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「止まらない風疹流行 使いましたか?クーポン券」(くらし☆解説)

中村 幸司  解説委員

2018年から続く風疹の流行がなかなか止まりません。今回は国が始めたクーポン券を使った新たな対策についてです。

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◇クーポン券とは
下の写真がその「クーポン券」です。これは渋谷区のものです。

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2019年の3月以降順次、自治体から封筒で郵送されてきています。
クーポン券は、いわゆる「無料券」です。

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風疹の対策としては、免疫があるかどうかを調べる「抗体検査」を受けて、その結果、免疫が十分ない人は「ワクチン接種」をします。

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国の新しい対策では、この抗体検査やワクチン接種をクーポン券があれば、原則無料で受けられます。
対象は、昭和37年4月2日生まれ(2019年9月現在、40歳)から、昭和54年4月1日生まれ(57歳)までの男性です。
というのも、この年代の男性が、流行の中心になっているのです。

◇風疹の流行状況
下の図が患者の数の推移です。

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2018年からの流行で9月11日現在で5000人以上が報告されています。2013年以来の流行です。
風疹は、感染しても多くの人は後遺症もなく治ります。怖いのは、妊娠している女性が感染して、おなかの赤ちゃんが病気になる「先天性風疹症候群」です。2013年前後で、45人が報告されましたが、今回の流行でも3人の赤ちゃんが先天性風疹症候群と診断されました。

◇先天性風疹症候群という病気
先天性風疹症候群の症状としては、白内障など目の病気、難聴があります。心臓の疾患は、心臓から全身に血液を送る動脈と肺の動脈がつながったままになる「動脈管開存症」という病気が多く報告されています。心臓や肺に大きな負担がかかる病気で、手術などによる治療が必要になります。

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妊娠1か月で母親が感染すると、赤ちゃんの50%以上が先天性風疹症候群になるとされています。2か月で35%、妊娠4か月でも、8%です。

◇先天性風疹症候群を防ぐには
おなかの赤ちゃんを先天性風疹症候群から守るには、何が必要でしょうか。

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まずは、女性が十分な免疫を持つことが大事です。ただ、ワクチンを接種しても十分な免疫ができない人がいるなど、女性側の対策だけでは防ぎきれません。限界があるのです。
そうなると、流行そのものを抑えることが大切です。いまの流行は、40~50代の男性が中心です。男性から女性に感染することにないようにする必要があるわけです。

◇40~50代男性に患者が多い理由とクーポン券
なぜ、この年代の男性に患者が多いのでしょうか。それは国の予防接種制度と関係しています。下の図は国の制度でワクチン接種を受けた回数です。

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今は、1歳と小学校入学前にワクチン接種を受けるので、小学生以降は、2回受けています。
ただ、以前は予防接種の制度がいろいろ変わったので、29歳より上は1回です。
中でも40歳から57歳の男性は、接種の機会がありませんでした。
これより上の年代も接種の機会がありませんでしたが、風疹の流行を何度も経験しているので、免疫を持っている人が多いと考えられています。

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免疫を持っている人の割合を男女別・年代別にみると、ほかの年代は90%近くないし、90~95%以上あるとされています。しかし、40歳から57歳の男性は80%と低いのです。風疹は感染力が強いため、80%でも流行の要因になってしまいます。
そこで国は、この男性に免疫を持ってもらおうと、クーポン券を郵送する対策を始めたのです。

◇クーポン券による対策の状況
クーポン券を使った対策はうまく進んでいるのでしょうか。実はそうとは、言えない状況です。

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2019年6月末現在で、クーポン券の配布を受けた人のうち、クーポン券を使った人は、数%程度にとどまっているとみられています。
少ない理由は、はっきりとはわかりませんが、仕事で時間がさけない人が多いということや、「風疹の対策は、自分だけでなく、赤ちゃんを守るために必要だ」ということが広く理解されていないためではないかといった指摘があります。

◇クーポン券の利用を増やすにはどうするか
クーポン券の利用を増やすため、国が呼びかけているのが、職場の定期健康診断の活用です。

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クーポン券を持っている人は、健康診断のときに抗体検査を受けられるよう、企業側に協力してもらうというものです。これができれば、手軽で、クーポン券の利用が大幅に増えることが期待できます。
ただ、健康診断に組み入れた企業は、まだ少ないのが現状です。手続きもいろいろ必要なので、実現するには、企業側の理解や社員の協力がなければなりません。
今回の流行では、「職場で感染が広がっているケースが多い」という報告もありますので、「社会的責任」と受け止めて取り組んでほしいと思います。

クーポン券利用を増やすために必要なことのもうひとつは、クーポン券の使い方を知ることだと思います。

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クーポン券は、住んでいる自治体から送られてきますが、全国どこでも使うことができます。仕事の途中、時間を作って職場近くの医療機関で受けることもできるのです。ただ、クーポン券が使えるのは、全国の半分くらいの医療機関ですので事前に確認してほしいと思います。
クーポン券は、
▽昭和47年4月2日生まれ(47歳)から昭和54年4月1日生まれ(40歳)までの男性と、
▽それより上、昭和37年4月2日生まれ(57歳)から昭和47年4月1日生まれ(47歳)までの男性という段階に分けて郵送されます。
2019年度は40歳から47歳、47歳から57歳には2020年度以降、送られる予定です。
ですから、例えば50歳の男性は、2020年度まで待たないとクーポン券が届かないことになりますが、自治体に連絡すれば、前倒ししてクーポン券を送ってくれます。
この機会に送ってもらうようにしてはどうでしょうか。
厚生労働省は、自治体の作業などが集中しないよう、段階的対策を進める計画ですが、効果を上げるために、さらに工夫できないか検討してほしいと思います。

◇クーポン券対象外の人の対策
クーポン券対象でない年代は、免疫を見っている人がおおむね90%以上ということでしたが、その年代にも10%ないし数%、免疫がない人はいます。このため、クーポン券の対象にならない人にも対策が必要です。

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例えば、29歳から40歳の世代は、ワクチン接種の機会は1回ありましたが、このときの接種率が低かったとされています。特に30代の男性は、40~50代の男性ほどではないですが、免疫を持たない人が多いとみられています。

こうした年代の人が抗体検査やワクチン接種を受けようとすると、クーポン券はないですから、自分で負担することになります。

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ただ、多くの自治体では、抗体検査を無料で行ったり、ワクチン接種の費用を補助したり、する制度を設けています。自治体によって様々ですが、対象は妊娠を希望する女性をはじめ、男性についてもそうした女性のパートナーや同居している男性などを対象にして、無料、あるいは費用を一部補助してくれます。どういった制度があるのかは、お住いの自治体に確認して下さい。
ただ、妊娠中の女性はワクチン接種を受けられないので注意してください。

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大切なのは、自治体の制度なども利用して、世代や性別にかかわらず風疹の対策を徹底することだと思います。

風疹は、これまで対策が取られてきましたが、繰り返される流行を止められませんでした。おなかの赤ちゃんを守るために、抗体検査とワクチン接種を徹底して行い、

「今度こそ、風疹の流行を最後にする」

それに向け、一人一人が行動しなければならないと思います。

(中村 幸司 解説委員)


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