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「緊迫ペルシャ湾 日本への影響は?」(くらし☆解説)

出川 展恒  解説委員

「くらし☆解説」、岩渕梢です。世界のエネルギーが集中する中東のペルシャ湾を舞台に、アメリカとイランの軍事的な緊張が高まっているニュースが連日のように伝えられています。日本にはどんな影響があるのでしょうか。スタジオは、出川展恒解説委員です。

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Q1:
まず、アメリカとイランの軍事的緊張、どういうことでしょうか。

A1:
はい。今年5月、アメリカのトランプ政権は、イランの原油輸出を全面的に停止させることを狙った経済制裁に踏み切りました。原油輸出はイランの国家収入のおよそ3分の1を占めるため、イラン経済は大きな打撃を受けています。トランプ政権は、合わせて、ペルシャ湾に原子力空母や爆撃機を派遣し、軍事的な圧力も強めました。
こうした中、5月半ばから先月半ばにかけて、ペルシャ湾の入口にあるホルムズ海峡の近くで、合わせて6隻のタンカーが、何者かの攻撃を受けて、損傷する事件が起きました。このうちの1隻は、日本の海運会社が運航していたタンカーでした。

Q2:
ホルムズ海峡という地名、このところ、毎日、聞くようになりましたね。

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A2:
はい。ホルムズ海峡は、イランとアラビア半島を隔てる海峡で、最も狭いところでは、33キロメートルしかありません。ペルシャ湾岸諸国が生産した原油や天然ガスを、タンカーで外国に輸出する際、必ずここを通ります。世界のエネルギーの大動脈です。
日本は、このホルムズ海峡を経由して、必要なエネルギーの85%以上を輸入しています。それだけに、ひとたび、ここで軍事衝突が起きれば、エネルギー価格、ひいては、物価や家計など、われわれの暮らしに大きな影響が出るのです。決して、ひとごとではないのです。

Q3:
アメリカとイランが、対立を深めているのはなぜですか。

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A3:
両国は、40年前のイラン・イスラム革命以来、敵対してきましたが、イランの核開発をめぐって関係がいっそう悪化しました。その後、イランに穏健派のロウハニ大統領が登場したことをきっかけに、今から4年前、アメリカなど主要6か国とイランとの間で、「イラン核合意」が結ばれました。これは、イランが核開発を大幅に制限する見返りに、アメリカなど関係国がイランに対する経済制裁を解除する内容です。

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イランは、この合意を完全に守ってきましたが、アメリカのトランプ大統領は、去年5月、合意から一方的に離脱し、イランの原油輸出など標的にした非常に厳しい制裁を科して、圧力をかけています。
これに対し、イラン政府は、対抗措置として、先週、ウランの濃縮度を、核合意で決められた制限の3.67%を超えて引き上げました。これによって、核合意が崩壊するのではないかという懸念が、国際社会に広がっています。トランプ大統領は、イランに対し、さらなる制裁を科す方針を示し、イランの出方しだいでは、武力行使も辞さないと警告しています。

Q4:
日本に住むわれわれの暮らしにどんな影響が出るでしょうか。

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A4:
最も気になるのは、エネルギーの調達と原油価格だと思います。日本の石油会社は、外国企業も対象とするトランプ政権の経済制裁に否応なく巻き込まれ、イラン産原油の輸入をストップしました。ただ、制裁発動前、原油の輸入量に占めるイラン産原油の割合は5%程度にすぎず、他の国に輸入元を切り替えたため、今のところ、エネルギー不足は起きていません。

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しかしながら、原油価格は、ペルシャ湾情勢に敏感に反応しています。日本のタンカーが攻撃され炎上した先月13日から、アメリカ軍の無人偵察機が撃墜された先月20日にかけて、国際市場での原油価格は、一気に10%程度上昇しました。現在は、1バレル60ドル前後で推移しています。

Q5:
そうすると、たとえば、ガソリン価格も影響を受けますよね。

A5:
もちろんです。国内のレギュラーガソリンの平均価格は、先月19日の時点で、1リットルあたり140円台まで上がりました。
その後、情勢が少し落ち着いて、136円台に下がったものの、今月7日、イランがウランの濃縮度を引き上げた後、再び140円台まで上がりました。

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エネルギー問題の専門家は、「ペルシャ湾情勢は、当面の間、原油市場の最大のリスク要因となる。もし、軍事衝突が起きれば、原油価格が急激に上昇する可能性が高い。万一、本格的な衝突に発展したり、長期にわたって続いたりすれば、原油価格が1バレル100ドルを超える水準まで上がることもある。さらに、原油価格の上昇は、ガソリンなどの石油製品だけでなく、広く物価全体、日本経済全体にマイナスの影響を与えるだろう」。このように話しています。

Q6:
それは、どういう理由によるものですか。

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A6:
はい。原油や天然ガスを積んだタンカーが、ホルムズ海峡を安全に航行できないリスクが増えますと、タンカーにかける保険料が高騰します。海運業者は、積み荷にその分を上乗せして、利益を確保しようとするでしょう。こうして、原油や天然ガスの価格が上がりますと、農作物や工場で製品を作るコストや、製品や原材料の輸送費なども上がることになります。また、ガソリンを燃料とする自動車の売れ行きは悪くなるでしょう。このように、原油価格上昇の影響は大きいのです。
ただし、原油価格は、ペルシャ湾情勢以外のさまざまな要因、たとえば、中国経済の減速や、アメリカのシェールオイルの増産などの影響も受けますから、いつまでに、どのくらい上昇するかは、予測できません。しかし、軍事衝突が起きれば確実に上昇し、日本経済全体に影響を与えることになります。それだけに、われわれは、ペルシャ湾情勢から目を離すことはできないのです。

Q7:
そのほか、日本には、どんな影響が考えられますか。

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A7:
先月24日のトランプ大統領の発言が波紋を呼んでいます。ホルムズ海峡の安全確保について、日本や中国を名指しして、「なぜ、われわれは、他の国のために、報酬を得ることもなく、航路を守っているのか。ここを通って石油を輸送する船の安全は、それぞれの国が自力で守るべきだ」。このようにツイッターに書いたのです。
これについて、日本政府は、「現時点で、自衛隊をホルムズ海峡に派遣する予定はない」と説明していますが、今後、現地の状況がさらに緊迫した場合には、何らかの対応を迫られる可能性もあることを示唆しています。

ホルムズ海峡を通る日本のタンカーの安全を誰が守り、その費用を誰が負担するのかという問題は、日米間の高度な政治問題であり、法律上のハードルも高く、そう簡単に結論は出ないと思いますが、参議院選挙後の国会などで、議論となることも予想されます。
現在のペルシャ湾の緊迫した状況は、トランプ大統領が、核合意から一方的に離脱し、イランに制裁をかけたことで、起きたものです。国際社会の一致した努力で、核合意を維持することができれば、緊張は緩和されてゆくと思います。
トランプ大統領も、イランのロウハニ大統領も、「戦争は望まない」と述べていますが、現場レベルで、予期せず、軍事衝突が起きる恐れもあると指摘されています。アメリカとイランの双方と良好な関係を築いてきた日本としては、両国の指導者に自制と、緊張を和らげる行動を働きかける必要があると思います。加えて、エネルギーの備蓄や調達先の分散化を進めることなど、危機に備えた対策を急ぐことも大切です。

(出川 展恒 解説委員)

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