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「アフリカの自立と成長を支える」(くらし☆解説)

出川 展恒  解説委員

日本政府などが主催する「第7回TICAD・アフリカ開発会議」が、あすから、横浜市で開かれます。きょうは、アフリカでのビジネスを通して、現地の自立と成長を支えている日本の企業や若い起業家の取り組みをご紹介します。出川展恒(でがわ・のぶひさ)解説委員です。

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(岩渕)
TICAD・アフリカ開発会議は、もう7回目となるのですね。

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(出川)
はい。TICADは、日本政府、国連、アフリカ連合委員会などが共同で開く、アフリカの開発と成長を支えるための国際会議で、アフリカ各国の首脳や閣僚が一同に集います。TICADが始まった当初は、政府主導でアフリカの開発を援助するという色彩が強かったのですが、民間部門の役割が次第に高まりました。今回7回目は、ビジネスを重視し、アフリカへの日本企業の投資を促進すること。日本の技術を生かした産業や人材を育てることが主要なテーマです。
具体例な取り組みを紹介します。まず、こちらのバッグをご覧ください。

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(岩渕)
鮮やかな色合い、そして、斬新なデザインですね。

(出川)
はい。アフリカ中部の国ウガンダでつくられたものです。現地の色鮮やかな布地を材料に、バッグや服を製造し、日本で販売する会社を立ち上げた女性起業家がいます。静岡県出身の仲本千津(なかもと・ちづ)さんです。仲本さんは、国際NGOの職員として派遣されたウガンダのマーケットで、この布地に出会い、これを使ってバッグを作れば、きっと日本でも売れるだろうと直感したということです。

【仲本千津さん】

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「もう1つは、1人のシングルマザーに出会ったことです。彼女は4人の子どもを抱えて、定期収入がなかったことから、子どもたちを学校に行かせることができなかった。でも、すごくやる気があって・・・そういった人たちが輝ける場所があればと思って、この会社をやることに決めました」。

仲本さんは、4年前、貯金をすべてつぎ込んで、ウガンダに工場をつくり、現地のシングルマザーを中心に、およそ20人を雇って、バッグや服を手作りで製作しています。現地の人たちには、直線や垂直といった概念がなく、まっすぐに縫うことの意味を一から指導するなど、苦労があったと言います。日本での販売は、静岡に住む母親の律枝(りつえ)さんがサポートし、ネット販売を軌道に乗せることができました。今年は、東京・代官山に直営店も立ち上げました。

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(岩渕)
ビジネスとして、うまく行っているのでしょうか。

(出川)
はい。仲本さんは、「利益も出るようになって、雇っている女性たちの暮らしが向上し、自信を持って生きている様子が感じられる。ウガンダだけでなく、周辺国にもビジネスを拡げたい」と抱負を語っています。

【仲本さん】
「紛争が繰り返し行われている状況、そういう不安定なところに、仕事を生み出す、雇用を生み出すことって、すごく大事だと思っています。そういう不安定な地域にこそ仕事を生み出して、社会の安定化につなげてゆきたいなと思っています」。

次に、こちらの品物を見てください。

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(岩渕)
照明器具ですか。

(出川)
そうです。LEDを使った携帯型の照明器具(LEDランタン)です。タンザニアで、これを普及させるビジネスを進めているのは、茨城県出身の秋田智司(あきた・さとし)さんです。
タンザニアでは、人口の7割が電気の届かない地域で生活しています。夜になると、店は閉まり、多くの家では、ろうそくや灯油ランプを明かりにしています。火の不始末による火災や、煙で呼吸器疾患になる人も多いと言います。秋田さんは、夜、明かりがあれば、店が営業できるし、子どもたちも家で勉強できる。家族そろって夕食も楽しめると考えました。専門家のアドバイスを受けて、たどりついたビジネスは、LEDランタンをレンタルで普及させるというものでした。

(岩渕)
それはどういうことですか。

(出川)
電気が届かない地域の人たちはとても貧しく、自家発電機はおろか、LEDランタンを買うことはできません。このため、全国各地にある「キオスク」と呼ばれる日用品を売る店と連携して、太陽光パネルで充電したLEDランタンを、日本円で1日25円ほどの価格でレンタルするビジネスを始めたのです。払った代金に応じて、LEDランタンが使用できるよう設計されています。この試みは当たりました。

【ユーザーの子ども】
「ランタンのおかげで夜でも勉強できる。一生懸命勉強して医者になりたいな」。

4年半前に営業を始めた秋田さんの会社は、現在、120人以上の現地スタッフを雇い、ビジネスを拡大しており、今月、関西電力と業務提携することで合意しました。

(岩渕)
秋田さんの会社もうまく行っているようですね。今後の計画はどうなのですか。

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(出川)
はい。秋田さんは、「この電力サービスを、タンザニア以外の国でも展開したい。キオスクを活用したネット通販も手掛けたい。とにかく、現地の人たちに寄り添い、現地の人たちが輝ける会社にしたい」こう話しています。

次は、人々の暮らしの根幹ともいえる健康と保健衛生に直結するビジネスを、ウガンダで展開している日本企業です。こちらのボトルをご覧ください。

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(岩渕)
ラベルが英語で書かれていますね、薬品ですか。

(出川)
はい。日本でも普及している、アルコールを使った手や指の消毒剤です。大阪に本社があるメーカーが、5年前、ウガンダに現地法人を設立し、この消毒剤の生産と販売を行っています。
ウガンダでは、衛生環境に問題があり、5歳未満の乳幼児の死亡率は、3年前の時点で1000人中53人と、日本のおよそ20倍です。その半数は、正しい手洗いによって予防できると指摘されています。ウガンダで生産されるサトウキビを原料に、日本の技術や品質管理のノウハウを活用して、アルコール消毒剤の生産を進めてきました。これは、現地の雇用拡大にもつながります。
さらに、この企業は、ウガンダの子どもたちを対象に、手洗いに関する教育・普及活動を続けているほか、病原菌が、医師や看護師の手から患者に感染するケースが多いことに着目し、病院内でアルコール消毒の徹底を図る活動も進めています。

(岩渕)
こうした取り組み、効果はあがっているのですか。

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(出川)
国連などによりますと、トイレのあと石けんで手を洗う人の割合が、この10年間で3倍近くに増えました。また、5歳未満の乳幼児の死亡率は、いぜん高いものの、こうした取り組みが始まる前の10年前と比較すると、6割に下がったということです。

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社長の更家悠介(さらや・ゆうすけ)さんは、「『手洗いこそ衛生の基本』との信念を持ち、これからも、ウガンダを始め、アフリカの人々の衛生向上に取り組んでゆきたい」と話しています。

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ここまで、3つの例を紹介しましたが、アフリカの人々の暮らしを支える取り組みをしている企業は年々増えており、仲本さんや秋田さんのように、個人でスタートさせ、成果を挙げている例もあります。動機づけと熱意、知恵と戦略があれば、小さな企業でも成功できると思います。仲本さんが述べていた「現地に雇用を生むビジネス」、秋田さんが述べていた「現地の人たちに寄り添ったビジネス」というのは、今後の日本のアフリカ支援にとって、まさにキーワードだと感じました。

30日まで開かれるTICADでは、民間企業やNGOも参加する公式のサイドイベントが数多く予定されています。われわれ市民が、アフリカにとって何ができるかを考える良い機会になると思います。横浜の会場に足を運んでみれば、理解を深め、行動を起こすきっかけになるかもしれません。

(出川 展恒 解説委員)

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