「年金はどこまで下がるか?」(くらし☆解説)
2019年08月28日 (水)
藤野 優子 解説委員
くらし☆解説。テーマは「年金」です。政府は今月27日、私たちが将来受け取る年金額の見通しを公表しました。藤野 優子 解説委員です。
【厚生年金、国民年金はどこまで目減り?】
政府が5年ぶりに公表した内容をみると、少子化などで今後徐々に年金の水準は下がっていき、およそ30年後には厚生年金はおよそ2割、国民年金ではおよそ3割、年金が目減りするという見通しになっている。
【年金の水準は「所得代替率」で評価する】
年金の水準をみるときは、「所得代替率」という指標を使う。
これは、現役世代の男性の平均の手取り月収に対して、夫婦二人の年金の合計額の割合を計算したもの。その時代時代の生活水準に見合った年金になっているかをみるための指標。
今回政府は、様々な経済前提のケースで試算を行っているが、ここでは、このうち順調に経済成長し、働く女性や働く高齢者が増えたケースをとりあげる。
【厚生年金の給付水準の変化】
夫が40年間厚生年金に加入して、妻は40年専業主婦というモデル世帯のケースの年金の水準をみてみる。
今年度65歳で年金を受け取り始める夫婦の場合、夫婦二人のひと月の年金額はおよそ22万円。これは、今の現役世代の男性の平均的な手取り収入の62%にあたる。
これが、2047年度に65歳になる夫婦(今年37歳の夫婦)になると、ひとつきの年金額は24万円になり、その時代の現役世代の男性の手取り収入に対する割合は51%に下がる見通しになっている。年金の水準、所得代替率は62%から51%にさがり、2割ほど目減りすることになる。そして、2047年度以降は51%の水準が続くとしている。経済状況などの変動があるので、実際の手取り収入や年金額は変わってくるが、ここでポイントなのは、現役世代の収入に対する所得代替率がここまで下がるということ。
【国民年金の水準】
夫婦ともに40年間国民年金に加入して保険料もしっかり納めてきたという世帯のケースでみていく。
今年度65歳になって年金を受け取り始める夫婦の場合、二人分の年金額はひとつき満額で13万円。いまの現役世代の男性の平均手取り収入の36%にあたる。
これが2047年度から受け取り始める夫婦だと二人分で12万4000円に。その時代の現役男性の平均的な手取り月収と比べると、その割合は26%までさがってしまう。
つまり、国民年金の水準は3割ほど下がることになる。
【なぜ、ここまで下がる?】
2004年の年金制度の改正で、政府は、働く人の減少などに合わせて、年金額を徐々に目減りさせる仕組みに変えたから。
実は2004年より前の制度は、年金の受取額を優先的に決めて、財源が足りなくなるとそのつど現役世代の負担する保険料を上げていた。
しかし、高齢者が増え、少子化も進むのに、このやり方では現役世代や企業の保険料負担が重くなりすぎると反発が出た。それで、2004年の制度改正で、保険料の引き上げを一定までに抑えて、年金額の方を徐々に下げていく制度に変えた。つまり負担の抑制を重視するようになった。
【今の高齢者の年金も目減りする】
実は、今の高齢者の受け取る年金も徐々に目減りしていく仕組みになっている。年金を受け取り始めた後も、目減りしていく。
例えば、先程紹介した、夫が40年厚生年金に加入していたサラリーマンで、妻が40年専業主婦の夫婦の場合、今の65歳は、現役男性の平均的な手取り月収の62%の年金(およそ22万円)といったが、この夫婦が90歳になると(2044年度)42%にさがり、受取額も今の物価の水準に置き換えると19万1000円になる見通し。
国民年金の人も、今年65歳で受け取り始めの夫婦は満額でも13万円。これが90歳の時には二人で10万円になる。(一人だとその半分)
このように、すべての人の年金が今後30年近く徐々に目減りしていく見通し。
年をとっても働き続けられる人や貯えがある人もいるが、そうした人ばかりではない。先日も、老後の資金が数千万円足りないという話も出たが、今でさえも、国の年金だけで暮らしている人は高齢世帯の半数を超えている。
特に、国民年金は、低所得で保険料未納の期間があった人が多く、満額の年金を受け取れていない人が多い。今は非正規やパートで働く人も増え、今後は一人暮らしも増える。そうなると、低所得になる高齢者が増えると懸念されていて、政府も今後新たな対策をとろうとしている。
【政府の対策・低年金低所得者への給付金】
ひとつは、今すでに低年金で低所得になっている高齢者に、新たな給付金を出そうというもの。今年10月から消費増税の財源を使って実施される。
前の年の年収(年金を含む)がおよそ78万円以下(国民年金満額以下)で、世帯全員が住民税非課税となっている高齢者に、ひと月最大で5000円の給付金を出そうというもの。対象者は970万人。
ただ、これは、保険料を納めた期間に比例して金額が高くなる仕組みになっているため、保険料未納になっていた時期が長い人は、これよりだいぶ少ない額になってしまう。
この給付金が、所得の少ない高齢者の生活をどの程度支える効果が出るのか、検証したうえで、将来的には増額も必要になるのではないかと私は思う。
【政府の対策・パート労働者の厚生年金適用拡大を検討】
もうひとつは、今まだ現役世代の人たちのための対策。
パートなどで働く人に、より年金額の多い厚生年金にもっと加入してもらえるようにと、政府は厚生年金の加入基準の見直しを検討している。これは、来年の年金改革の柱になる見込み。
もともと国民年金は、定年がない自営業の人のための年金で、生活費を補助するという考え方でつくられた年金で、企業が負担する分の保険料もないため、受取額が厚生年金よりも少ない。
ところが今は、パートなどで働いているために厚生年金に加入できない人たちが国民年金に入っていて、今や国民年金の加入者の4割は会社勤めの人になっている。こうした人たちは退職金もなく、老後の年金が少ないままだと生活が苦しくなる。
このため政府は、パートで働いていても、会社勤めの人のための厚生年金に入れるよう加入基準をかえて、将来の年金額を底上げしてもらおうとしている。
具体的な中身はこれから政府・与党で議論が行われるが、厚生年金の加入基準のうち「企業の規模(従業員数)」や「月収」の条件を下げる方向で検討され、年末までに改正案がまとまる見込み。企業にとっては、保険料の負担が増えることになるので、中小・零細企業への支援は必要になると思うが、年をとって生活できなくなる高齢者が増えるのを防ぐために、会社に雇われて働いている人は、最終的にはみな本来の厚生年金に入れるように、今回の改正で、段階的に対象者を広げていく道筋をつけてほしいと思う。
(藤野 優子 解説委員)
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