異なりますが、高齢化や医療の高度化が進む中でどうやって制度を維持していくのかは共通の課題なんだと思います。

Q)これから医療費の負担どうなるんでしょうか。
A)厚生労働省の部会などではこの秋から医療費の負担をどうするのか議論が本格化します。

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薬の自己負担のほかに、75歳以上の高齢者の窓口負担をいまの1割から引き上げるのかといった項目が議論される見通しです。これは、保険料の負担が増えているように現役世代の負担が重くなっているという背景もあるんです。医療費の増加や、相次ぐ高額薬の登場など医療を取り巻く環境は変わっています。医療の負担を誰がどう担うのか。医療保険の対象を重い病気に重点化するのか、それとも軽い病気も含めこれまでどおりとするのか。幅広い議論が必要だと思います。

(堀家 春野 解説委員)

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