NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「全市に避難指示~どこへ逃げたらいいの?」(くらし☆解説)

松本 浩司  解説委員

熱帯低気圧が台風に変わってあすからあさってにかけて東日本に近づく見込みで、大雨に警戒が必要です。きょうは避難情報についてお伝えします。

k190726_1.jpg

Q)毎週のようにどこかで大雨が降って住民に避難が呼びかけられていますが、ちょっと気になるのが「市内全域に避難指示や勧告」が出たというニュース。住民は戸惑うのではないでしょうか?

A)
本来、対象地域を絞り込んで出すのが望ましいのですが、市町村が全域に出すケースはまだ多いんです。西日本豪雨のあと国が全国の市町村に聞いたところ、回答した1割にあたる150市町村が避難勧告などを「全域をひと括りに出す」と答えています。

先月末から今月5日にかけて九州南部を中心に記録的な豪雨がありました。総雨量は1000ミリを超えて、鹿児島県を中心に浸水や土砂災害が相次ぎました。このとき8つの市が市内全域に避難指示や勧告を出しました。一部の避難所に住民が集中して入りきれなかったり、どこに逃げていいのかという市民から戸惑いの声もあがりました。

Q)情報の出し方にルールのようなものはあるのでしょうか?

k190726_2.jpg

A)
ルールはありませんが、国はガイドラインで「住民が危機感を持って避難行動につなげられるよう、対象範囲をできるだけ絞り込むことがのぞましい」としています。今回の豪雨のあと、国はこの考え方をあらためて徹底するよう全国の自治体に通知を出しました。

しかし比較的小さい自治体でほとんどが土砂災害などの危険地域というケースもあります。
また避難勧告を出していないところで被害が出て、批判を受けることを心配して絞り切れないという事情もあると見られます。

市町村を取材すると難しさが見えてきます。今回の豪雨で、鹿児島市も市内全域59万人に避難指示を出したのですが、国のガイドライン通りの方法で段階的に情報を出して、最終的に「市内全域」という出し方になったのです。
鹿児島市は土砂災害について、雨量データなどから250メートル四方ごとにきめ細かく危険度を予測し、市内9地区にわけて避難勧告を出しています。

k190726_4.jpg

k190726_5.jpg

k190726_6.jpg

今月1日、基準を超えた北部の地区から順次、避難勧告を発表していきました。
豪雨の範囲が広がり、結局9地区全部に避難勧告を出しました。その後もさらに豪雨が続くと予測されたため3日、全域に強く避難を促す避難指示を出したのです。

Q)始めから全域に出したわけではないのですね。それでも住民はどこに逃げていいのか困りますよね。

A)
そういう声が多くありました。鹿児島市の担当者は「全域と言っても危険な地域に住んでいる人や危険を感じた人は避難してほしい」という意味だったと説明しています。

k190726_8.jpg

Q)つまり「全域に避難指示」が出ても市民全員が市外に逃げなければいけないというわけではないのですね?

A)
全国を見ると、川が氾濫すると全域が数メートルの深さで浸水すると想定されている市町村もあって、そういうところでは全員、市町村の外に逃げなければいけないという場合もありえます。

ただ今回はそういうケースではありません。鹿児島市内の非常に広い範囲が、きわめて危険な状態になっていましたが、安全な場所もたくさんありました。そうしたところは避難の必要はありませんし、鹿児島市はそうした場所に90カ所の避難所を開設しました。

Q)とすると「全域に避難指示」という言い方は誤解を招くのでは?

A)短い言葉で避難範囲をどう伝えるか、難しいのですが、例えば「市内の、土砂災害や浸水の危険があるすべての地域に避難指示」とか、受け手が迷いにくい情報の出し方を検討する必要があると思います。また、その前提として危険のある地域がどこなのか、普段から市民に知ってもらう努力が欠かせません。

Q)むずかしい問題ですが、どこの市町村にも共通する課題ですね。

A)
本当に危険のある地域だけに避難勧告を出そうと、思い切って「情報の細分化」を進めているところもあります。西日本豪雨をはじめ繰り返し豪雨災害を受けた広島市です。

k190726_10.jpg

k190726_11.jpg

広島市は避難情報を出すエリアを市内に142ある小学校区ごとに細分化しています。そして発表の表現は「A小学校区の土砂災害警戒区域等」、「B小学校区の浸水想定区域」と限定して発表しています。危険度の判定はさきほどの鹿児島市と同様のシステムを使っています。この情報をインターネットやメール、防災行政無線などさまざまな伝達手段で伝えているのです。

Q)
それなら避難が必要な人がわかりやすいですね。でも細分化するとたくさんの情報が出ることにならないですか?

k190726_13.jpg

A)
そこが大きな問題です。西日本豪雨のときメールが鳴りっぱなしの状態になったといいます。自分の地区に関係のない情報も次々と入り、ある地区では災害当日の午後から夜にかけて、市からの情報だけで32回メールが入って必要な情報が埋没してしまったという調査結果もあります。

そこで広島市は登録制の防災メールのシステムを改修しています。現在のシステムでは自分が住む周りのたくさんの小学校区の避難勧告などの情報も入ってくるのですが、自分の小学校区の避難勧告だけが入るようにします。いわば防災情報の「パーソナライズ」で、情報数はかなり減る見込みです。

Q)情報の出し方は市町村によってかなり違いがあるようですが、住民はどうしたらよいのでしょうか?

k190726_18.jpg

A)
まずは、自分が住んでいるところにどういう危険があるのか、ハザードマップを見て知っておくことが前提になります。自宅が土砂災害や浸水の危険のある場所にあったら、どこに逃げたらよいのか避難所やそこへのルートもあらかじめ確認しておく必要があります。

避難所がいっぱいになるということもありえます。親戚や知人の家など身を寄せることができるところを確保することも考えてほしい。

それから自分の住む市町村が避難勧告をどういう範囲に出すのか、広い範囲か、細分化して狭い範囲に出すのかも知っておくべきでしょう。そして「○○地区の土砂災害警戒区域」など勧告が出て、自分のいる場所が対象地域に該当すれば直ちに避難をする必要があります。

仮に「全域」など広い範囲に出された場合はむずかしいが、自分で判断しなければなりません。危険がある区域にいれば直ちに避難。まれにハザードマップの危険区域以外でも災害が起こることがあります。周囲の状況から「危険」を感じたら避難をすることも大切です。

そして、普段からインターネットやメール、防災アプリなどで、必要な最新の情報を受け取ることができるよう準備をしておくとよいでしょう。

Q)スマホや携帯を使えないお年寄りなどはどうたらよいのでしょうか?

A)
広島市のように対象範囲を細分化して、できるだけ個人、個人にあわせた情報を出そうというのは情報ツールが進歩にあわせた流れでよいことだと思いますが、そうしたツールを使えないお年寄りなどにはかえってわかりにくい情報になりかねません。情報から取り残される恐れがあります。防災行政無線の個別受信機など昔からあるシンプルな伝達手段をきちんと整備・維持する必要があります。加えてまわりにいる、情報ツールを使える人がお年寄りなどに情報を伝えて避難を促す、あるいは声をかけていっしょに避難をするなど、支える取り組みがとても大切になってくると思います。

(松本 浩司 解説委員)

キーワード

関連記事