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「広がる?『ワーケーション』」(くらし☆解説)

堀家 春野  解説委員

東京オリンピックまで1年を切りました。交通混雑を緩和しようと職場に出勤しないで自宅などで仕事をする動きが広がっていますが、さらに一歩進んだ働き方が始まろうとしています。
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【“ワーケーション”とは】。
Q)。一歩進んだ働き方ってどのようなものなんでしょうか。
A)。その名も“ワーケーション”。 “ワーク”と“バケーション”、つまり仕事と休暇を組み合わせたものです。働く場所、通常は会社ですが、最近広がってきているのが、自宅などで働く“テレワーク”。そして、この“テレワーク”が発展した形で、自宅に限らず観光地などで働くのが“ワーケーション”です。背景には情報通信技術の発展で、パソコンがあれば場所にとらわれず仕事ができるようになったこと。そしてインターネット環境を備えたコワーキングスペースが増えてきたことがあります。
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Q)。 “ワーケーション”はテレワークの発展形ということですが、ちょっと想像がつかないです。どのような働き方なんでしょうか。
A)。様々なパターンが考えられるんですが、仕事をメインに考えると、観光地で通常通り日中は仕事をして、仕事を終えた後、夕方からバカンスを楽しむ。そして出張先で土日や追加の休みをつけて遊ぶといった方法があります。休みをメインに考えると、長期の休みの合間に少し仕事をするといった方法もあります。この場合、働いた時間は業務として認められ報酬も支払われます。古くは、文豪が温泉地で缶詰になって、温泉でリフレッシュしながら作品を仕上げていました。日本でも“ワーケーション”があったといえるかもしれません。
Q)。昔は作家の人だけだったのかもしれませんが、いまは通常の会社員まで対象が広がっているということなんですね。でもなぜいま“ワーケーション”という働き方が出てきているんでしょうか。
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【働きかけは自治体から・・・】。
A)。タイミングとして東京オリンピック・パラリンピックが迫っているということがあります。交通混雑を緩和しようと政府は“テレワーク”を進めています。“ワーケーション”もその一環として考えられると思います。そして、もうひとつの理由が“地方創生”です。
 “ワーケーション”を呼び込もうと全国の自治体が協議会をつくることになり、今月、署名式が行われました。40の自治体が参加する見込みです。背景には人口減少が進む中、多くの人に訪れてもらい、地域と交流してもらおうという狙いがあるんです。これまで、自治体は地元に戻ってきてもらうUターンやIターンなどの移住政策に力を入れてきました。しかし、移住というとなかなかハードルが高いという面があったのも事実です。まずは、定住に至らないまでも地域に関わる「関係人口」を増やしていこうとしているんです。
そこで注目したのが日本人が休みベタだということなんです。
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Q)。あまり休みたがらないということですね。
A)。そうなんです。有給休暇の取得が少なく、半数以上の人が休むのにためらいを感じているという調査もあります。その理由は、「みんなに迷惑がかかるから」「あとで忙しくなるから」といったことです。この4月からは働き方改革で企業に対し従業員に年5日の有給休暇を取得させることが義務付けられました。
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こうした制度の見直しを追い風にして、自治体側は「観光地で働くことで休みも取りやすくなる」。こう呼びかけているわけなんです。実際に“ワーケーション”を体験してもらおうという試みも行われています。
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【長野・駒ヶ根市で“ワーケーション”ツアー】。

7月下旬、長野県駒ヶ根市で “ワーケーション”のツアーが行われました。参加したのは首都圏に住む会社員やフリーランスで働く5人。標高およそ2600メートルの中央アルプスにあるホテルで“ワーケーション”を体験しました。
参加した男性は、「環境的に大丈夫かなと思ったら、電波も通じて問題はありません。
景色が良くて空気もきれいで、仕事に集中しやすいです」と話していました。
今回のツアーは3泊4日で、特産のアスパラガスを収穫するなど農家の方との交流も楽しんだということです。参加者の中には、「普段、旅行は思い立たないとなかなか行けないが、仕事とセットだとハードルを感じず観光も楽しめた」と話す人もいました。

【先進地は和歌山県】。
この“ワーケーション”、呼び込みを真っ先に始めたのは和歌山県です。県庁にはワーケーション・コンシェルジュが常駐して、相談に応じたりプランの作成を行ったりしています。
平成30年までの2年間に全国から49社の567人がワーケーションを体験しました。
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Q)。うまくいっているようですが、成功させるカギは何でしょう。
A)。ポイントは3つあるといいます。
まずネット環境などが整ったワーキングスペースや宿泊場所があること。そして、
▽観光資源などの地域の魅力。3つ目は、▽リピートしてもらうためのしかけだといいます。
Q)。しかけですか。
A)。観光だけだと1回来て終わりということになりかねません。ですので、繰り返し来てもらうような工夫が必要だということなんです。“ワーケーション”の参加者に特に人気だったのは、世界遺産の熊野古道の道を修繕する「道普請」に参加してもらうことです。いま、特に若い世代は地域貢献などに興味を持っている人が少なくありません。そうした人たちの心に響くしかけだったのだと思います。
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【“ワーケーション”導入企業も】
Q)。自治体が熱心なのはわかりましたが、広がるんでしょうか。
A)。企業側の対応にもかかっていると思います。実際、休みをとりやすいような環境をつくろうと“ワーケーション”を制度として取り入れている企業もあるんです。日本航空はおととしこの制度を導入しました。勤務を申請する際にも、“ワーケーション”という項目が設けられています。▽出張先で、追加で休暇をとることや▽長期休暇の合間に仕事をすることを認めているということなんです。実際、海外旅行中に“ワーケーション”をしているという社員もいるということなんです。
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Q)。休み中も仕事をすると休んだ気にならないのではないでしょうか?
A)。そこも課題だと思います。会社側によりますと、これまでは仕事が気になってそもそも休みを取らないという人がいたそうなんです。ですので、まずは休みをとってもらうことが重要だとしてどうしてもやらなければならない仕事は会社に来なくても休暇先でできるような制度を整えたと説明しています。長期休暇のあと仕事のメールが大量にくると、かえって忙しくなるので休みをとりにくいという声もあったそうなんですが、ワーケーションを利用することでそうした不安も解消できるのではないかと話しています。
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【課題は】。
Q)。仕事も気になるんでしょうけど、“ワーケーション”を導入することで、休暇が充実したものになるといいですね。
A)。そうですね。休みが取りやすくなるのではといった声がある一方で、休みと仕事のメリハリがつきにくいとか、勤務管理が難しく逆に長時間労働になってしまうのではないかといった指摘もあります。休みを取るはずだったのにどこでも仕事ができる環境だからといって仕事をついし過ぎてしまうと本末転倒になってしまいます。働き方改革と言われていますが、休みを大切にするという意識の改革も欠かせません。“ワーケーション”という新しい働き方が広がるのか、注目したいと思います。


(堀家 春野 解説委員)

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